第14話 王都を観よう 1

 今日は城の直ぐ傍にある都、王都の見学に来ている。

 何度か両親に連れられて来たことはあるのだが

 護衛の兵士やら使用人やらが大勢付いて来たのでまるで大名行列のようだった。

 

 一人で歩き回ることは許されなかったので自由に見て周ることができなかったのだ。

 今回はボクとユウ。それに案内役と護衛を兼ねてセバスン・セバスト・ノエラ達。


 少人数だし今回はボク達が行きたいとこに行っていいと言われている。

 少額だがお小遣いも貰っている。


 エルムバーン魔王国は世界的にみても治安のいい国と知られている。

 その王都だけあって王都の治安は安全そのもの。

 それでも小さなスラムはあるし軽犯罪などは起こったりする。

 どれだけ治安がよくても護衛は必須だと両親には言われている。


 王都の人々は多種多様な種族の人で溢れている以外は一見普通だ。

 服装は…十八世紀のヨーロッパ?中世ほど前じゃなく…ダメだよくわからない。

 ユウは十八世紀後半から十九世紀初頭くらいのイギリスあたりじゃない?と言ってるが

 確信は持てないようだ。

 最近流行のファッションにもついて行けなかったボクには難しい。

 

 建築様式は昔の西洋の街といった感じだろう。

 これで種族が人族しかいなかったらタイプスリップしたと錯覚しそうだ。

 

 さて…初めて自由に歩き回れる王都見学だ。

 どこからいこうか…。

 

「ユウはどこか行きたいとこある?」


「ん~とりあえず甘いものが食べたい!あと服とアクセサリーショップ!」


「じゃあ甘いものから買いに行こうか」


「お兄ちゃんは行きたいとこないの?そっちからでもいいよ?」


「ん?ん~ボクも服はほしいな。動きやすい訓練用の服」

 

 最近は魔法の訓練だけではなく体力トレーニングも始めている。

 いや以前から少しはやってたんだけど今は少し増やしている。

 魔神の紋章を活かすためにも体作りは必須だった。

 

「あとは…魔法道具に、武器屋。いや鍛冶屋かな。お父さんに教えてもらったんだけどステファニアさんていう王都で一番の腕の鍛冶師がおすすめだって…」

 

「そこはやめておこう!」

 

 今まで黙って話を聞いていたセバストが話に入ってきて

 ステファニアさんの所はやめておこうと言っている。

 結構必死な感じだ。

 見ればセバスンとノエラも頷いている。

 

「どうして?なにか問題があるの?」

 

「ああ。かなりの問題がな。特にオレがやばい」

 

「? 性格に問題があるとか?」 

 

「ああ…。いや悪いヤツってわけじゃない。むしろいい人なんだろうが…。オレだけじゃなくジュン様とオヤジもやばいと思う」

 

「そうですな…私もできれば行きたくありませんな」

 

「私もです。ユウ様にもあまりいい影響を与えるとは思えません」

 

 あのデキる執事セバスンですらこの反応。

 一体どんな人なんだろうか。

 逆に見たくなる。 

 

「でもお父さんのおすすめだし…将来、武器を作ってもらう時のために顔つなぎしておきたいし。どうせなら一番腕のいい鍛冶師がいいしね」

 

「「二番じゃダメなんですか」」

 

 君らはどこの議員だ…。

 

「どうせなら一番がいいよね」

 

「「そうですか…」」

 

 あからさまにガックリしてる。

 そこまでイヤか。

 

「仕方ありません。セバスト、ノエラ。覚悟を決める時です」

 

「ああ…憂鬱だぜ…」

 

「まぁ、私にはそう被害はないでしょうが…」

 

 覚悟って…。

 まあ納得してもらえたようなので行くとしよう。

 

「じゃあまずは甘いものからだね。ノエラ、御薦めの店に案内をお願い。行こユウ」

 

「かしこまりました」

 

 ノエラの案内でまずは甘いものから買いに行く。

 この世界の食事情は現代地球とさほど変わらない。

 名前が若干違ったり形が少々違う野菜や果物もあるが

 あまり違和感なくなじむことができた。

 

 食事情で最も違う点は魔獣の肉や卵等が店に並んでたりする事だろうか。

 魔力を持った魔獣の中には大変美味な肉をもったものもいる。

 ゆえに魔獣の肉が食卓に並んだりするのだ。

 ボクも食べたことがあるが普通に旨かった。

 

「ん~!!!美味しいぃ!」

 

「ええ。ここは私のお気に入りの御店です。あ、このお菓子は御薦めですよ」

 

「美味しそう!それも食べるぅ!」

 

「セバスン達もどう?美味しいよ」

 

「ありがとうございます。ジュン様。頂きます」

 

「ありがとよ、ジュン様。オレはお菓子作りの腕はイマイチでな」

 

 うん。美味しい。

 食事情は現代地球とさほど変わらないと言ったが

 もっと言えば少なくともエルムバーン魔王国では現代地球の日本の食卓のようだ。

 洋食・中華・和食と日本で馴染みの料理が出てきた。

 

 服装や建築様式等は西洋風なのに食に関しては現代日本風。

 一体どうなってるんだと思うがそこは元日本人として素直に有難いと思う。

 考えてもその謎は一生解けないと思うし…。

 

「次は服を見に行こうか」

 

「では、服飾店は私の古馴染みの店に御案内しましょう。こちらです」

 

 今度はセバスンの案内で服を見に行く。

 一見、ただ普通に歩いているように見える三人だが

 さりげなくボクとユウを囲むように前と左右について後ろにも気を配っている。

 この三人はボク達の護衛を任せられるだけあって凄腕なのだ。

 セバスンとセバストが格闘術。ノエラが暗器使い。

 

 メイド服を着た暗器使いってどっかで見たような気がするけど

 深く考えないでおこう。

 ノエラにはハマってる感じだし。

 

「ここです。オーダーメイドの服の作成も請け負ってくれる腕のいい主人の店ですよ」

 

「へ~店からして素敵な印象を受けるね。じゃあ入ろうか」

 

「いらっしゃ~い」

 

 店に入ると一人の女性が出迎えてくれる。

 エメラルドグリーンの髪に蒼の瞳、尖った耳。

 とても美人でスレンダーな人。

 もしかしてエルフ?

 

「あらぁ、セバスンさん。お久しぶり~。お元気~?」

 

「ええ、お久しぶりです。シルヴィさん。元気でしたよ」

 

「そっかあ~。セバスト君にノエラちゃんもお久しぶり~。二人も元気そうね~」

 

「おう」

 

「お久しぶりです。シルヴィさんもお元気そうで」

 

「うん~私も元気よ~。ところでそちらは~?」

 

 なんだかのんびりした人だな。

 それにしてもエルフってうちの国にいたんだな。

 

「こちらは私の主人の御子息、ジュン様とユウ様です。ジュン様ユウ様、こちらはシルヴィエッタさん。この店の店主です」

 

「初めまして。ジュンです。よろしくお願いします」

 

「ユウです。よろしくお願いします」

 

「はじめまして~。私のことはシルヴィて呼んでね~」

 

「はい。シルヴィさん。それにしても我が国にエルフの方がいるとは知りませんでした」

 

「あら、そう~?まぁ確かに珍しいかもだけど~。私のように魔族の国で暮らしてるエルフは極少数だけどいるのよ~。変わり者ばかりだけどね~」

 

「変わり者?なんですか?シルヴィさんも?」

 

「私もまあそうね~。エルフのほとんどは自然を感じられる場所から離れたがらないし~故郷からあまり離れないわ~。でも中には私のように他国で暮らすものもいるし~冒険者になって世界中を周るものもいるわ~」

 

「へぇ…冒険者…」

 

 冒険者の存在は知っていたがまだ会ったことはないな

 

「シルヴィさんはどうして故郷を出たんですか?」

 

「ん~?私はね~。故郷でも服屋をやってたんだけど~つまんなくなっちゃって~」 

 

「つまんなく?」

 

「そう。だってさ~。ほらぁエルフって美形ばかりじゃない~?なに着ても似合う人達に服を作るのって張り合いがなくてつまらないわ~。だから色んな人がいる魔族の国の中でも暮らしやすいこの国に来たのよ~。いい国よね~ここ~」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

「あらぁ?お礼なんてどうしたの~?」

 

「いえ、父が治める国をいい国だと言ってもらえて。嬉しかったので」

 

「あら~。その歳でそんな事が言えるなんて~。噂通りいい子ね~」

 

 噂?

 あまり城から出てないのに噂なんて立つのだろうか

 

「そりゃあ立つわよ~。美形だし~とても賢くて~魔法も優秀で~優しいって~お城で働いてる人達が言ってたって~お客さんから聞いて~。私もセバスンさんから聞いたわよ~」

 

 チラっとセバスンを見ると苦笑いしてる。

 ユウはフフンとなんだか誇らしげだ。

 まあ褒められて悪い気はしないだろうしね。

 

「ユウは確かに噂通りですしね」

 

「…そこもセバスンさんの言ってた通りね~」


 ん? とセバスンを見るとさっきよりも濃い苦笑いになってる。

 セバストとノエラもだ。

 ユウは複雑そうな顔だ。

 なんだろう?

 

「まぁいいわ~。それで今日はどんな服をお求めで~?」

 

「あ、そうですね。とりあえず見せてもらえますか」

 

「ええ。男の子用の服はこっちよ~。女の子用はこっちね~」

 

 服のラインナップは庶民用から貴族や王族、金持ち用の服。

 冒険者や旅人が着るような服もあった。

 ボクは訓練用の服を探しているので冒険者用の服を主にみる。

 

 あ、これは…

 

「これ、魔法布で作られた服ですか?」

 

「そうよ~丈夫だしある程度のサイズ調整が自動でされて便利よ~」

 

 魔法布とは魔力の込められた糸で編まれた布だ。

 魔力の通りやすい銀糸や魔獣が作った糸等を用いて作られる。

 魔法布は編み方や縫い方で特定の特性を持たせることができる。

 防刃性能や耐衝撃性能。耐魔法性能等だ。

 もちろんその分値段が張るし、作れる人も限られる。

 

「鎧の下に着る下着として作る事もできるわね~。高価だけどね~。オーダーメイドならもっとお高いわ~」

 

「ですよね」

 

 今回はあまり高額なものは買えない。

 それにまだこれから成長する子供のうちに買っても長く使えないしね。

 

「今回はオーダーメイドはやめておきます。あまり高額なものは買えないですし」

 

「いえジュン様。高額な買い物をするときは私どもから見て不要なもの、危険なものでなければ買ってよいと魔王様から御金は預かっております」

 

「え、そうだったの?」

 

 でも今回はいいや。デザインとかどんな性能がいいか考えてないし。

 

「でも今回はいいよ。ボクがもうちょっと大人になって長く使えるようになった時お願いするよ」

 

「あらぁ~。そう~?。ちょっと残念ね~」

 

「ねぇお兄ちゃん、お兄ちゃん」

 

 ユウが手招きして角に呼ぶ。

 

「なに?」

 

「私がデザインした服を作ってもらってそれを売ってできた利益の1割をアイディア料としてもらうってのはどうかな?」

 

「え、服のデザインなんてできるの?」


 多才だとは思ってたけどそんな事もできたのかね。

 

「服のデザインって言ってもアレよ。日本で流行ってた服を思い出せるだけ絵にするくらいよ。再現するのはプロに任せましょ」

 

「なるほど。でもどうしてそんな事を?なにかお金が必要なのか?」

 

「え…それは…エヘヘ」

 

「なんだよ」

 

「近いうちに話すよ、うん。とりあえずシルヴィさんに提案してみようよ。それほど手間のかかる話でもないし」

 

「わかったよ。シルヴィさ~ん」

 

 ちょっと怪しい気がするけど悪巧みじゃないようだし、いいだろう。

 

「それは面白そうな話だけど~。どんな服か一枚描いてみてくれる~?」

 

「いいわよ」

 

 と、ユウはサラサラと絵を描いていく。

 絵も上手い。

 ほんと多才な妹だ。

 

「こんな感じでどうかしら」

 

 出来上がった絵を見ると…ワンピース?

 袖がなく背中が少しでた夏の海辺でいいとこのお嬢さんが帽子をかぶって歩いてる姿をイメージしそうな。そんな白のワンピースだ。

 少なくともこの店にはワンピースは売ってない。

 目の付け所としてはいいんじゃないだろうか。

 

「あらぁ。あらあらあらぁ?素敵じゃない~?これはいいはね~」

 

「確かに素敵です」

 

「ユウ様にはこんな才能もあったのですな」

 

 と、概ね好評のようでとりあえずこのワンピースで商売してみることになった。

 細かい取り決めはセバスンが間に入ってくれた。


「じゃあユウちゃん用のワンピースと大人用のを何着か作って送るから~。感想を聞かせてね~」

 

「ええ。楽しみにしてるわ」

 

 そう約束して店を出た。

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