第13話 神様

「では時間じゃ。よい人生を送れるよう努力するがよい」

 

 ふぅ…行ったか…

 騙してるようで、気が引けるな。いや実際騙しておるか…

 必要なこととはいえ騙してこちらの都合で働いてもらうのは気が引けるのう…

 

 さて、それでは次にあやつの妹じゃな。

 すんなり事が運べばいいのじゃがな。

 




 

 

「ここは…どこ?日本じゃあない…」


「ここは神の世界、あるいは死後の世界じゃな」


「ああ、やっぱり死んだんだ…私。それでここが神の世界ならあなたは?」


「う、うむ。私は神様じゃ。女神様じゃ。ナハハハハ…」

 

 さすが兄妹というべきか恐ろしく反応が似ておるのう…

 

「で。その神様がなにか私に用でも?」


「う、うむ。やはり似ておるのう。お主ら…」


「え?」


「さっきまでお主の兄がここに…ふがっ」


「どこ!お兄ちゃんはどこ!私のお兄ちゃん!会わせて!」


「落ちっ落ち着けぇい!ちゃんと説明する!ゆら、揺らすな!」

 

 ゼェゼェ

 か、神にこの仕打ち…

 

「お主、わしはこれでもれっきとした神様じゃぞ。ちっとは敬わんか」


「生憎と神様になにかしてもらった覚えがないので。でもお兄ちゃんに合わせてくれたらそれなりに敬うわ」


「そんなに兄が大事か」


「ええ。お兄ちゃんのためなら神でも悪魔でも敵に回して見せるわ」


「ほほう。それは本気か」


「ええ。二言はないわ」

 

 ならばやはり適任じゃな。あやつも会いたがっておったし。

 

「ならばお主に頼みがある。聴いてくれたなら兄に会えるようにしようではないか」


「引き受けたわ!」


「…少しは悩むそぶりを見せるなり不安になるなりせんのか?神様の頼み事じゃぞ。即断しよって」


「お兄ちゃんとの再会を取引に使われたら私には嫌も応もないもの。選択の余地はないわ」

 

 筋金入りじゃのう…まぁ良い。

 

「では頼み事を言う前に事情を説明する。頼み事はその後じゃ」


「ええ。聞かせて」


「お主の世界が滅んだ理由じゃが…お主の兄には次元が寿命を迎えて次元ごと滅んだと説明したが、それは嘘なのじゃ」


「…それで?理由があるんでしょう?」


「うむ。まず次元が滅んだ本当の理由じゃが…わしとは別の神がやらかしおってのう。神の手によって滅んだ、とゆうのが真相じゃ」


「…」


「お主の怒りは正当なものじゃし理解できるが、今は堪えてくれよ?。説明を続けるぞ」


「ええ…」


 怒り心頭といった感じか…当然じゃが。

 

「で、その神がなぜお主らがいた世界、次元を丸ごと滅ぼしたかというとじゃ。世界の改変をしようとして失敗したのじゃ。あやつは世直しと言っておったそうじゃが」


「世直し?」


「うむ。お主らのいた次元、世界の中心は地球なのじゃがな。その地球の状況が不満だったようじゃな。戦争・飢餓・貧困・差別…そういった人間を不幸にする要素を無くし幸せな人間しかいない世界を作ろうとした。本気でな。やつは人間を愛していると以前からいっておったしな」


「それで次元ごと滅ぼしてれば世話ないわ。それに幸せしかない世界なんておかしいわ。不幸があるから幸せがあるのよ。そんな当たり前のことがわからない神様なんておかしいわ」


「全くもってその通りなのじゃがな。やつはそういった部分も含めて改変しようとしたようじゃな。幸せしかなくてもおかしくない世界へと。結果は失敗。数えるのも馬鹿らしい数の生命が失われたわ」


「で?その有難迷惑にすらならないことをしでかしたバカ神はどうなったの?捕まえるなりなんなりしたんでしょ?」


「逃げきりよった」


「…あっさり言ってんじゃないわよ…」


「奴も神、それなりに強い力を持った神じゃ。捕らえるのも簡単ではない。もちろん次になにかやからす前に捕まえるつもりじゃがな。じゃが間に合わんかもしれん。そこで、じゃ」


「頼み事ね。だいたい予想つくけど」


「うむ。お主の兄と協力して、転生した先でお主の言うバカ神がなにかしておったら止めるなり時間を稼ぐなりしてほしいのじゃ。できるだけあやつに気づかれんようにのう」

 

「お兄ちゃんもなの?でもお兄ちゃんには説明してないんでしょう?てゆうか転生?」

 

 そういえば転生したとは言っておらんかったか

 

「うむ。お主の兄には説明しておらぬし別の次元の地球…パラレルワールドというのがわかりやすいか?その一つに一足先に転生しておる」

 

「…」

 

「どうした?」

 

「転生先ではお兄ちゃんの妹にまたなれる?」 

 

「可能じゃ。そのほうが協力もしやすいじゃろうし」

 

「よっし!それならいいわ。話を続けて」

  

 本当に筋金入りじゃのう…

 

「うむ。お主の兄に説明しなかったのはお主らがいく次元、世界であやつが仕出かすという確証はないからじゃ。それにお主の兄が積極的に動いてあやつに気取られるのもまずい。あやつを捕まえる準備が整う前に動かれても困るのじゃ。また逃げられてしまうからな。お主の兄、結構真面目じゃろう?善人じゃし、再び世界が滅ぶかもしれないと言えば己の幸せなぞ二の次にするじゃろ?」

 

「そうね…隠し事も苦手だし」


「じゃろ?そこでお主には二人でうまく協力し調査し世界が滅ぶのを未然に防いでほしいということじゃ。確証が持てるまでは極力兄には秘密でな。どうしてもとなればお主の判断で話してもかまわぬが兄が派手に動かぬよう上手くやってくれよ」

 

「具体的にどうすればいいの?てゆうか相手は神様なんでしょう?私達でなんとかできるような事なの?」

 

「神が直接、世界に干渉することはできん。基本的にはな。せいぜい声をかけるとか夢に出るとか。もっと具体的に干渉したい時は使徒を送り代行させる。あやつもそうするはずじゃ」


「使徒?天使のこと?」

 

「お主らがいた世界ではそう表現するんじゃろうがそうではない。神の意志を宿し神の思うように力を行使するもの。神の依り代。木偶人形じゃ。万全に力を振るえるわけではない」

 

「それでも人間より強いんでしょう?現場を押さえたとしてもなんにもできないんじゃないの?」

 

「心配するな。これはお主の兄にも言ったがな。お主らがいた世界の人間の魂は次にいく世界の人間の魂に比べ高位の魂となる。高い才能を持って生まれることになる。磨けば強くなるはずじゃ」

 

「そう…。それで結局、具体的にはどうすればいいの?調査して世界が滅ぶのを防いでほしいっていわれてもね。大雑把すぎて何を調査すればいいのやら」

 

「そうじゃな…。まずは世界の要となっている存在を探せ。世界の改変しようとするなら要に接触する必要がある。要を確保し隠すことができれば世界を守ることも容易となるはず。次に世界に起こっている異変を探れ。特に神の力でもないと説明できないような異変を、じゃ」

 

「神様の力でわからないの?その世界の要になってる存在って」

 

「すまんが神々の誰も知らん。存在する次元の数は膨大じゃし同じ存在が要になってるとも限らん。とても把握しきれん。神でもな。それはバカ神も同じじゃ。あやつも要を見つけるのには苦労するじゃろうよ」

 

「異変を探れっていうのは?」

 

「世界の要を探すために何かするという事じゃ。それは目立つ異変じゃろうよ」

 

「ふうん…ちなみに私達がいた世界の要となる存在ってなんだったの?あと次にいく世界の中心も地球で地球に世界の要があるって事でいいのね?」

 

「ああ、次にいく世界の中心が地球で地球のどこかに世界の要があることに間違いはない。それは確かじゃ。それとお主らがいた世界の要がなんだったのかはわからん。それを知る前にあやつに仕出かされたのでな」

 

「そう…情報が少ないわね…」

 

「すまんな。こちらでもできるだけの手を打ち手遅れになる前になんとかするつもりじゃ。なにかわかれば連絡しよう。こちらからは以上じゃがなにか質問はあるか?なければ転生を開始するが」

 

「そうね…転生先でバカ神が仕出かす確証がないってことだけど、ならなぜその次元に?理由があって予測を立てたんでしょう?」

 

「うむ。先ほどお主らのいた世界の人間の魂は高位だといったがそれはつまりお主らのいた世界、次元は高位の次元だということじゃ。高位の次元の世界改変は簡単にできるものではない。現にあやつは失敗した。ならば…」

 

「もう一度同じ高位の次元で挑戦するか、もっと簡単にできる次元で挑戦するか、か」

 

「その通りじゃ」

 

「そして簡単にできそうなのが転生先ってわけね」

 

「簡単にとはいってもあくまでも前回に比べればというだけの話じゃ。難しいことに変わりはない」

 

「そう。じゃあ次の質問よ」

 

「なぜ私達兄妹なの?」

 

「うん?」

 

「なぜ私達兄妹が世界を守るなんて大役に就かされるのかしら?転生してお兄ちゃんの妹にもう一度なれることに不満はないわ。お兄ちゃんと一緒になにかするのも問題ない。私の願いでもあるもの。でも世界を守るなんて、私達兄妹よりも適任な人がいそうなものだけど」

 

「転生させるものは誰でもいいわけではない。そもそも誰でも別の次元に転生できるわけではないのじゃ」

 

「そうなの?」

 

「うむ。まず別の次元に転生するには次元の壁を超える必要がある。神々なら簡単にできるが人間の魂が次元の壁を超えるにはそれなりの強度が必要になる。次に人格じゃ。破滅主義者のような者を送り込んでもなんにもならんしな。力を得たことで増長し世界征服を目指すようなやつもダメじゃ。そして今回は家族でいける者という条件も加えておる。単独でやるには厳しいじゃろうからな。そこで厳選され選ばれたのがお主ら兄妹というわけじゃ」

 

「なるほど…その条件ならお兄ちゃんが選ばれるのもわかるわ」 

 

 お主はギリギリセーフラインじゃったがな。余計なことは言わんでおくが。

 しかしほんと筋金入りじゃのう…

 

「ちなみに他の候補となってる次元には別の者が転生される事になっておる。選ばれたのはお主らだけではないぞ」

 

「でしょうね。釘を刺さなくても大丈夫よ。増長したりしないわ」

 

「ならばよいがな。他になにかあるか?」

 

「そうね…さっき連絡するって言ってたけどこちらから連絡したい場合はどうすればいいの?」

 

「そうじゃな…強くわしの名を呼び祈ればよい。毎回確実に応えるとは限らんができるだけ気にかけておくゆえ、それで許せ。これでも忙しいのじゃ」

 

「そう、わかったわ。最後に一つ。問題が解決できたらあとは自由でいいのね?バカ神の干渉がなにもなかった場合も同様で」

 

「うむ。こちらも無理難題を言ってるのは理解しておる。最優先はお主らの幸せでかまわん。だからこそお主の兄には黙っておいたのじゃからな」

 

「わかったわ。まぁ安心なさい。またお兄ちゃんと私がいる世界が滅ぶなんて御免だもの。お兄ちゃんと私の幸せを邪魔するものは排除するわ。神様のお墨付きだしね」

 

 その排除対象も神様なわけじゃが…

 

「頼んだぞ。ではもう何も無いか?無ければ転生してもらうぞ」

 

「ええ、いいわ。お願い」

 

「では、始めるぞ」 

 

 よし問題なく転生が始まったな

 

「ああ、そうだ」

 

「なんじゃ?」

 

 もう転生は始まっとるぞ?

 

「転生して落ち着いたらお兄ちゃんには事情を全部話すわよ。大丈夫、私がそばにいれば無茶はさせないし、しないわよお兄ちゃんは。それにお兄ちゃんに隠し事なんでできるだけしたくないしお互いが理解した上で動いたほうがいいもの」

 

「そうか…任せよう」

 

「ええ。それじゃあね」

 

「ああ。ではな」

 

 …

 行ったか…願わくば幸せになってほしいものじゃ。

 さて、他にも送るべき魂はいたかの?

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