第12話 使用人達 3

 はじめまして!

 私は兎人族のリリーといいます!

 

 お母さんが魔王様のお城で働くメイドさんで

 私はまだ10歳なんだけど見習いで雇ってもらえました。

 

「リリー、あなたはノエラちゃんについてジュン様とユウ様の御世話をしてね」


「うん、わかった」


「大変だろうけどノエラちゃんならちゃんと教えてくれるわ。ジュン様とはそんなに歳も離れてないし。頑張って」

  

 確かジュン様は7歳、ユウ様は4歳。

 歳が近い者がいたほうが御二人にはいいだろうという事で私が選ばれたらしいです。


「あなたがリリーですか。マリアさんの娘さんの。私はノエラです」


「はい!今日から働かせてもらいますぅ!よろしくお願いしますぅ!」


「元気があってよろしいですね。よろしくお願いします」


「それだけが取り柄ですぅ!色々教えてください!」

 

 この人がノエラさん…綺麗な銀髪に紅い瞳。スラっとした手足…。

 胸はリリーと同じくらいかな?

 とっても美人な人。

 

「ではまずジュン様の御部屋の掃除から始めましょう」


「はい!」

 

 二人でジュン様の御部屋に向かいます。

 流石、魔王様のお城です。

 御部屋の数もたくさんあるし、お高そうな美術品なんかもあります。

 広すぎて迷子になりそうです…

 

 コンコン


「どうぞ」


「失礼しますジュン様」


「失礼しますぅ!」

  

 ジュン様の御部屋に入ったら子供が二人。

 この子がジュン様。もう一人の女の子がユウ様かな?


「ノエラか。どうしたの?」


「御部屋の掃除に参りました」


「そっか。ありがとうね」


 ジュン様は7歳にしては大きな体だけど…。

 女の子みたいなかわいい顔。髪もサラサラ。リリーはちょっとクセ毛だからうらやましい。

 服装が男の子の服装じゃなかったら女の子にしかみえなさそうです。

 

「ジュン様、ユウ様。この子はマリアさんの娘、リリーです。私と同じく御二人お仕えさせて頂くことになりました」


「リリーですぅ!よろしくお願いしますぅ!」


「そっかマリアの娘さんか。ジュンです。よろしくね。こっちは妹のユウ」


「ユウよ。よろしくね」

 

 この利発そうでちょっとツンとした女の子がユウ様。

 ジュン様は賢くて優秀だと聞いているけど

 ユウ様も4歳とは思えない賢さらしい。


 それに黒髪に金髪が混じった目立つ髪に

 右目が緑で左目が黒の左右で色の違う瞳。

 整った顔立ちなのもあって大きくなったらすごい美人になりそう。

 リリーなんて引き立て役にしかならなさそうです。クスン

 

 でもなんだかユウ様のリリーを見る目が…

 なんだか値踏みをするような目な気がします。

 ちょっぴり怖いです。

 

「掃除をしてもらってる間は庭で魔法の練習でもしようか。いこ、ユウ」


「うん、お兄ちゃん!」

 

 でもジュン様に手をひかれて魔法の練習に誘われると途端に笑顔です。

 さっきまでとは大違いです。

 

「仲のいい御兄妹なんですねー」


「ええ。見てて微笑ましいですよ。さぁ始めましょう」

 

 お掃除開始です!

 御家では私も家事を手伝ってましたし掃除くらいは…

 

「ダメです。シーツにしわがよってます」


「ハゥ」


「ここ、まだ汚れが残ってます」


「ハヮ」


「ここもダメです」


「ハフゥゥゥン!」

 

 ノエラ先輩、厳しいです…

 でも…

 

「次はユウ様の御部屋ですよ」


「はいぃ」

 

 お母さんの言ってた通り、ノエラ先輩はちゃんと教えてくれる

 それに…

 

「はい、よくできました」


「ありがとうございますぅ!」

 

 ちゃんとできたら褒めてくれる。優しい人かも。

 

「あの~一ついいですか?」


「はい。何かありましたか?」


「ノエラ先輩って呼んでいいですかっ」


「先輩…ですか?」 

 

 あれ、目をパチクリしてる

 おかしかったかな?

 

「先輩、ですか。悪くない響きです。かまいませんよ」


「やったー!改めてよろしくお願いしますぅ!ノエラ先輩!」


「はい。よろしくお願いします。リリーさん」

 

 ちょっとノエラ先輩と仲良くなれたかもです。

 

「次は昼食の用意です」


「はい!」


「本来、私達メイドは、魔王様方の御食事が終わってから順番にいただくのですが・・・ジュン様の御要望で魔王様とエリザ様が一緒に食事をとれない時はジュン様とユウ様付きのメイド達も一緒に食事をします」


「え、そうなんですか?」

 

 それはちょっと変わってるような?

 

「はい。そのほうが美味しいからと、ジュン様が望まれるので」


「へ~」

 

 普通は使用人と一緒に食べたりする主なんていない。

 でもリリーはそのほうがうれしいかもです。

 

「ちょっと変わってるかもですけど、ご飯はみんなで食べるほうが美味しいですよね」


「クスッ そうですね。さぁ今日はちょうど魔王様とエリザ様は御仕事で少しでておられます。用意を始めますよ」


「はい!」 

 

 やったー実はお腹すいてたんですぅー エヘヘ。

 

「じゃあ頂きます」


「「「「頂きます」」」」

 

 昼食の用意も終わって食事タイムです。

 美味しそうですぅ!

 でもジュン様達も私達と同じ使用人用の食事をとるとは思いませんでした。 

 

「いいんだよ。みんなと同じので。これも美味しいしね」

 

 魔王様の御子息ってもっと付き合いにくいかと思ってましたけど

 そんなことなくて安心です。


 今日、一緒に食事をとってるのはジュン様にユウ様。ノエラ先輩。ノエラ先輩のお兄さんのセバストさん。それにリリー。

 

 今日の食事はセバストさんが作ったらしい。

 とっても美味しい。

 

「でも普通、料理人が作るんじゃないんですか?」


「オレは料理が好きでね。たまに手伝ってるんだよ」

 

 ちょっと軽い感じがするセバストさんだけど

 さすがノエラ先輩のお兄さん。

 ノエラ先輩はサキュバスだけどセバストさんは悪魔族。

 深い蒼の髪。黒い瞳。一見物静かそうな外見なのにちょっと雑な言葉遣い。でもイケメン。

 

「セバストの料理は美味しいよ」


「お、ありがとよジュン様」


「あまり兄を褒めないでください。ジュン様。兄は調子に乗ると失敗する悪い癖がありますので」


「なんだとノエr…ナンデモナイデス」

 

 セバストさんは妹のノエラ先輩が苦手みたい。

 睨まれたら黙っちゃった。

 

 さぁ楽しい食事も終わって午後からの御仕事です。

 

「午後にはジュン様とユウ様の勉学、あるいは魔法訓練の手伝いがあります」


「え」

 

 どうしよう

 リリーは魔法使えない…適正がまるでないの…

 

「あの、ノエラ先輩。リリーは魔法は…」


「使えないのですか?」


「はい…まるでダメです…」


「そうですか…ですが今日は座学です。あなたも一緒に知識を付けておきなさい。私達、使用人は時に身をもって主を御守りする事が求められます。あなたもなにかそのための術を身につけなくてはいけませんよ」


「はい…」

 

 うう…争いごとは苦手だけどジュン様達を守らなきゃいけないのはわかってる。

 お母さんもそう言ってたし…頑張らなきゃ。

 一応、弓はそこそそこ使えるつもりなんだけど弓でなんとかなるかな?

 

 そんなこんなで頭から煙がでそうな魔法の座学は終り。

 次は御風呂の用意だ。

 

「御風呂ではジュン様達と一緒に入って御世話します」


「えええええええええ!」

 

 ちょっとまってぇ、それはリリーにはまだ早いんじゃ…

 

「あの、リリーもですか?」


「もちろんです」


「リリー、女の子ですよ?」


「知ってますよ」


「ノエラ先輩も女の子ですよね?」


「もちろんです」


「ジュン様は男の子…ですよね?」


「可愛らしいですが男の子です」

 

 ダメですぅ。突破口が見つからない…

 

「いいですか、リリー」


「は、はい」


「メイドたるもの、主に求められたら完璧にお応えする心構えが必要です。例え御風呂だろうと夜の寝室だろうと中庭だろうと主の求めには完璧にお応えする。それがメイドとゆうものです」ジュルリ


「ちょっとまってくださいぃノエラ先輩!色々おかしいけど最後!最後が特におかしい!あと涎ふいてください!」

 

 この短い時間でデキる女、ノエラ先輩のイメージが音をたてて崩れていってる気がしますぅ…

 

「とゆうかリリーはまだ10歳ですよ」


「ジュン様は7歳。バランスはとれてますね」


「早すぎませんか」


「そうですね。少々早い気がしますが…しかしジュン様はあの魔王様とエリザ様の御子息。いつその手のことに目覚めてもおかしくは…」


「いやいやおかしいから。御風呂は一人で入るから」


「あ、ジュン様」

 

 よかった、さすがにジュン様に止められたらノエラ先輩も諦め…

 

「ちょうどよいタイミングです、ジュン様。さぁ私と一緒に…」

 

 なかった。どうしよう覚悟を決めるしかないのかな…

 

「はい、そこまでですノエラ」

 

 あ、この人は確か…

 

「お父様…」


「毎度毎度、こりませんねノエラ」

 

 そうノエラ先輩とセバストさんのお父さんのセバスンさんだ

 

「君がリリーさんですか。マリアさんには御世話になっております」


「は、はいリリーですぅ!よろしくお願いしますぅ!」

 

 優しそうな人だ。

 いまいる使用人達の中でも古株で魔王様からの信頼も厚いセバスンさん。

 白髪に整ったお鬚。執事服を着こなす洗練されたスタイル。

 まさにロマンスグレーって感じ。執事の鏡のような人。

 

「それではジュン様。ごゆっくり。リリーさんもいきますよ」


「は、はい!」


「いつもありがとう、セバスン」


「チッ」

 

 ノエラ先輩の舌打ちが聞こえた気がするけどきっと気のせいです。

 てゆうかいつもなのかぁ…

 

 初日からなんだか大変でしたけどなんとか乗り切りました。

 それからお母さんにもセバスンさんにも助けられたりして

 なんとかやっていけました。

 そしてある日のことです。

 

「ねぇリリー、お願いがあるんだけど…」


「なんですかジュン様?」


「耳としっぽにさわっていい?!」


「え」 

 

 ジュン様が目をすごいキラキラさせてます。

 ノエラ先輩と何故かユウ様も目をギラッとさせた気がします。

 

「えええええ…そ、それはダメ…ハッ」

 

 ノエラ先輩がリリーをジッと見てます

 その目は

『メイドたるものいついかなる時も…』

 と言ってるようですぅ…

 

「うう…わ、わかりました…どうぞ…」


「ありがとう!」

 

 うう…なんでこんなことに…

 

「おお~やわらかいし暖かい。フサフサしてて手触りもいい…」


「ハゥゥゥ」


 そ、そんな感想、言わないでいいですジュン様!

 

「ありがとうリリー。大丈夫?」


「ハ、ハイ。 ダイジョウブデスゥ」

 

 嘘です。力が入りません…

 まさかこんなことになるなんて…

 でもジュン様は知っているんですか?

 古い習慣だけど獣人族は耳としっぽは将来を誓った人にしか触らせないのだという事…

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