5.

「とまあ、あれこれと説明いたしましたがおよそ要約すると奴の手下である猿の穢物の首ひとつにつき小銀子二枚、親玉である鬼面の首級を挙げれば小判一枚を差し上げましょう。加えて、親玉が討伐された際に生き残っていた方全員に、小金子一枚を差し上げます」

 翌日、丁名主の屋敷を再び訪れた寧とキリは、客間の一室で丁名主直々に田日良町の現状とわかっている限りの穢物の情報を聞かされた。

 とはいえ、石切神楽も始まって状況は逼迫しているにもかかわらず、『敵は猿の穢物の群れである』程度のことしかわかっていなかった。その規模すら不明なのだ。先手を打とうにも穢士の手がなければ山狩りも行えず、敵が現れたら斬るという後手後手の対応を迫られていた。

 その割に報酬が少ない。およそ一般的な町民一家の一月の生活費が小金子一枚ほどだ。小銀子一枚は小金子のおよそ一厘(百分の一)ほどだから穢物を狩った手取りとしてはかなりしわい。小銀子一枚なぞ一日の飯代でなくなる程度の額だ。

 とはいえ、親玉の首級は破格だった。小判は小金子およそ百枚分であるから、田日良町がどれだけ親玉の首に拘っているかわかろうというものだ。それは取りも直さず、親玉さえどうにかすれば問題は解決するということでもあった。

 それだけ、穢物の集団の統率が取れているということなのだろう。猿の穢物の群れにはままあることだ。

「田日良町が不可思議な穢物の脅威に晒されて早六月……いよいよ石切神楽も本格的に始まりました。この次の新月までにはなんとしても決着を見たいのです。まあ、羅切様にお出ましいただいたのですからもはや解決したも同然なのですがね。あなた方はせいぜい羅切様の足を引っ張らぬよう、御膳立てに努めるのですぞ」

 何故か妙に間を開けて座る二人を、丁名主は不信感も露わな目で睨みつけた。

「心得ました、誠心誠意、相務めさせていただきます」

 端座したまま上半身を折って諾ったのは着流し姿の寧だ。

 薄紫の地に生成りの桔梗柄が染め抜かれた女ものの小袖に、薄紅の角帯、黄色の蹴出を合わせている。これ一着しか持ち合わせがないとはいえ、今の時期には少し寒々しい装いだった。

 キリは着たきり雀の絣染め着流し姿を微動だにせず胡坐をかいている。

 その様を面白くなさそうな目で一瞥して、丁名主は立ち上がった。

「話は以上です。次の新月まで十日余り、英気を養っておいてください」

「あいやしばしお待ちを」

 立ち去りかけた丁名主を引き留めたのは寧だ。丁名主が嫌そうに振り返る。

「まだなにか」

「この男との相部屋を解いていただきたい」

 寧の申し出に丁名主は鼻を鳴らし、キリが寧を見た。キリにとって寝耳に水の話だった。

「ということはあなたが今の下宿を出て行くと」

「いえ、この男を出した方が移動先は見つけやすいでしょう」

「それはそうでしょうがね……」

 丁名主は両袖に手を入れて腕を組む間を置いてから諭すように喋り始めた。

「男女とはいえ旅の道連れでしょう。相部屋の何が不満なのです」

「そもそもわたしとこの男は連れでも何でもありません」

「おや、私が見る時はいつも一緒におられたものだから、てっきり二人連れかと思っておりましたよ」

「確かに、こちらにも勘違いさせた落ち度はあります。しかしこの男とは北の農村で一緒になり、向かう先が同じだったが為にここまで連れ立ってきただけの間柄。同じ屋根の下に置かれては気の休まる時が無いのです」

 キリはここでも黙っていた。寝耳に水で多少驚きはしたものの、寧と同じ部屋にいたいというわけでもなく、屋根さえあればどこで誰と一緒でも構わないと考えていたから、寧のしたいようにさせようと思っていた。

「なるほど、それでキリ殿を追い出そうと。キリ殿はそれでよいのですか。場合によっては六畳間に男四人が雑魚寝することにもなりますが」

「構わない、屋根と飯があればそれでいい」

 キリの淡々とした答えに、丁名主は鼻で嘆息した。

「まあ、よいでしょう。キリ殿の新しい宿は今から手配します。藤花殿は今の親方長屋をそのままお使いください。では――」

「一ついいか」

 今度は満足そうに頷く寧の横から野太い声が上がり、いよいよ立ち去ろうとしていた丁名主が眉を吊り上げて振り返った。

「……まだなにか」

 呼び止めたのはキリだ。

「雑魚の首は小銀子二枚といっていたが、こちらから山に入って狩ってきた分も金は出るのか」

 丁名主はすぐには口を開かず、キリを試すように観察した。

 そうして何かしらの得心はしたのか、おもむろに答えた。

「猿の穢物であれば出しましょう。鬼面の首であれば約定通りに小判も出しますよ」

「その鬼面とやらは片角か」

「片角? 角が片方だけかという意味ですか? いえ、特にそんな話は聞いておりませんが」

「そうか、わかった」

 聞きたいことを聞いたのか、キリは伸び上がるように立ち上がり、そのまま部屋を出て行こうとした。寧と丁名主が唖然とその背中を見送っていたが、

「玄関脇で待っていて下さいよ、新しい下宿先に案内させますからな!」

 丁名主が慌てて言い掛ける。キリは聞いているのかいないのか、のそのそとのんびりした動きで襖の向こうに姿を消した。

「まったく……あなたも用が済んだのなら行きなさい」

「あ、はい、それでは御免つかまつりまして……」

 座ったまま会釈した寧が頭を上げた時には、丁名主の姿も部屋から消えていた。


 丁名主の屋敷を辞去した寧は、一人で町に繰り出した。

 新しい下宿先を見に行くキリとは屋敷で別れた。

 寧は寧で、思い出すも腹立たしい昨晩のことがある。胸の黒斑だ。放置しておけば己のみならず周囲まで穢に脅かされることになる。

 それを回復できるのは巫女だけだ。その巫女の住居は、丁名主の屋敷に出向く前、長屋の家主である金助親方からすでに聞いていた。屋敷がある石呉丁から一丁登った富石丁の裏通りだ。

 広小路から横丁に入り、そこから裏通りまで町の端を目指して歩いていくと、家屋の造りが次第に安普請へと変わっていく。職人丁でもある富石丁は今の時分、半数は石切に出て半数は徹宵作業を明けて眠りに就いている。静かなものだった。

 目的の巫女の住処は最低よりは幾分かましな棟割り長屋の一室だった。棟割り長屋は部屋が狭いぶん店賃が安い。貧乏人が住む家の代名詞のようなものだ。似たような面構えの部屋がずらりと並んでいるが、腰高障子に巫女を現す『巫』の字が大書してあるから一目でそれと分かった。 

 この世に穢がある以上、巫女が喰いっぱぐれることはない。だというのにこんな場所に住んでいる巫女がどんなものか、不安になりながら腰高障子を叩く。

「はいはい、どちらさまですかぁ」

 すると中からのんびりとした皺枯れ声が返ってきた。

 それを聞いて、寧はほっと胸を撫で下ろす。なんのことはない、年老いた巫女だから廃れてしまっただけなのだ。

「御免、金助親方に紹介されてな。身濯を頼みたいのだが」

「おやおや金助さんのお客様ですか。どうぞ、心張は掛かっていませんからお入りくださいましなぁ」

 美しかろうが年を取れば巫女とて人気が下がる。やはり男が喜ぶのは若い巫女だ。しかも巫女も巫女でそれを知っているから、客寄せのためにちょっとしたお楽しみも織り交ぜてきたりする。するとそうしたお楽しみがない年寄巫女はますます人が寄り付かなくなる。

 女性客もどちらかといえば人気の巫女の方へ行く。やはりそこでも巫女は弁えていて、男性客とは違う趣で女性客の心を掴むのだ。それは美しさの秘訣であったり噂話であったり様々だった。

 巫女の世界も馬鹿正直に穢れた人間を待っているだけでは落ちぶれていくものなのだろう。そして"うめ"と名乗った老巫女は、馬鹿正直な方だった。寧の好むところだ。

「あらまあ、随分と溜めなさってねえ、お若いのに大変だこと」

 寧の手を握っただけで、老巫女はその穢れ具合を見て取った。年の頃は寧の三倍から四倍ほど――いや、よくわからないというのが正しいか。皺に顔の部品が埋もれた絵に描いたような年寄りだが、肌の色つやは悪くないおかげで歳が判りづらいのだ。

「一昨日、穢物と一悶着あったからな」

「それはそれは、怪我もなくて何よりで」

「命からがらだったがな」

 ふと、その時にキリに助けられたことを思い出した。少し、胸がざわつくも、その意味はよくわからなかった。あの時の興奮の名残ていどに考えた。

「そうですか、穢物にねぇ……それは金助さんも放ってはおけないでしょうねぇ」

「うん、どういう意味だ」

「昔の話ですよ。それより、すぐに身濯ぎましょうか」

 言うと、巫女は両の手で寧の両手を握り、静かに瞑目した。そして待つこと数十秒。

「はい、終わりましたよ」

「かたじけないお代は――」

 先程の問答に少し心懸かりはあるも、今日は町の構造や道を確認したいと思っていた寧にあまり時間はない。老巫女も話したいような雰囲気ではなかったので、懐から財布を取りだした。その寧に、老巫女が宣告する。

「銅銭十枚です」

「……安すぎないか」

「それで食べていけるのですから、よいのですよぉ」

 いわれて何となく九尺二間の安普請を見回す。部屋にはこれと目を惹くような心行かしもなく、最低限の調度だけが殺風景な景色を作り上げている。ただ一点、部屋の奥に設えられた霊壇に祀られる古びた小太刀だけが異彩を放っていた。

 寧の表情を読んだか、老巫女が遠くを見るように寧の顔を見た。

「夫の形見なのですよ。もうすぐそちらに行くからと、約束しておりますのでねぇ」

 巫女の相方は穢士である場合が多い。だから、肩身が小太刀なのだろう。こんな片田舎に穢士を夫とした巫女が一人で暮らしているということは、相当に波乱を含んだ人生を歩んできたことは想像に難くない。その荒波に揉まれるような来し方がこの心持ちの丸さを磨き上げたのだとしたら、寧としては感服するしかない。その年輪に敬意を表したくなるのが人情というものだろう。

「やはりいくらなんでも相場の二割にも満たないのはな……せめてこれだけもらってくれ」

 せめて相場程度には支払おうと十枚銭五枚を財布から抜き出した。老巫女はそこから一枚だけ摘まみ上げると、やんわりと微笑んで見せた。

「もうすぐこの世とお別れする身の上ですからねぇ、持っていくものは少ないに越したことはないのですよぉ」

「いやしかしだな……ええい」

 面倒になった寧は、遠慮する老巫女に銅銭十枚の十倍、小銀子一枚を無理やり押し付けて逃げるように長屋を飛び出した。

 老巫女が追ってくるような気配はなかったが、追ってきたとしても武術で鍛えた寧の健脚だ。とてもではないが追いつけなかっただろう。

 横丁まで一息に戻ってきた寧は、落ち着いたところで空腹を覚えた。

「そう言えば昨日からまともに食ってないのか……」

 今朝は疲労か心労か、日が高くなるまで寝過ごしてしまい、朝食を食いそびれた。一応、昨夜にキリが持ってきてくれた握り飯を食べたが、それだけでは若い胃袋はとても満足していない。

 ついさっき昼二ツ(午後二時)の時鐘を聞いた寧は、食い物屋がありそうな方角へと足を向けた。

 紫地に桔梗紋を染め抜いた小袖を薄紅の帯で着流し、金の髪は背中で帯と同じ布で纏めている。肩に預ける朱塗りの槍がやや異彩を放つものの、別段注目はされていない。

 そもそも町には暇を持て余した穢物斬りがうろついているから武器を手にしていても浮かないし、同じように普段着でうろつく女穢物斬りもちらほらいる。寧もその中の一人に過ぎないのだ。人の目も多い。故に、道中の面倒を避けるためにわざと顔を汚したり変装したりもいらず、晒しを窮屈に巻き締める要も無いのは清々した。

 田日良町は段でおおまかに丁を区分している。富石丁と石呉丁の境も、そんな段があった。場所によっては高さ五尺ほどの段には一定間隔おきに昇降のための階段が設けられており、横丁と横丁が並行して接する通りは特に並び横丁と称される。今、寧が歩いている通りは富石丁と石呉丁の境の並び横丁ということで『富石石呉並び』と呼ばれていた。

 富石石呉並びの富石側、つまり上段を広小路方面に歩きながら、寧は飯屋を探していた。

 並び横丁は防火のための火避け地の意味合いもあるので道が大きくとられ、その広さを使って露店市が開かれている。ために奥まった路地という印象はなく、人通りも多い。出店は上も下も崖を背に並び、取り扱う商品も青物、小間物、着物玩具と雑多だ。

 露店の向かいには広小路の表店ほどではないが、なかなかの間口の商店や食い物屋が軒を連ね、客の呼び込みに精を出している。広小路の石切神楽とは別の賑やかさで活気に溢れる通りだった。

 広小路に近付くにつれ、食い物屋が増えてきた。しかし酒を飲まない寧には酒と肴が主な煮売酒場は敷居が高く、茶と軽食ばかりの茶店では物足りない。もっとしっかり食べられるところをと歩を進める内に、一軒の一膳飯屋が目に留まった。

 紺木綿の暖簾の向こうに垣間見える店内は、時間帯のおかげで混んでいる様子もない。なにより、その飯屋から漂ってくる甘辛い匂いにすっかり胃の腑を掴まれてしまった。往来を行く通行人を横切って、吸い込まれるように寧はその飯屋に入っていった。

 この町独特の腰石造りの家屋の店内は六畳の土間に三畳の小上りと手狭で、昼時を外した今は大声で会話を交わす石切職人が三組ほどと静かに吞む穢物斬りが別々に三人ほど、飯を食ったり昼酒を飲んでいたりした。

 寧は空いていた土間の長机の端に陣取ると、店の奥に「膳部を頼む」と声高に注文した。奥から「あいよ、御新規さん一丁」と女将さんらしき大年増の声が返ってくる。

「聞いたか、ようやくこの田日良にも羅切様がご来光しなすったとよ」

 職人衆の四方山話の中にその名を聞き咎めて、寧の意識がそちらへと吸い寄せられる。

「聞いたがよ、今度はちゃんと本物がねぇ」

「そいがもんな、今度は本物みたいだがよ、おれもお目見えしたがやありゃあ真実物だろさ。石呉の名主どんもじんぴんが違うって喜んどった」

「じんぴんか。そいつぁだいじだぁな」

「だべなぁ。だども今年はどんなるかとやきもきしたがぁ、これでひとまざ安心だぁな」

「切らなきゃ干上がる切ったら穢れるじゃあ間尺に合わんもんなぁ。おてんとさんはちゃんと見るべきとこ見取ってくださりゃあ」

「おてんとさんだらぁどこを見てるってぇ?」

「そらもちろん、おいらの日頃の行いだぁな」

「おなごの尻っぱ追っかけて仕事をうっちゃるどさんぴんのなにが日頃の行いだらぁ」

「だりゃあ、そもそもなぁ――」

「へい、おまちどうさま」

 男たちの話が羅切とは関係のないところへ行ったあたりでちょうど、頼んでいた膳が寧の前に置かれた。

 折敷の上には丼飯に山菜と凍豆腐と里芋の煮付け、猪肉の味噌焼きにきくらげの味噌汁と香の物が所狭しと乗っていた。

「わ、おいしそう」

 思わず娘の顔をほころばせながら、寧はさっそく箸を手にした。そうして外まで匂いが漂っていた煮付けから箸をつけた。

 職人向けの飯屋なだけに少し味付けが濃い目だが、ここのところ休まる時のなかった寧の身体には丁度良い塩加減だった。ご飯もどんどん進む。考えてもみればこうしたまともな食事にここのところあり付いていなかった。それを思い出すと猪肉の味噌焼きがことさら旨く感じられる。

 そうして舌と身体で久方ぶりの御馳走を堪能しながら、頭では別のことに思いを馳せた。他でもない、羅切のことだ。

 実のところ、寧は己の仇のことをよく知らない。仇である羅切は当時、継母が起居する離れ屋敷に逗留していた。為に母屋にいた寧とはほとんど顔を合わせなかったのだ。

 一度だけ遠目に見た雰囲気で、寧は彼に物静かで柔らかい印象を持っていた。この点は昨夜の羅切と共通する。

 羅切が次兄を斬り殺して逃亡してから討手として仇討旅に出る際、その顔立ちや佇まいを家臣たちに散々吹き込まれたが、顔の右半分が削れたような傷跡やら油断ならない眼差しやら、悪意で誇張されたような話ばかりだった。キリを疑ったのはこの話と符合するところが多かったせいだ。

 あの二人だけではない。羅切と名乗るものであれば誰しもが備えていそうな曖昧な特徴だけを頼りに、その名声の威を借る狐たちの中から本物の仇を探さねばならぬのだ。この三年間、寧は何度となく人違いを繰り返し、疲れ果てていた。

 それでも、羅刹の所業を思い返して寧は前へと進んできた。寧にとって羅切は心の底から憎い相手だ。頼るべき兄を殺され、己を放浪の身に窶す元凶となった男なのだ。その憎しみもむべなるかな、だ。

 もう、誰でもいいから羅切と思い込んで仇討を済ませられれば、どれほど心安いだろう。だが同時にそれは今後の寧が歩む人生に、冤罪で殺したかもしれないという重荷を加える所業でもある。それがわかっているから、寧は最後の一線を踏みとどまり、踏みとどまるが故に摩耗していた。

 そんなすべてをかなぐり捨てて、誰も知らないところで静かに暮らそうと言ってくれた人もいた。寧の仇討に世話係として同行してくれた乳母だ。だが、次兄や病に倒れた長兄や父の面影がそれも許してはくれなかった。そして、その夢を叶えてあげられぬまま、乳母は穢物との乱戦のさなか、寧の身代わりになって死んだ。

 次兄も、そして乳母も羅切に殺されたようなものだ。桃橘榊の外に出なければ、あの心優しく穏やかな乳母があんな惨たらしい死に方をすることもなかった。すべて、寧の抱く憎しみのすべての緒に、羅切がいた。もはや寧は、羅切と呼ばれているだけでその者に対してひとりでに憎しみが湧いてしまう癖が出来上がっていた。悪い癖だと思いつつも、矯正するのも間違っているような気がして放置している癖だ。

 笑えないことに、寧はそんな羅切に助けられてしまった。

 あの羅切は、憎しみに我を忘れた寧の粗相を笑って許したどころかその身まで案じて丁名主を説得してくれたのだ。あの男が言った通り、あそこで放り出されていたら寧はこの寒空の下、相当惨めな思いをしていたに違いない。

 寧に襲われてもまったく気にした風もないという点ではキリもそうか。あの男も羅切と呼ばれているらしかった。

 旅立ったころ、寧は物事をもっと単純に考えていた。きっと寧が武器を突きつければ、憎き羅切は本性を露わにしてあれこれと己の悪事を語って襲い掛かってくるに違いない。そういう判り易い展開を期待していた。今でも、期待していないといえば嘘になる。

 しかしその期待は何度も裏切られてきた。今回は二度も立て続けて人違いしただけに、寧の自己嫌悪も一入だった。

 そう、昨晩も己で口にしたことだが、羅切という名はこの世間に多すぎる。その大半は有象無象のはったりだが、キリとあの羅切は明らかに名前に負けない実力の持ち主だ。

 寧の記憶の中の仇もそうだった。藤花勇人は決して弱くはない。むしろ人付き合いが拙いが故に鍛錬に明け暮れた彼は人並外れた技量の持ち主だった。

 その次兄が負けたのだ。寧の仇も相当の実力者なのは間違いなく、キリも羅切もその可能性に収まっている。

 今まで出会った有象無象とは一線を画す蓋然性を持った二人に時を同じくして出会ってしまったのだ。寧の胸中が安かろうはずもない。

 そう、今の寧の心中は千々に乱れていた。それは仇である可能性を持った男を二人見つけたからという単純なものではない。その、彼らに容易くあしらわれたからというわけでもない。

 寧の心が、仇であることを否定しているからだ。寧は二人を悪人として捉えられずにいた。

 しかし二人は寧の仇である羅切にあてはまる条件をあまた備えていた。

 その矛盾が荒れた彼女の胸中で更に渦を巻いているのだ。

 だが、自覚してしまえばなんのことはない。気持ちを宥める方策が寧にはあった。

 二人を仇としてみなければよいだけのことだ。

 気持ちを切り替えて再び本物の仇を探す。今までそうしてきたように、此度も諦めればよいだけのこと。

 それがまた、寧の心を苛む。

 寧の心は、そうやって騙し騙しやり過ごしてきた諦観の澱に埋もれ、疲労と猜疑心にまみれて澱んでいく。

「だから、誰でもいいから斬れと……?」

 再び、その誘惑が鎌首をもたげる。だがそれは出来なかった。次兄の、乳母の命を奪った羅切を、本物の仇をのさばらせておくわけにはいかない。誰でもいいというわけにはいかないのだ。

 だが逆はどうだ。逆に、斬られてしまえば楽になれるのではないだろうか?

 そう、家を追い出されるようにして仇討行脚に旅立った寧に帰る場所はない。遅かれ早かれどこかで野垂れ死ぬのならば、どんな形の死であろうと帰結すべき安楽だ。空腹で飢えるより、穢物に穢されるより、一思いに斬り殺された方がよっぽど楽ではないか?

「馬鹿馬鹿しい」

 椀に一つだけ残った里芋にそう吐き捨て、まだ強がれる自分に満足しつつそれを口に放り込んだ。

「そこの娘、ちと付き合え」

 落ち着かない気持ちを無理矢理でも整頓し終えたと思ったその時だ。背中に下品な濁声がぶつけられた。

 面倒臭そうに寧が振り返ると、そこには想像した通りの下卑た顔が並んでいた。

 蓬髪と同じ赤髭で顔中を覆った中年に、それにおっつかっつのつまらない面差しが四つ。計五つの酔った赤ら顔が、嫌らしい笑みを浮かべて寧を見ていた。

 風体は皆似たり寄ったり、草臥れた単衣にほつれが目立つ道中袴、声を掛けた髭面だけは道中羽織を掛けているもののそれも水を潜り過ぎて元の色すらわからない。浪人穢物斬りを絵に描いたような破落戸だ。

 寧は身体を前に戻し、見なかったことにした。

「娘、次はない。わしらに付き合え」

 落ち着いた不快な声が最後通達する。寧は金色の後頭部でそれを受けながら、男達に見えない陰で眉根を寄せていた。

 違和感があるのだ。

 野卑な男たちの登場に緊張する店内には、寧よりも話の分かりそうな中年増の女穢物狩りもいる。見場も悪くない。酌婦ならそちらを当て込んだ方がよほど楽しい酒を呑めるだろうに、わざわざ面倒が起こりそうな若い娘を選んだ。

 なにか魂胆があるか、ただの物好きか……いずれにしても寧にとって面倒な事に変わりはない。とりあえずそのどちらであろうと、店内で騒ぎを起こすのは寧の本意ではなかった。

 寧は黙って立ち上がると、折敷の上に勘定を置いて振り返る。

「遊ぶなら外でだ」

 朱槍を片手に、悠然と呆気にとられる男たちの脇を通り過ぎて表に出た。寧が通りの真ん中まで進み出たころ、赤い顔を茹でだこのようにした男達が五人、店の外に駆け出してきた。

「娘の棒術ごっこに付き合えと。貴様、この羅切様を愚弄するか」

「また羅切か……」

 呆れた声で思わずぼやく。羅切といえば右目に傷だが、その髭面には右目どころか顔のどこにも傷はない。感心してしまうくらい開き直った騙りだ。

「素直についてくれば痛い目を見なくて済んだものを。すぐにその勝気を後悔させてくれん」

 血気づく髭面の啖呵で、四人の男達が寧を取り囲んだ。

 物々しい様子に、通りを歩いていた人々が足を止め、遠巻きに見物する構えに入った。自然と、寧と男達を中心に置いた円舞台が出来上がる。

「わしが出るまでもないな」

 その言葉に、寧の正面、髭面と寧との間に立つ木刀を下げた馬面の男が目線だけで振り返った。

「後詰と申すか。約定は変わらぬな」

「無駄口は利かずともよい」

 にべもなく言い返され、馬面が苛立たし気に寧へと視線を戻した。

「約定ということは、誰かに頼まれたということか」

 しかも阿吽といかないやり取りには、この男たちが仲間ではなく寄せ集めであることが現れている。どうやら、魂胆の方かと、寧は内心で嘆息した。

「問答無用」

 四人の男達が木刀や木槍を構えた。

 酌婦を求めて声を掛けたにしては、痛めつけるための木製の武器を用意しているとは準備の良い破落戸だ。寧は最初から自分が目的なのだと確信した。であれば、口を割らせるためにもほどほどにする要がある。

 対峙してこの四人は自分の足元にも及ばないと見て取った。幸いなことだ。無益な殺生は寧の望むところではないのだから。

「か弱い子女一人に大の男が四人掛かりとは、恥ずかしくないのか」

 ほくそ笑みながら鞘を払わぬままの朱槍を構える。石突側に重心を置いた普通の中段だ。

 嘲弄する言葉と落ち着いた態度、二つの挑発に男達はあっさりと顔を朱に染めた。

「馬鹿にしおって!」

 先程から蔑ろにされっぱなしの馬面が堪忍袋の緒が切れたとばかりに吠え、手にした木刀で天を衝く。そのまま踏み込むと見せかけて実際に動いたのは寧の真後ろに陣取っていた小太りの男。烏合の衆にしては良い連携だ。

 小太りの男は小柄な身をさらに低くしてするすると近付き、木槍で寧の尻目掛けて掬い上げるように突き掛ける。

 寧は背後からの奇襲を十分に引き付けたところで身を捻りつつ、ケラ首に添えた右手を自然な動きで引いた。

 後でのお楽しみに差し支えないようにと、それ以上に寧を女子と侮っていた小太りの軟弱な突きはあっさりと避けられ、逆に寧の石突が小太りの眉間を割り、手加減があっても不意を突かれた小太りの意識をあっさりと奪い去った。

「おのれ!」

 今度は左右から同時に襲い来る。左手から木刀、右手から木槍だ。

 しかしその速度は寧が普段相手にしている穢物と比べれば数段劣る。

 右手の木槍へ向かい、構えを槍の真ん中で手を揃える変り中段に変えつつ踏み込んだ。金の髪が光の尾を引いて伸び、意表を突かれた男は石突で鳩尾を痛打されてくたくたとその場に頽れた。

 その背後から襲い来た木刀へは、変り中段で余裕を持たせておいた鞘付きの穂先を背面のまま突き出す。勝ちを急いだ男は、寧の迅速な反撃に何が起こったのか理解する間もなく気絶した。

 あっという間に残るは馬面と髭面だけになり、野次馬の間からわっと歓声が沸いた。

「いいぞ姉ちゃん、やっちめえ!」

「勝ったら後で茶でもどうだい姉ちゃん!」

 声援とも口説きともつかない野次を浴びつつ、乱れた髪を後ろに跳ねつけた寧が不敵な笑みを髭面に向ける。

「後詰どのはいつまで見物かな」

「き、貴様なぞおれ一人で十分だ」

 寧に無視された馬面が我に返ったように吐き捨て、大上段に構えていた剣を正眼に置き直した。

 寧も変り中段の両拳を開いて普通の中段に戻し、半身を引いて穂先を相手に付ける。

 言うだけあって、馬面は前の三人より様になる構えをしていた。

 間合いは二間、あと半歩で槍の間合い。剣は更に半歩踏み込まなければならないぶん不利だ。

「構えだけなら習いたての子供でも見せかけられるがな」

 寧の挑発に乗ってか乗らでか、馬面が一息に踏み込んだ。思い切りのよい踏み込みだったが、それは果敢な攻めではなく遮二無二飛び込んだだけだと寧にはすぐに分かった。

 余裕をもって槍を突き出すと、勢いのついた馬面は自ら穂先を胸で受け、そこを軸に綺麗なとんぼ返りで地面に叩きつけられ、仰向いたまま動かなくなった。

 野次馬から馬鹿笑いが巻き起こる。寧が馬面を少し不憫に思うほどの笑われっぷりだ。

「成程、聞いていたよりも腕が立つな」

 ぼうぼうの蓬髭をしごきながら、むさい浪人穢物斬りが呟いた。

 笑声の中からそれを耳聡く聞きつけた寧が、髭面に向き直る。

「依頼主を明かして立ち去る気はないか」

「さて、なんの話かな」

 にやにやと嫌らしい笑みを浮かべて、髭面は惚ける。

「お主を好きにした上に金まで貰えるなら、穢物と丁々発止するよりよほど旨味が多かろうもんじゃ」

 が、惚けた振りで寧をからかっただけらしい。誰かに頼まれて寧を襲っていることを隠すつもりはないようだ。

 髭面が腰に差していた木刀を抜いて片手正眼に構えた。左手は胸の辺りでひらひらと上下させる奇抜な構えだ。

 それを見て寧は悟った。この男の自信は口先だけではない。依頼されてのことだと洩らして平然としているのは、寧を確実に手籠めに出来る自信があるからだ。

「そう簡単に貴様の都合ばかり通ると思うな」

 言い返す寧の言葉はどこか硬かった。中段に槍を付け、穂先は相手の眉間に向ける。

「ほほう、構えは立派なもんじゃ」

 寧の肩頬が引き攣る。どう考えても先程の寧の言葉をあげつらった皮肉だ。

「立派なのが構えだけかどうか、貴様自身で確かめろ」

 言うが早いか寧が踏み込んだ。

 間合いは三間。大きく飛んだ後たんたんっと小刻みな拍子を踏み、相手の間を狂わせつつもう一度大きく踏み込んだ。

 着流しの裾から黄色の蹴出しが華やかに踊りだす。

 身体が前へ乗り出す勢いを半分ほど乗せた突きが、髭面の丹田目掛けて伸びる。

 しかし相手もさるもの、寧の小手先に惑わされることなく木刀を擦り合わせて槍身を逸らすと、半歩踏み込んで小手を狙ってきた。

 勢い込んで踏み込まなかったのはこのためだ。寧は余裕をもって身を引きつつ相手の切っ先をけら首で弾く。

 跳び下がる寧が残した金髪の煌きを、髭面は追わなかった。

 二間の間合いをとって、二人は再び対峙する。

 先程の打合いに観衆はすっかり呑まれていた。息を詰めて成り行きを見守っている。

 直に刃を合わせて寧は確信した。この髭面、品はなくとも腕は確かだ。後を考えた攻撃故に全身全霊の力が備わっていなかったとはいえ、ああも完璧に擦り合わされるとは思わなかった。

 よくて五分、もしかしたら向こうがわずかに達者かもしれない。

 そう考えてしまうと、寧の心に僅かな怯みが生じた。

「どうしたどうした、お遊戯はしまいか」

 その怯みに付け込んだわけではなかろうが、髭面の濁声が嘲笑うように響いた。

 寧の白磁の顔がわずかに紅潮する。恥じたわけではない。怒りのためだ。

「言わせておけばっ」

 挑発に釣り込まれて寧が踏み込んだ。それを見越していた髭面も踏み込んだ。二間あった間仕切りは一瞬で切られ、しかもお互いに踏み込んだことで槍の間合いの内側にまで接近した。髭面の狙いはそこにあったのだ。

 だが、寧の狙いはその一枚上をいっていた。

 刀が槍の内懐に入りたがることは、兵法として当然の考えだ。間合いを詰められれば長柄の槍は取り回しが悪くなる。そしてその弱点を補うために、変り中段は編み出されたのだ。

 怒りのままに突き掛けると見せ掛けて、寧は更にもう一歩踏み込んだ。

 髭面は袈裟を狙って間合いを見計らっていたのだろうが、思わぬ寧の接近に振りが遅れた。そんな、技の出初めの勢いがないところを寧の千段巻きに弾かれた。

 体勢を崩したところに翻った石突が襲い掛かる。

「なんの!」

 強引に引き付けた木刀の柄頭で、下から掬い上げるような石突の一撃を叩き落とす。

 落とされた勢いに任せて、今度は髭面の頭頂を槍の鞘が襲う。

 それも髭面は物打ちで弾いた。弾きつつ面打ちを繰り出そうとするが、返る槍柄に出端を阻まれて不発に終わる。

 息を吐かせぬ応酬に、誰も声を出せずにいた。

 特に金の髪と紫の衣を躍らせる寧の動きは、あたかも洗練された舞のようでもあった。観衆が見惚れていたのはその武技だけではなかろう。

 その舞が突如として終わりを告げる。

 誰の目にも攻め立てる寧に対して髭面が防戦に甘んじているように映っていた。

 ところが実際に打ち合う二人は違った。いくら攻めても崩れない髭面に対し、寧は我知らず焦っていた。

 その焦りが、寧を退かせた。

 薙いだ石突が受け止められ、その反動を利用して横手に一間ばかり跳び退がったのだ。

 髭面は追わなかった。気を落ち着けるように鷹揚な動きで木刀を正眼に直す。

 その切っ先がちょいっと跳ねた。

 上段から来る。咄嗟にそう読んだ寧は槍身で天を衝くように上段に持ち上げつつ、その勢いで持ち手を石突近くに替え、最大の間合いで槍身を叩きつけた。

 それが失策だった。

 髭面の動きは釣りだったのだ。

 髭面は打ち下ろしなど考えてもいなかった。刀の打ち下ろしに合わせた寧の叩き付けを読み切ってその真下に身を屈めて飛び込みつつ、槍に木刀をぶつけるようにして屈伸の動きとともに弾き返した。

 もし、これが寧の槍でなければそのまま髭面を圧し潰せたかもしれないし髭面もこんな強引な手段には出なかっただろう。寧の槍は女性でも取り回せるように柄が細く造られていた。本来の半分ほどだ。故に重さがない。槍の重量を活かした叩きつけが、本来の半分も威力を出せないのだ。

 髭面は寧との打合いでそれに気付いた。だから身を捨てて前に出た。

 そしてもう一つの寧の不利を衝いた。体格差だ。

 上背がある髭面は叩きつけられた槍を折り畳むように寧へと押し付け、そのまま鍔迫り合いへと持ち込んだ。

 むさい髭面と麗顔が並ぶ。

「ようやっと捕まえたぞ」

 酒精と腐臭の混じった口臭を吹き掛けられても、寧は髭面から逃げられなかった。

 渾身の叩き付けを弾かれたせいで、寧の手は痺れていた。しかもこの髭面、顔に似合わず巧みに重心を捌いてくる。横に力を逸らそうとすれば体を入れ替えついてくる。引いても同じだ。押し返すなどもっての外。完全に、寧の動きが封じられた。

「このっ」

 悪足掻きに金的狙いの蹴りを繰り出すが、

「おっと」

 ぐいっと槍を押されて均衡を崩され、寧の蹴りは不発に終わったどころか宙を彷徨う。

 寧は慌てて繰り出した足を戻した。髭面が浮いた足を片手で掴もうとしてきたのだ。その間も、髭面は片手で寧を押し込めていた。

 力の差は絶望的だ。

「さて、身の程を知ったかな、娘よ。今すぐ詫びて媚びるなら、無体な真似はしないと約束するがな。売り飛ばすのも考えてやろう。お前の容色も腕も、手放すには惜しい」

 寧は固く口を結んだまま、髭面の力に耐えた。

「強情だな」

 嫌らしく歪んだ笑みがぐっと近付いてきて、寧は反射的に身を反らした。腰を入れていても耐えられない圧力だ。押し切られ、後ろに倒れまいとたたらを踏むが止まらない。

 二人は武器を絡めたまま、ずんずんと移動した。寧は後ろ向きに、髭面は前に。

 堪ったものではないのは寧の背後で取り巻いていた野次馬だ。倒されまいと耐える寧の背中がどんどん近付いてきて、わっと悲鳴を上げながら左右に割れた。

「ほれほれこのまま道行と洒落込もうか!」

 人海を割りつつ、髭面の勝ち誇った濁声が響く。

 下品な言葉にも、寧に応える余裕はない。

 このまま退がり続ければいずれ誰かや何かにぶつかって圧し潰されるか、足をもつれさせて転ぶ。

 そうなればもはや髭面の為すが儘だ。どんな目に合わされるか、考えたくもなかった。

 しかし寧は抵抗する術を何も思いつかなかった。どうしようもなく最悪の瞬間を待つだけ。

 その背中に衝撃が走った。肺が圧し潰され、呼吸が止まる。壁のような硬いものにぶつかった感触だった。

 力は呼吸で生まれるものだ。その呼吸が乱れた今、寧のささやかな抵抗もこれまで。

 寧は次の瞬間に訪れるであろう不快な感触に抗おうと、固く目を瞑った。

 だが、そんな事態は一向に訪れない。

 どころか、寧は先程までと打って変わって、髭面の力をしっかりと抑え込んでいた。まるで肩を誰かに支えられているかのような力強さだ。

 ゆっくりと目を開く。青い瞳にまず飛び込んできたのは、髭面の呆気にとられた面持ちだった。その顔もしっかりと押し返せている分、遠い。呆気に取られた髭面の力が弱まっていた。

 事態を飲み込もうと首を巡らせるまでもなく、状況をひっくり返した原因が声を掛けてきた。

「おまえはカッとなりやすいんだな」

 頭の上から降ってくるのは聞き慣れた男の声。

 寧を押し留めたのは壁でもなんでもなく、キリその人だった。キリは寧を抱きかかえるようにして彼女の槍を支えていた。

「……ましらの次は塗り壁か。貴様は一人妖怪見本市か」

「一応助けたんだ、礼くらい言えんのか」

「助けを頼んだ覚えはない」

「なら手を離すぞ」

 二人が呑気に掛け合う間も、髭面はキリごと寧を押し倒そうと躍起になって押していた。が、キリの腕に支えられた槍はびくともしない。

「それはっ……そもそも貴様は見ていたのになんで――」

「糞っ、なんなんだてめえは!」

「お前とは話してない」

 吠えた髭面にキリは言い捨てると、軽い動作で槍を押し出した。だがその膂力は髭面を跳ね飛ばすほどだ。咄嗟に手を離していなかったら、寧の肩もどうにかなっていたかもしれない。

「ちっ、仲間がいるなんて聞いてねえぞ!」

 髭面は捨て台詞もそこそこに踵を返すと、倒れた仲間を残して観衆の輪に飛び込んで逃げていった。

 その引き際の鮮やかさに後れを取ったわけではないが、寧もキリもその背を追おうとはしなかった。

 追ったところで簡単に捕まえられるとも思えなかったし、依頼人を聞き出すなら伸びてる四人からで十分だと判断したからだ。

「で、貴様はいつまでわたしを抱きすくめている」

「おまえが離れるまでだ」

 実際は寧がキリに背中を預け、キリは片手に槍、片手を寧の肩に置いていただけだったが、寧の掣肘がキリの脇腹に刺ささった。流石に呻き声を漏らして槍を手放すと、寧がそれを倒れる前に引き取り、手近に倒れていた破落戸に歩み寄った。

 その金の頭の上に何やら軽いものが当たった。何かと確かめる間もなく、それらは次から次に投げ込まれる。燥いだ声と共に。投げ込まれているのは懐紙に包んだ投げ銭だ。野次馬からのいわゆるおひねりだった。

「姉ちゃん、ちゃんばらの次は濡れ事かい。見せるねぇ」

 とか、

「その調子で穢物もどんどん狩ってくんなせえっ」

 などはまだマシな方で、

「どこの劇座かねぇ」

「ありゃ穢物斬り様だろう」

「おりゃあてっきりどこぞの役者かと思ったぞ」

「穢物斬りってぇのはお武家様みたいな生粋じゃあねえとあっという間に穢死しちまう。んでもってお武家様のお姫様はみんな美形ぞろいだ」

「なるほどなあ、役者じゃなくてお姫様かい」

 或いは、

「今こっちを見たぜ。ありゃおいらに惚れたな」

「どうしてそうなる」

「おいらの励ます声があんまりにも美声でな」

「酒に焼けたてめえの声のどこが美声だ、こいてろ」

 といった勝手なやりとりが二人を取り巻いて繰り広げられていた。

 目立ってしまったことに寧は少しうんざりした様子でそれを無視した。

「おい、そことそことそこに寝ている男をここまで運んでくれ」

 寧がキリを振り返り、三か所で伸びている男達を指し示すと、キリが腑に落ちない顔付きながら言われた通りに動く。

 そうして道の端、天水桶のそばに破落戸を集めたころには、野次馬の輪はほとんど解散していた。

「さて」

 手近に落ちていた古い荒縄で四人の手首を手早く縛り上げ、男の一人に気付けを施す。男はうっと呻いて意識を取り戻した。

 キリはその様子を少し離れたところで見物する姿勢だ。

「依頼主は誰だ」

 単刀直入な寧の質問に、起こされた男はまだ意識がはっきりしないのかゆっくりと周囲を見回して最後に寧の厳しい顔つきを見つけ、「ひっ」と呻いて仰け反った。起こしたのは選んだわけでもないがあの馬面だった。

「な、なんの話だ」

「依頼主は誰だ」

 寧は説明の代わりにその耳に懐剣の鎬を当てた。冷たい感触が男の恐怖心を煽る。

「し、知らぬ。おれはあの赤髭の男に誘われただけだ」

「最後だ。依頼主は誰だ」

 無感情な寧の声には鬼気迫るものがあった。そこが天下の往来であることも忘れて、男は激しく首を振る。

「本当だ、本当に知らぬ!」

「ふむ……」

 寧はそのまま泣き喚く男を放置して、寧は次の男に取り掛かった。馬面が暴れるものだから、一括りにされた男達は勝手に目を覚ましていた。

「つまり貴様らは『わたしを捕らえて好きにした上でこの田日良から離れた町に売って小銭稼ぎをする』、とあの髭に誘われたというわけか」

「そ、そういうことだ」

「こんな強え奴なら乗らなかった」

「あの髭め、どこに行きおった」

 などと口々勝手に喚き散らす男達を無視して、寧はキリを見た。

「どうやら、あの髭面を追うべきだったようだ」

「今更だな。土地勘もないのに追いかけたところで徒労だろう」

「だろうな……さて、どうしたものか」

「放っておけばいい、用があるなら向こうから来る」

 投げ遣りな言葉に寧が心底嫌そうな顔で口を尖らせた。

「他人事だと思って。わたしはもうあれの相手はしたくないぞ。口が臭すぎて近付きたくない」

 とは言うものの、寧の本心はやはり髭面との実力差にあろう。

 今回はキリの介入で事なきを得たが、次に相対することがあった時もこう上手くいくかどうか、寧は自信がなかった。

 寧の心底には、キリが護ってくれれば、という気持ちがないでもなかった。しかしそれを認めたくはなかった。認めれば、甘える気持ちが出てきてしまう。そうなれば向後、独りで生きていくのが余計に辛くなる。

 だから寧は己の気持ちに見て見ぬ振りを貫くのだ。

 それでも気付けば視線がキリを追いかけていた。

 キリは、虚空を睨んでいた。

 その様子はどこか緊迫したものが漂っている。

「どうした?」

「しっ!」

 思わず訊ねた寧をキリが制する。何事かと怪訝そうに寧が見守っていると、キリはおもむろに寧へと隻眼を移した。

「……悲鳴が聞こえた」

「悲鳴?」

 そんなものは寧の耳には届かなかったし、道行く通行人の誰もが素知らぬ風で日常の中にいる。空耳ではないかと言おうとした時、

「あの男だ」

 キリは弾かれたように走りだし、裏路地に飛び込んでいた。

「あ、おい、ちょっと待て!」

 その背中を追いかけて寧も駆け出す。

「お、おぬしら我らを放っておく気か!」

 二人が消えた裏路地に、通行人の奇異の目に晒された破落戸の情けない悲鳴が空しく響いた。


「わっ、急に止まるな――ッ!?」

 薄暗い迷路のような裏路地を右に左に駆け抜けた。息を切らせ始めた寧が長屋の隙間のような路地を曲がると、視界いっぱいに草臥れた単衣の背中が広がり、思わず両手を前へ出して衝撃を和らげたが、キリは小動もせず前方を見つめている。

 その時点で既に、寧も嗅ぎ慣れたくない不吉な臭いに気付いていた。濃厚に死を思わせる、血の匂いだ。

 狭い路地を塞ぐキリの脇からその前方を覗くと、案の定、そこには、夥しい血を流して横たわる男の姿があった。うつ伏せで顔がわからぬものの、赤毛の蓬髪は先程の髭面にそっくりだ。

 いったいこれはどうしたことか、寧が頭の中を整理している合間に、キリは躊躇うことなく遺骸の傍らにしゃがみ込み、その様子を確かめ始めた。

「さっきの男だな」

 死に顔を覗き込んだキリが淡々と告げる。

「なぜ、こんな……いったい何が……?」

 人の死に接したことのない寧ではない。先程逃げたはずの男がこうして息絶えている無常に驚きはしたものの、怯んだ様子はなかった。むしろどうしてこのような仕儀に陥ったか、ただただ首を捻る思いだ。

 キリは遺骸を動かすことなく、さらに検分を進める。

「胸を一突き……これは、刃でか」

「刀か」

「ああ」

「こんなところで大刀を振り回せるとも思えんな」

 寧が左右を見回す。そこは長屋と長屋が背中合わせに建つ裏通りで、道幅は大人が両腕を広げた程度しかない。小太刀ならまだしも打刀を抜くにも不便そうで、実際、髭面の刀は鞘の内のまま、鯉口もそのままに抜こうとした気配すらない。

 髭面の死に顔には歪んだ驚きの表情が張り付いており、思わぬ下手人からの一瞬の技で突き殺されたのだろうと想像できた。

 遺骸に片手を立てて冥福を祈る寧の横で、キリは虚空に鼻を引くつかせては眉根を寄せていた。

 薄暗い隘路の地面には黒々とした染みが広がり、濃い血と死の匂いが漂っている。わざわざそんなものを嗅ぎ取っているキリに、寧は不信感すら覚えた。

「……何をしている」

「何か、不思議な臭いがする」

「血の匂いしかしないがな」

「甘い、花のような香りだ」

「……先程の悲鳴を聞きつけた耳といい、貴様は本当に人の身か?」

「穢士はこれくらい普通だ」

「穢士が恐れられる理由が分かった気がするぞ……」

 冗談めかしていても寧の顔はわずかに引き攣っている。キリはそれを無表情に一瞥して、匂いを探って死骸を検分するべくしゃがみこんだ。その時だ。

「おっとお二人さん、動かないでおくれよ」

 男の声が闖入した。同時に、寧とキリは前後を挟まれていた。正面から二人、背後から一人。声がしたのは背後の方だ。正面の男二人は町人の形だが場慣れした雰囲気を漂わせている。かといって生活を崩した風でもない。それぞれ、手に六尺棒をもって狭い路地を封鎖するように交差している。

 対して、背後の男はずんずんと距離を詰めてくる。前方の二人が単なる足止めだと悟った二人は、背後から近付いてくる男の方へと身体を向けた。

 木綿縞の袷を尻っぱしょりにし、白い股引に足袋草履。見せつけるように突き出された右手には使い古された十手が鈍く輝いていた。これで相手の身元ははっきりした。田日良町の岡っ引き親分だ。今は背後で寧とキリを逃さんと頑張っている二人はその手下か。

 岡っ引きは町民身分でありながら、代官所の改方同心の手足となって探索を助ける者のことだ。同心がこれはと思った町民に十手を預けることでその身分証としている。

「わたしたちではないぞ。到着したら死んでいた」

 寧が慌てた風もなく答えると、男は少し感心したように目を細めて足を止めた。二人を警戒してか三間ほども距離を取っている。

「疑っちゃいますが決めつけるつもりもありませんや。だが精霊(しょうろう)さんをあれこれ弄繰り回されるとあとでわっしがどやされるんでさ」

「だ、そうだ」

 寧がキリに促す。キリは立ち上がると、先に動いた寧に従うように後退りして遺骸から離れた。

「ご協力、感謝しますぜ」

 愛想良い言葉とは裏腹に、男の目は鋭く二人を睨んでいた。下手な動きをすれば即座に十手を飛ばさん気迫だ。

 寧とキリには毛頭逃げる気はない。後ろめたいところもない。男が遺骸を確かめるのを黙って見守った。

「心の臓を一突き、懐は……紙入れが抜かれてるか」

「それのことか」

 寧が遺骸から一間ほど離れた壁際に落ちている紙入れを指差す。ちょうど男と寧の間だ。男は寧から視線を離さずに紙入れまで歩み寄ると、血に塗れた紙入れを開く。中身はすっかり空だった。

「抜かれているが……」

 男の視線が再び遺骸に向いた。

「物盗りにしちゃあ穢物斬りが大人しくやられすぎだぁな」

「顔見知りの仕業だろうな」

「……心当たりがありそうな物言いでがすね」

「親分はわたしとその男の因縁を承知か」

「ええ、もともとあんたらの喧嘩始末に呼ばれた手合いですからね。押っ取り刀でようよう駆けつけてみれば騒ぎは終わってあんたらがこっちに向かったと聞いたから追ってみれば……」

 その先は遺骸に向けた視線で物語った。

「なら話は早い。どうやらその男は誰かに唆された口のようでな」

「しくじって口封じですかい」

「と、いった具合かと考えた」

「唆されたと仰るが――おっと、そう言えばまだ名乗ってませんでしたね。わっしは富石丁の十手を預かる勘吉と申しやす」

「寧人だ。こっちはキリと名乗っている」

「で、唆されたと仰るが、寧人どのは唆す相手に心当たりが?」

 鋭く質問され、寧は黙った。だが黙りっぱなしは逆に疑わせるだけだと思い直し、当たり障りのないところを掻い摘んで話すことにした。すなわち、自分が仇討旅の最中であること、実家とは疎遠になっていることをだ。

「……討手を掛けられる心当たりがないでもないが、三年以上音沙汰なしの相手だ。今更どこにいるかもわからないわたしにちょっかいをかけてくるとは思えない」

「そりゃ確かに……で、そっちのあにいさんは」

「俺は関係ない」

「その髭面は最初からわたしが目的であったように思える。確かに、この木偶の坊は関係ないだろう」

「でがすか……となると、厄介でがすな」

 三人は物言わぬ死人を前にして黙りこくった。各々思いは方々に散っていたが、やがて勘吉が思い出したように口を開いた。

「とりあえず、近くの番所に精霊さんを運びやしょう。袖擦り合うも他生の縁、手伝ってくれやせんか」

 寧はあからさまに嫌そうな顔をしたが、キリは黙って前に出た。

 そうして手下二人がどこからか調達してきた板戸に髭面の遺骸を載せると、四人がかりで一丁ばかり離れた番所に運び込んだのだった。

 

 二人が解放されたのは日もとっぷりと暮れた暮正時(午後六時)も半ばだった。

 石切神楽の威勢も賑やかな石切広小路を並んで下る寧の顔には、倦んだ疲労が滲んでいた。

 キリの方は顔色一つ変えずに平然としたものだ。寧はそんなキリをなんとなく恨めしく思った。

 番屋では一刻ばかり待たされた後に駆け付けた与力に、喧嘩沙汰の始まりから成り行きそして終わりまでを委細洩らさずとっくりと語らされた。その前に勘吉親分にも話していたから二度手間だ。

 几帳面そうな与力は御用聞きに予め見物衆から状況を聞き集めさせていたのだろう、いちいち矛盾がないことを確かめられるのはなんとも煩わしかった。しかも会話を書き留める祐筆の手が遅いせいか、何度となく話を止められるものだから一向に進まず、寧の疲労を増大させた。

 その上で改めて髭面が殺された理由に心当たりはないかと質問責めに遭ったのだ。

 結局、並び横丁で注目されていた二人は逃げた男を追って殺すだけの時間は無かったという結論で無罪放免となった。

 どうして面倒をかけてきたむさい髭面のためにこんな目に遭わなければいけないのかと、寧にとっては恨み辛みばかりが募る三刻(三時間)だった。

「……そう言えば、先刻気になることを言っていたな」

「なんの話だ」

「匂いの話だ」

「ああ……」

 広小路を下る石遣りたちの石遣唄がやけに耳に付く。キリは何かを思い出すような顔で黙り込んでしまい、結局、寧が話を促すまでその状態は続いた。

「何を考えている」

「あの匂い、どこかで嗅いだ気がする」

「それは聞き捨てならないな」

 寧が足を止めた。振り返ったキリはその疲労の上に厳めしい色を帯びた麗顔を見た。

「どこで嗅いだのか覚えていないのか」

「覚えていない。だがつい最近のことだ」

「思い出せないのか」

 声量は絞っているが語調は強い。さもありなん、狙われているのは彼女なのだ。理由も相手もわからない襲撃は危機感ばかりが募る。その危機感が彼女を浮き足立たせる。

「……気には掛けてみる」

「つい最近とはどれくらいつい最近なんだ」

「ここ二三日だとは思う」

「であれば、この町の人間か」

「そうだろうな」

「この町に、わたしを狙う誰かがいる……」

 それも、口封じのために人の命を奪えるような無慈悲な相手が。

 寧は戦慄から逃げ出すように、再び足を動かし始めた。

 あれこれと考えていたら、いつの間にか長屋へと辿り着いていた。そこでふと気付く。

「何故、貴様がここにいる」

 半眼で振り返った視線の先には、追い出したはずのキリの姿があった。

 キリは悪びれた様子もなく寧の視線を見返し、

「荷物を取りに来た」

 と答えた。

「……そうか」

 言われてみれば考えるまでもないことだった。

 てっきり変な気でも起こしたのではないかと気を回し過ぎた自分を疲労のせいにしつつ、寧が戸に手をかけたところで二人の背後からおっとりとした声が上がる。

「おやご両人、今お帰りですか」

 そこには湯から帰ってきた態の金助親方が立っていた。向かいの長屋の明かりに照らされた親方は、小綺麗な浴衣を着て手には濡れ手拭いを提げている。

「ちと面倒事に巻き込まれてな。番所であれこれ話をする羽目に陥ってた」

「さては勘吉親分に捕まりましたか。あれのお調べはしつこいですからね、こってり絞られたでしょう」

「まったくだ」

 頷いて、勘吉親分の飄々とした顔を思い出した寧が大袈裟に肩を落として嘆く。

「ここのところどうにも厄介ごとばかりだ」

「厄落としであれば町を上り切った西手にある初岩神社に願掛けなと如何ですかな」

「初岩神社とな」

「文字通り、この町の石切り場で初めて切り出された磐座様をお祀りしたお社ですよ。なんでも山の中腹でその岩は光っていたとか」

「岩が光る。それは今も光っているのか」

「何百年も前の話で今は光っていませんがね、確かにそれを信じたくなるほど森厳とした佇まいのお石様ですよ」

「そうか……どうせ次の新月まで暇だしな。神頼みでもしてみるか」

 寧が我が身の不運を力ない笑みで笑い飛ばそうとそて、金助親方も釣られたように笑う。そうしてから急に話柄を転じた。

「ところでお二方はもう夕餉は済ませましたかな」

「まだだ」

 それまで黙って立っていたキリが急に割って入ってきた。

「でしたら、うちで召し上がっていきませんかね。家内と二人で静かに食べるのもいいのですが、たまには若い方と賑やかに、と思いましてね」

「それは助かる」

 キリでなくとも嬉しい誘いだ。今度は心からの笑みを浮かべて寧が頷いた。

「外で食うのは億劫、自炊なぞ言わずもがなだったが、金助親方の家ならば変なちょっかいもないだろうしな」

 二人は強いて遠慮という言葉を忘れて素直に喜んだ。

「それでは行きましょうか」

 金助に促され、二人は親方の家へと、来た時とは打って変わった軽い足取りで戻っていった。

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