第8話 ゆかり・違うから
家族の反応に驚いて思わずゆかりが海斗から手をはなすと、
「手を離さない!」
と、しずかに叱られてしまった。
もう一度海斗の腕に触れると、再び家族がどよめく。どうやらゆかりが触れると、海斗の姿が皆にも見えるらしい。
ちなみに、海斗を見て「いい男だ」と言って喜んでいるのは母と祖母だ。
そんな母たちの視線にゆかりが耐えられなくて手を放そうとすると、再びしずかに叱られてしまう。
「いっそ手をつなぎなさい。そうすれば手も疲れないでしょうよ」
「え~」
「ええじゃない。海斗君、ゆかりと手を繋いであげて」
しずかに頼まれた海斗が面白そうに、「姫、お手を」と恭しく左の手を差し出す。
ジーッと家族中から見られる中、ゆかりは精一杯どうでもいいような表情で手を伸ばすと、すかさず海斗に指を絡められ恋人繋ぎをされてしまった。
「えっ、なっ、なにを」
「だってこうしてれば、ゆかりちゃんが疲れても手が離れないでしょ」
「それがいいだろうね。海斗君、その状態だと麦茶が飲めるかしら?」
しずかの言葉に海斗がグラスを持てるか試すと、きちんと掴め、しっかり麦茶を飲むことができた。よほど喉が乾いていたのか、あっという間にグラスが空になるのを見て、気づいてあげられなかった罪悪感でゆかりの胸が痛む。
ゆかりが触れていることで普通に戻れるなら、そりゃあ手を離したくないだろう。
しずかは暫く考え込んだ後、ゆかり達に立つよう促した。
手を繋いだままなので、どうにもいたたまれないゆかりは、少し嫌な予感がする。そして、その予感は正解だった。
「なるほどね」
一人頷く曾祖母に皆が何事かと注目するけれど、ゆかりは俯いてそっと唇を噛んだ。
「彼がゆかりの相棒だったんだね」
「違うよ」
しずかの嬉しそうな声にかぶせるよう否定した。
違う。そんなんじゃない。
「こんな長髪だけど巽海斗は男だよ? そんなわけないじゃない」
海斗が不思議そうに、でもどこか嬉しそうな顔で「ずっと委員とか一緒だし、相棒みたいなものでしょ?」と言うけれど、「ごめん、黙ってて」と囁いた。
「意味が違うの」
一人で
オバケにも狙われ続け、病気などで弱ったときには抵抗できずに、下手をすれば命を落とす可能性が高い。
相棒は代々竜神の子孫の身内から出ることが多かった。
親兄弟、イトコなどの親戚。先祖が遠い土地に離れ血が薄れても、なぜか導かれるようにタイミングよく戻ってくるものだった。
でもゆかりにはいない。
リミットは十二歳と言われているから、中学入学と共に諦めた。
本当だったら相棒と二人でこの土地を浄化しながら、人々を守るお守りを作るという役割もあるけれど、今はしずかが一手に担っている状態だ。年に何日か帰るゆかりは、そのお守り作りの力に少しなれるくらい。
なのに去年、高等部の入学式で奇妙な感覚に襲われた。
急に体が軽くなるような安心感。目に見えて自分の力が強くなる感覚。
それは巽海斗がそばにいるとき顕著に感じられた。
入学して初めて彼を目にしてから、近づいちゃいけない人だと感じた。
相棒は同性のはずだから、彼は絶対に違う。
だからよけいに海斗の行動が、声が、姿が常に目に入ると気に障った。
できるだけ関わらないようにしてるのに出来なくて、でもそれも卒業までだからと歯を食いしばっていた。
よその土地の人であっても女の子だったら仲良くなって、力を十分につけるのに必要と言われる期間、側にいられるよう頑張っただろう。
でも男の子じゃダメだ。期待するのもダメだ。特に巽海斗はダメなのだ。
「なんだい、気づいてたんじゃないか」
「だから違うの」
否定し続けるゆかりに、しずかが難しい顔をして海斗をじっくりと見つめると、
「言われてみると、違う、のかね……」
その少し自信なげな声に、ゆかりはホッとした。
しずかにも何かが違うことが分かったのだろう。
ゆかりは相棒に出会えなかった。もうこれは仕方がないこと。だから一人で力をつけていかなければいけないのだ。
ほっと息を吐いたとき、母が首を傾げて不思議そうな顔をした。
「ねえ、海斗君。昔、この町に住んでなかった?」
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