第6話 海斗①

(なんでこんなことに?)

 海斗は隣に立つゆかりを見ながら、内心首を傾げた。

(突然好きな子の家にご招待って夢か? やばい、やっぱ俺死んだんじゃね? 心臓バックンバックンうるさいけど)


 海斗は、たとえ体が透明でも、ゆかり以外触れることが出来なくても、やっぱり自分は生きてるのかと不思議な感じがする。

 ゆかりから、実家に来ないかと言われた時は驚いた。

 かなり渋々といった風ではあるけれど、それでも彼女が自分を心配してくれているのだと感じ、一も二もなく頷いた海斗はちょろい男なのだろう。


(いいんだよ別に。ゆかりちゃんの実家だぞ? 夏休みを一緒に過ごせるんだぞ。誘われて断るとかありえないだろ)


 ゆかりには彼氏がいるという噂は聞いているけど、今は忘れることにした。

 なのに彼女が、実家には「和くん」の車で帰るのだというので、両手を床につきそうになる。

(車持ちの彼氏。大人の男かよ)

 ライバルの車……。

 というか、その彼氏もゆかりの実家に行くことかと気づいて慌てた。

 とっさに断ろうと思ったものの、ゆかりの「ちょっと待っててね」と、珍しく自分に向けてくれる優しい笑顔に負けた。普段ちょっかいを出しすぎて怒った顔ばかり向けられるせいで、その破壊力が半端ない。

(くっそ、かわいいなぁ、おい)


 こうなったら、和くんでもなんでも会ってやろうじゃないか!

 そう気合いを入れ、車を待つゆかりのつむじやうなじを見るともなしに見つめる。

 そのポニーテールが揺れ、彼女が一台の車に「和くーん!」と手を振ったのに気付いた。

「ゆかり! 待ったか」

「ううん、全然」

 車から降りてきた男を見て、海斗は愕然とした。


(いやいやいや、年上ったって程があるだろう。どう見ても白髪の爺だぞ)


「和くん、さっき話した子がここにいるんだけど、わかる?」

「んー、わからんな。ん? 荷物はそれだけか?」

 爺、もとい和くんがゆかりの旅行鞄を受け取り、海斗がいるあたりを見た。どうやら海斗の荷物はないのかと聞いているらしい。

「うん、私の分だけ。さすがに男子の部屋には行けないし、自分で自分の荷物も持てないみたいだから、必要なものは向こうで用意するよう頼んでおいた」


 幽霊(仮)の海斗が一緒に行くことに、とくに疑問もないような会話に戸惑った。ゆかりに霊感のようなものがあることは教えてもらったが、この爺もそうなのだろうか?


「巽海斗、紹介するわ。私のおじいちゃんとおばあちゃん。和くん、頼ちゃん、見えないだろうけど、ここにいるのがクラスメイトの巽海斗、くん、ね」

「おじいちゃん⁈」

 海斗の素っ頓狂な声に反応したのはゆかりだけだ。

 車の助手席にも年配の女性が座っているのに、今の今まで気づいてなかった。

(和くんて、じいちゃんだったのか!)


 時々漏れ聞こえてくる会話から、てっきり「和くん」なる男は彼氏だと思っていた。彼女の友達も「彼氏」だとからかっていたけれど、どうやら冗談だったらしい。


 海斗は慌てて姿勢を正し、「お世話になります!」と直角になる勢いで礼をした。

「見えてないだろうけど、深々と頭を下げてお世話になりますって言ってる」

「そうか。まあ、できるだけ力になるから、気楽にな」

「はいっ、よろしくお願いします!」

「よろしくだって」


(やばい。俺、家族公認ってやつになれるんじゃないか?)

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