日常
転校してきてから数週間が経っただろうか。
私は目立たないように、静かな女の子を演じ続けていた。その結果か、前の学校のようにいじめられることはなく 、穏やかな日常を送っていた。このまま、目立たずいじめられなければ、穏やかな日常が送れれば…そんな風に毎日考えていた。
そんなある日の授業中。
私の苦手な数学の授業が6限にある日で、個人的に気分は落ち込んでいた。
「…はぁ、はぁ…」
苦しそうな息遣いが聞こえ隣を見ると、美奈が脂汗をかき、今にも死にそうな顔をしていた。体調不良?いやまさか…もうひとつの嫌な予感が頭をよぎった。転校初日に感じたあの気配。その可能性を信じたくはない…。
「加藤さん?加藤さん?一ノ瀬さん、保健の先生を呼んできて!」
私は無我夢中で走った。今もし50メートル計測したら、絶対過去最高記録だろうって言うぐらい速かっただろう。信じたくなかった。こんなことを望んではダメだけれど、ただの体調不良であってほしいと心から願っていた。
そこからの事は覚えていない。気づいたら私は教室に戻っていた。後から聞いた話ではあるが、あのまま美奈は救急車で運ばれたらしい。なぜあれほど苦しそうだったのだろうか。明日以降ちゃんと美奈は生きているのか。私の頭の中は美奈のことばかり考えていた。
翌日、美奈はいつも通りだった。あんな苦しそうだったのが嘘みたいに。そして、自分の席につきいつも通り読書したり寝たり。体調不良だったのだろうか…?謎は深まるばかりだった。そんなとき
「ねぇあなた、もしかして私が見える?」
と話しかけられた。信じられなかった。美奈の体の方から聞こえるのに美奈は一切喋っていない。まさか、信じたくなかったのに…。やはり美奈には幽霊が取り憑いていたのだ。私は美奈から離れ、人気のない階段まで行った。
「私のこと見えているね?私が生きている時、会ったこともあるよね?一ノ瀬弥生さん。」
…信じたくないことが増えてしまった。驚くことに幽霊は、かつて美奈がいじめて自殺した女の子、河井美玲だったのだ。
「河井、美玲さん、ですか、?」
「やはりわかっているようね。ちなみに、昨日あの子が苦しんだ原因もあなたの想像通り私。私はあの子を殺したいの。私の苦しみをわかってもらうまで、散々苦しめてからね。止めようとしても無駄よ?あの子は覚えているでしょうけどいじめっ子よ。私は死神だと告げたとして、あの子はきっと信じないわ。私は一週間ほどあの子の体から離れなければならないけれど、戻ってきた時は…ふふ。殺してやろうかしら。あなたの目の前で。もしあの子を助けたいなら、死神であることを打ち明け、事前に打ち合わせをして一週間後の教室で待っていることね。」
その苦しみは、私にも痛いほどわかる。過去に河井さんと同じように私もいじめられていたのだから。しかし殺されて欲しいとは、どうしても思えなかった。偽善者と言われてしまうだろうか。私もいじめられた時の苦しみを知っている。今の美奈も過去の美奈も知っている。だからこそ今殺されて欲しいとは思えなかった。しかしそれを止めるすべは、死神であることを美奈に明かし、河井さんと話し合わせること以外ないこともわかっていた。今まで私が必死に隠してきた事実。もし今ここで美奈に明かせば、今までの努力が全て無駄になる。また過去のようにいじめられる可能性だってある。怖かった。どちらの選択もメリットデメリット存在する。私には、どうしていいかわからなかった。
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