第5話 元アウトロー牧師 柏原牧師の更生記録

 講演会は、半数以上が保護司や非行少年をもつ親たちで占められている。

 半分うつむき加減で、ため息が濁るほど重々しい雰囲気である。

 そのなかで、アウトローから更生したというのは、まさに暗黒の空にきらめく、救いのキラ星のような存在である。

 柏原達也は、過去を語り始めた。


 小学校五年のとき、運動神経は良かったが、体育の時間、担任に

「お前はサッカーの時間、悪役専門の捨て駒になれ」

と言われ、傷ついたことを発端に、中学時代はケンカ三昧、高校はクラスメートに暴力を振るってケガをさせ、一年の一学期で退学。

 繁華街で当時ディスコと呼ばれるところで遊んでいるところを、アウトローの世界にスカウトされたという壮絶な過去をもっていた。

「皆さん、ここにはマルボー専門である暴力団専門の刑事さんはいらっしゃいませんね」

と、観衆の笑いを誘いながらも、アウトロー時代、拳銃や麻薬を取り扱ってた話をし

始めた。

 拳銃はチャカといって、高価で売れる。

 麻薬は億単位の金になり、売買人自らも麻薬中毒となる恐れがあり、実際、自らも中毒になって所属していた有名な組を破門になったところを、元アウトロー牧師に救われ、キリスト教の信仰をもち、牧師になった話。

 観衆は皆、目を丸くし「おお怖い」と震え上がる者、眉をしかめる者もいたが、まるで別世界のVシネマを見るような好奇心一杯の表情で、聞き入る者もいた。

 笑香が今まで聞いた初めての世界だった。

 そして、柏原達也は、アウトローの世界では組長代行ナンバー3の座に君臨する筈だったが、自らドラッグ中毒で役に立たなくなった自分を破門にしたのは、他の組員に対する見せしめの意味もあっただろう。

 アウトローの世界をクビになり、ホームレス寸前の生活をしていたとき、元アウトローの牧師に出会い、その教会のプレハブの一室で二年間、修業しているうちに、不思議と麻薬の後遺症ーフラッシュバックは完治したという。


 それからは、残された人生を神のために生きようと決心し、神学校に通い、現在は牧師として、自分と同じ立場にある人や、非行少年の更生に努めているという。

 聴衆はそんな魔法のようなことが、現実に存在するのであろうかと、いぶかし気に聞いていたが、共にいる警視総監や生活安全課課長も、感心して聞き入っている。

 最後に警視総監が締め括った。

「一度悪に染まった人は、更生が難しいです。今の日本には更生施設がありません。しかし、この柏原達也さんのような人が、どんどん出てくれることを願います。今後の御活躍を期待しています」

 聴衆の温かい拍手に包まれ、講演会は幕を閉じた。


 講演会の帰り道、ホストである彰人と再会した。

 なんと彰人は、柏原の牧会する教会「罪人の友 キリスト教会」に通っているという。

 通常、教会は午前中に礼拝があるものだが、柏原の教会は午後からあるので、彰人は仕事の帰りに通いだしたという。

 なんと、柏原の母が経営する居酒屋を借り切って礼拝しているという。

 酒場のメニューと、ボトルに囲まれて礼拝しているわけだが、その方が、気軽に入りやすいという人もいるくらいだ。

 

 なんとそこには、笑香の母にいちゃもんをつけ、恐喝した野田む杖も出席していた。

 




 

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