第4話 更生への道のりを開いていこう

 人は誰でも非行に走る恐れがある。

 一見恵まれた裕福な家庭の人でも、全くそうでない人でも同じである。

 一度マスコミのえじきになれば、なかなか社会でやり直すのは難しい。


 更生への道のりは、大変険しいものがある。

 この頃の親は、子供をしつけようとはせず、非行に走ったあとは少年鑑別所にさえ入れておけば、更生すると思っているらしいが、これは大間違い。

 鑑別所は、非行少年を一時的に収容するだけの場所であり、退院したらワル仲間の間でハクがついたと持ち上げられ、鑑別所仲間と組んで新たな犯罪に手を染め、少年院送致になるのがオチである。

 いわば少年院送致の前段階といったところかもしれない。


 一度悪のレッテルを貼られた人間は、それがスティグマとなり一般社会から隔離され、甘い言葉で誘ってくるアウトローの利用されたあげく、三十歳くらいになると、用済みになり、破門というケースが多い。

 その後、更生してまともに生きるのは至難の技である。本人の想像を絶する努力と周りの温かい理解が必要である。

 反省は一人でもできるが、更生は一人ではできない。


 その日の夜、ドキュメンタリー番組で、女子刑務所のリアルが報道されていた。

 服役者の全員が男絡みであり、そのうち半数が、離婚者も含めた既婚者であり、約八割が麻薬中毒で、それでも4%ほど余剰人員が出ているという。

 慰問に訪れた、女性演歌歌手やベテランマジシャンも口を揃えて語っていた。

「私もあと、一歩間違えれば、ああなっていただろう」

「僕もほんの神一重の差だったかもしれない。だから、出所して街で僕を見かけたら気軽に声をかけてほしい」

 人間、誰しも罪を犯す危険性をはらんでいるが、他人の犯罪だと、白い目で見るが、自分の身内となると悩みの種となる。

 それが原因で、勘当や親戚縁者から、絶縁を言い渡されたりすることもある。

 本人がやり直したいと思っても、世間の偏見はそれを許さず、厚く大きな壁が立ちはだかり、本人の行先を奪ってしまう。

 作家や画家などの特殊能力をもった人でない限り、平凡な人は偏見を取り払うのは難しい。

 笑香は、軽いいじめを受けたことはあったが、悪の道に入らなかっただけは幸いだったと痛感した。

 笑香は、地元の区役所前を歩いていると、ひときわ目をひく黄色い垂れ幕が、道行く人々を誘い出すように風に舞っていた。


「なくそう非行、守ろう犯罪、何度でも更生の道を目指して」と太字で明記されている。

 いきなり、モノクロのビラを渡された。

「人間、誰しも非行に走ったり、犯罪者になりたくてなる人はいません。

 しかし、ほんのちょっとしたきっかけで知らぬ間に堕ちて行く若者が後を絶ちません。麻薬中毒の患者は、年々増加傾向にあります。

 友人が皆、麻薬をしていて、一人だけ仲間外れになるのは嫌などの軽い気持ちで始めるのですが、行き着く先は地獄です。それでも麻薬デビューするつもりですか?

 一度でもデビューしたら、もう元の麻薬なし人間には戻れず、一生涯、フラッシュバックに悩まされるんですよ」

 ありきたりな内容のなかで、麻薬デビューという言葉が印象的だった。

 そういえば、日本では人生の成功者といえば、立派な職業で活躍している医者や弁

護士だが、メキシコではなんと、麻薬から脱却した人だという。

「ゲストは警視総監、生活安全課課長、そして元アウトローからの脱出 柏原 達也ー中学時代はケンカ専門ワルから、十七歳のとき、アウトローの世界に入り十二年、しかし、見事に更生を果たし、現在は青少年活動に取り組む命がけ牧師」

 三者が、各々写真入りで紹介されている。


 前者の二人である警視総監、生活安全課課長はちょっぴりいかめしげな中年男だが、三人組の元アウトローは、Vシネマや劇画に出てくるようないわゆる威圧的ないかついイメージなどとは違って、意外にさわやかで柔和な感じた。

 残り定員二十名と、記されている。

 笑香は、さっそく講演会に参加しようと決めた。







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