第18話 結婚

『あゆみを幸せにしてください』


お父様が、言った言葉。


健一さんが挨拶に行った時、そう言った。


泣きながら…


『もちろんです』


そう答えたのは健一さん。


式は挙げない。


内輪だけでひっそりって決めていたんだけど


いつの間にか


【健一君とあゆみちゃんの結婚を祝う会】


というものを、健一さんの友達が企画していて…


私の友達は、まだ高校生だからって、アルコールなしの昼間のパーティに引っ張り出された。


真奈美ちゃんは笑いながら


「よかったじゃん、生きていて」


なんて、私をからかっている。


「そうだね…」


その場には古川さんもいた。


「…騙して、ごめんなさい」


ふてくされたように言う彼女は、たぶん健一さんから謝るように言われたんだろう。


「いいえ、もう気にしてませんから」


私は、笑って返した。


この人だって、健一さんが好きだった。


だから、あんな行動に出たんだろう。


健一さんは、私の所にきてくれた。


それだけで十分。


「健兄を不幸にしたら許さないんだから!!」


そう言ってから、彼女は離れていく。


「どうですか?柴田あゆみさん」


茶化すような真奈美ちゃんの声。


「茶化さないで…まだ、慣れてないんだから」


顔の温度が熱い。


そうです…


籍は今朝、一応、入れました。


学校にも報告しています。


とりあえず、あと2か月だからと退学にならずに済みました。


大学にも無事に進めそうです。


当初の予定通り、私は奨学金で大学に通います。


その為に、必死に勉強してきましたから。


真奈美ちゃんの言う通り、私は教師が合っているようで、教育学部のある大学に進むことが決まりました。


健一さんも了承してくださいました。


「あーあ、当然、子供はまだだよねぇ?」


真奈美ちゃんの言葉に、再び顔の温度が上昇する。


「そ、それは…」


言葉に詰まっていると


「それは分からないよー」


健一さんの友人らしき方が言う。


「健一…あれでも情熱的だから…くふふ」


余計に、顔が…


「おやおや可愛いねぇ」


そう言ってから


「ま、子供が出来ても、休学っていうのありかも」


そう言ってその人は去って行きました。


あう…


顔の温度が下がらない。


「どうしたの?」


そう言って健一さんが現れました。


「はう!!」


何とも言えない悲鳴を上げる私に


「あゆみ…どうした?」


私の顔が赤い事に気付いた健一さん。


「お二人の子供が早くみたいって言っているんですよ」


真奈美ちゃんが、茶化すように言う。


同じく顔を赤くする健一さん。


私は、今日から健一さんと暮らします。


2DKのアパートで…


健一さんは、今は中小企業で働いているそうで…


『あまり広くない部屋でごめんね』


そう言ったけど、私には十分です。


「おやおや、二人とも、今日が初夜でしたね」


くふふと、笑い声をあげる。


私達二人から湯気が出そうだ。


「はいはい、ごちそうさま」


そう言ってから手を振る真奈美ちゃん。


「あの…」


私は、健一さんを見ずに言う。


「…はい」


「今日から、よろしくお願いします」


小さく呟くように言うと


「こちらこそ…」


健一さんも小さく呟く。


二人揃って、ゆでだこ状態でした。





うーーーーーー!!!!


緊張します!!!


今日は、健一さんとの初夜になります。


どう考えても…!!


考えるだけで!!


恥ずかしいです!!!!!


「あゆみ…お風呂空いた」


健一さんが、濡れた髪をタオルで拭きながらやってきました。


「は、はいぃ!!」


緊張していた私は、どうしてこんな奇声みたいな声しかあげられないのでしょうか?


健一さんは、プッと笑い


「緊張しすぎ」


そう言うあなたは、緊張してないんですか?


そう聞きたくなったけど、私は止めた。


「入ります」


小さく言ってから、お風呂に向かう。


狭いアパートだから、お風呂も当然狭くて、シャワーとかそういうのもなくて


『いつか、ちゃんとした家を建てよう』


そう言う健一さんの言葉を信じてます。


私も、そのお手伝いが出来たらいいなぁ。


湯船に浸かって、はぁっと溜息。


どうにかならないか、この幼児体型。


悲しくなって溜息をつく。


あまり入っていると、逆上せてしまうから早く上がろう。


そう思い、お風呂から上がる。


テーブルの上には、一杯の麦茶。


首を傾げている私に


「風呂上がりには、何か飲まないとね」


そういうところは、大人です…健一さん。


心遣いを、ちゃんと受取って、それを飲み干しました。


私も負けてられない。


「あ、お布団敷きますね」


そう言って、寝室にしている部屋に入って、布団を並べて敷く。


敷いた後に気付く。


何をしてんだぁぁぁぁ!!


これじゃあ…


これじゃあ…


何か催促しているみたいじゃないかぁ!!


健一さんは、テレビを観ている。


少し、ホッとする。


時刻はもう9時、明日は学校。


「あゆみ、宿題とか済んでいるの?」


健一さんの問いに


「はい、ばっちりです」


と、ガッツポーズを決める。


「予習は?」


「昨日のうちにしてしまいました」


というか、和美さんに


『明日は大切な初夜なんだから!!』


と言われ、宿題や予習を催促させられました…はい。


「あとは…学校の準備は…?」


「保護者みたいですね」


私は笑ってしまう。


「でも、あゆみはまだ…」


「分かっています。まだ学生ですものね」


そう言ってから、壁に掛けられた自分の制服を見る。


この制服を着るのも、あと少し。


「じゃあ、寝ようか」


そう言って、健一さんは立ち上がる。


【ドクン!!】


心臓が高鳴る。


「はい…」


小さく答えて、自分の布団に入る。


「あ、歯磨き…」


そう呟く健一さん。


「さっきしたじゃないですか?」


思わず笑う私。


「そうだったね」


健一さんも笑う。


並んだ布団で眠る私達…


しかし…


何ですか…


この空気は…


全く、眠れない…


目が冴えてしまって、全く…


「あゆみ?」


健一さんの呼ぶ声。


「はい」


答える私に


「眠れない?」


「…はい」


「一緒に寝る?」


心臓に悪い発言しないでください!!


でも…


「はい」


そう答えてから、健一さんの布団に入りこむ私。


健一さんの温かさがパジャマ越しに伝わってくる。

「…温かいです」


私が言うと、健一さんはクスリと笑い


「でも、すごく緊張してる」


そう言ってから、私の耳を左胸に当てる。


すごい、鼓動が速い。


感心している場合じゃない!!


ちょっとまて!!


この流れ…


「あゆみ…」


優しい声と唇が近づいてくる。


固まっている私は何も出来ない。


「いいかい?」


健一さんの言葉に、黙って頷く。


一つ一つ、パジャマのボタンが外されて…


私の幼児体型が…露わになって…


恥ずかしくて…


恥ずかしくて…


胸を手で隠してしまった。


「あゆみ…」


「私、幼児体型で…その…」


「そんな事ないよ」


そう言って、鎖骨にキスを落とす。


「ん…」


思わず声が漏れる。


健一さんの指が肌を滑る。


その度に私は声を上げてしまった。


「初めてだし、たぶん、遠慮出来ないし、そんな余裕もない」


そう言った健一さんに


「私も同じですから…」


そう言うと、唇を合わせた。


その日…私は、大人になりました。


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