第16話 団らん

家に帰るのは、少し遅くなった。


心配してくれていた和美さんに、少し怒られたけど、友達とお茶をして話していたと話すと


「そういう事もあるわよね。まだ高校生だもの」


と言い


「でも、そういう時は、連絡を欠かさない事」


と、言われてしまった。


「ごめんなさい」


私が素直に謝ると


「それで、よし!今日は、カルボナーラよ。学さんも喜ぶわ。大好きなのよ」


嬉しそうに言う和美さん。


両親の離婚が正式に決まれば、お父様と再婚するんだろうな。


複雑な気持ちが無いと言えば嘘じゃ無いけど、お父様も和美さんも、やっと幸せになれるのだから、祝福しないと。


「ただいまー」


玄関からお父様の声。


「おかえりなさい」


パタパタと駆けていく和美さん。


仲睦まじく居間に入ってくるのを見て、複雑だ。


和美さんは、すごく優しくて、【お母さん】というのを肌で感じさせてくれる優しい人だ。


厳しくもあるけど。


でも、それに触れる度に思う。


どうして、お母様は、こうで無かったのだろう?と


でも、すぐに首を横に振る。


そんなの考えていたって、何の意味も無い。


もう過ぎた事だ。


お母様が、和美さんと違っているのは仕方の無いことだ。


そう思っていたら、着替えてきたお父様と和美さんとテーブルに着く。


お父様が何かそわそわしている。


首を傾げていると


「あゆみ、言いにくいんだが…お母さんとの離婚が成立した」


覚悟はしていたが、その言葉は私にはキツい部分がある。


でも…


「お父様、和美さん、これでやっと長年の想いが叶えられますね。おめでとうございます」


そう言うと2人は、顔を見合わせて


「怒らないのかい?」


お父様の問いに


「何を怒る理由があるというのですか?むしろ、お父様はお母様に長年縛られてきた…言わば被害者のようなモノです。正直に言うと、気持ちは複雑なのは事実です。でも、2人とも堪えてきたのだから、祝福すべきでしょう?」


私が、そう答えると


「ありがとう、あゆみ」


「ありがとうね、あゆみちゃん」


2人にそう言われて、私は微笑む。


「それで…お母様は…?」


私は、聞きたくは無かったが、逃げてはならないと思ってお父様に問うた。


お父様は、少し悩みながら


「お母さんは…もう壊れてしまった。今は、心の病院に入院して治療をしている。良一や良一の恋人の人がついてくれている。あゆみが心配する事はない、と良一が言っていたよ」


お父様の答えに、胸が痛んだ。


お母様を壊したのは私…


気にするなと言われても、気になってしまう。


お母様の言う通りにしていれば、お母様はまだ…


私が暗い表情になっていたのだろう


「あゆみは、気に病む事はない。あゆみのせいでお母さんが、ああなった訳じゃない。たぶん元々、藤子さんはどこか壊れていた。それを放置していたのはお父さんや周りの責任だ。むしろ、あゆみも良一も…聖二も、犠牲者だ。あゆみは何も気にする事じゃないんだ」


お父様が、そう言った。


そうは言われても、お母様だって…


「そんな事より、学校は楽しいか?」


話題を変えるようにお父様が言う。


「今日は、お友達とお茶してきたのよ」


代わりに答えたのは和美さんだ。


「そうか、よかったな。友達が出来て」


嬉しそうに言うお父様は、私は恥ずかしくて俯く。


「どういう子なんだ?」


お父様の問いに


「ものすごく、いい子なんです。私の事を考えてくれて…」


そこで泣きそうになる。


健一さんの事を思い出したから。


「どうしたの?カルボナーラ、何か不味かった?」


心配そうに和美さんが聞いてきた。


私は、首を横に振り


「とても美味しいです。あの…」


私は言いにくそうに


「私の恩人が亡くなっていたんです」


と告げた。


「恩人?」


お父様が驚いていると


「私が変われたのは、その人のお陰でした。でも、持病で…亡くなったと。人生の最後の時間を私の為に使ってくれた人です。感謝しても足りません」


そう言って、顔を伏せる。


お父様は、少し考えて


「そっか…その方にお礼が言いたい。連絡先は…」


「知りません。親族の方にお墓すら教えてもらえませんでした。私の為に無理をしていたから、当たり前です」


私の答えに、お父様は押し黙ってしまったけど


「親族の方としたら、仕方の無いことなのかもしれないね。あゆみ…」


お父様が何か言おうとしたけど、それを遮るように


「大丈夫です。私、前を向いて生きていきます。その人に恥じない生き方をします」


そう言うと、お父様は安心したかのように


「…そうか」


と、言った。


「さ、暗い話は、お終いです。食べましょうよ。せっかく和美さんが作ってくれたカルボナーラが冷めてしまいます」


そう言ってから、フォークを動かす。


お父様と和美は顔を見合わせてから、食事を再開した。



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