第14話 仮面家族が壊れる時

屋敷に戻ったお母様は荒れていた。


誰もが、近づかない。


私も近づかない。


何をされるか、分からないから。


飾っている壺やら何やら破壊されている音が屋敷中に響き渡る。


…高級品だろうに。


私は冷めていた。


部屋の扉が、勢いよく開く。


髪を振り乱し、着ている和服すら、気崩れているお母様。


「…あゆみ、よくも」


そう言って、近づいてくる。


怖い…怖いけど…


お母様が私を殴る音が響く。


何発も、何発も、殴る音が響く。


「この!この!!このぉ!!」


何回も殴った後に


髪を掴んでから


「お前のせいで、大事な話が流れたじゃないか!!」


そう言ってから、私を殴る。


「江藤家の…私の…」


そう言いながら私を殴り続けるお母様。


「やめないか!!」


お父様の声がした。


ゆっくりと、ドアの方を見るとお父様がいた。


お母様が、修羅の顔で


「何を、おっしゃいますか?この子は、江藤家の繁栄の為の婚姻を…」


「最初から、成立していなかった。そう先方も言っていましたが?」


お父様は、私を立たせてから、メイド達に


「あゆみは、私の所に連れていく。最低限の用意をしてくれないか」


そう命じる。


でも、メイド達は動けない。


お母様の動向を見ている。


「何を、おっしゃいますの?この子は大事な江藤家の」


「私が私の娘を守るだけです」


お父様の言葉に


「何を!!」


「貴女が、あゆみにした事は、犯罪です。もうすぐ警察が動くでしょう」


「え?」


「あゆみにした虐待…それが通報された…というのが正解です」


お父様の言葉に、意味が分からない。


「何を、おっしゃるかと思えば…それは躾の一環でしょう。何が虐待ですか?」


お母様は、開き直ったように言う。


「藤子さん、あなたのした事は、匿名で通報されてます。今日の事も、私から警察に説明するつもりです」


「あなた!!!」


「私は、江藤コーポレーションの社長の職を辞めるつもりです。そして、あゆみを引き取って、私の下で育てます」


お父様が何を言おうとしているのが分かる。


「だから、離婚をしてください」


そう言ってから、頭を下げた。


お母様が震えているのが分かる。


「何を…おっしゃっているの?江藤家を出ていくって事は…あなたにとって」


「古い友人から、新しい事業への参加を誘われました。私は、その話を受けるつもりです。社長の座は、良一が就けれいい」


その瞬間、お母様の顔が修羅に変わる。


「そんなの!!認められるわけがないでしょ!!!私は、あなたに愛人がいても堪えたんです!!許してきたじゃないですか?それが何?新しい事業?冗談じゃありませわ!!そんなもの江藤家の力で…」


「悪いが、江藤家の御大には報告してあります」


御大…つまりお祖父様の事。


お祖父様にも頭を下げたのだろう。


「御大にも、辞める事は了承をいただいた。良一は大人だから関係ないが、あゆみの事は虐待の事を踏まえて、私が引き取る事も了承いただいた」


「な…」


「あゆみ、行こう」


そう言って私の腕を取る。


「冗談じゃないわ!!!」


お母様の声が響き渡る。


「何もかも、奪っていくなんて!!!あの女に!!!私の夫も、娘も!!渡すもんですか!!」


そう言って、身近にあった椅子を振り上げる。


「いい加減にしろよ!!」


その声は良一兄さんだった。


途端に、お母様の顔が変わる。


「良一さん、聞いてちょうだい。お父様が…江藤家を捨てるって…あゆみを連れていくというの。あなたからも言ってちょうだい。お父様にとってマイナスにしかならないんだから」


甘えるように言う。


良一兄さんは穏やかそうに


「お父様、お幸せに」


と告げた。


お母様の表情から絶望が見て取れた。


「な、何を!言うの?良一さん?一体どうしたの?」


明らかにお母様は狼狽している。


良一兄さんは、お母様の手を振りほどいて


「俺は…あんたの人形だった。あんたの言う通りにしてきた。でも、それは俺にしかマイナスにならないんだ!!」


そう、ハッキリと告げた。


「良一さん…」


「俺は、アメリカに渡って、大切な人に出会いました。その人に、人間の温かみや一人で生きている訳じゃないと学びました。俺は、彼女と結婚するつもりです」


良一兄さんの告白は、お母様に衝撃を与えた。


「何を…おっしゃっていますの?あなたには、澤田のお嬢様と…」


「そのお嬢様は、使用人と駆け落ち同然に出ていきました」


良一兄さんの言葉に、唖然とする。


「だから、お祖父様に彼女との結婚の事は伝えてあります。来月、正式に籍を入れます」


完全にお母様は、混乱している。


「そんな…良一さんまで…」


「俺は、ずっと聖二が羨ましかった。あいつは、いつも自由で、お母様から何をされても、何度ぶたれようと、変わらなかった。そして…あいつ…柴田…」


健一さんの名前を聞いて、胸が高鳴る。


「あいつの周りにもいつも人垣が出来ていて、俺にはなれない。俺は、あいつらみたいになりたかったんだ」


そう訴えた良一兄さん。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」


お母様が絶叫した。




お母様が壊れた…その瞬間だった。



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