第11話 やっと会えた…

お母様の監視の目は厳しい。


私は、どこに行くのにも誰かがついている。


学校内には及んでないけど…


でも、私には友達がいない。


だから、いつものように参考書を読んでいるしかない。


そして、いつものように帰ろうとした。


だが、誰かに腕を掴まれ…


空き教室に連れ込まれた。


!!??


驚きのあまり、声が出ない。


腕を掴んだ持ち主を見る。


さらに驚き目を見開く。


…柴田先輩


私を見ると、ニコっと笑う。


「やっと…会えた…」


そう言って、抱きしめる腕が、とても温かく感じた。


『私も…』


そう言いたいのに、口が上手く動かない。


「ほんと、しつこいよな」


たぶん、SPの方々を言っているんだろう。


「何回も、学校に入るの阻止されてさ」


この人の微笑み…なんだか安心する。


聖二兄さんがいた時みたいに…


私は安心した。


「隙を作って、入ってやった」


悪戯っぽく笑う。


あ…あれ…?


涙が止まらない…


何で…?


会えて嬉しいはずなのに…


涙が出るのは…何故?


「あゆみちゃん?」


そんな私を柴田先輩は、抱きしめてくれる。


「ずっと…会いたかった…です」


やっと出た言葉に


「俺も会いたかったよ」


そう言った後、私達は…


唇を合わせていた。


だけど…


次の瞬間、柴田先輩の表情が変わる。


苦悶の表情だ。


そのまま、崩れ落ちるように倒れる。


「柴田先輩!!」


私は、必死に叫んだ。


意識のない先輩。


私は、咄嗟に職員室に飛び込む。


「あの…!柴田先輩が倒れて!!」


そう言うと、慌てて救急車の手配をしてくれた先生達。


青い顔をした先輩がストレッチャーに乗せられて救急車に乗せられていく。


「あゆみ様」


後ろで、藤井さんの声がする。


「屋敷には戻りません」


私が告げると


「それは…!」


「あなた方に、危害が及ばないようにします」


それだけ言うと、救急車に乗る。


「あゆみお嬢様!!」


藤井さんの声は、救急車のドアに当たった。




「え?心臓に…?」


私が柴田先輩のご両親に頭を下げると、話してくれた。


柴田先輩は、心臓に重い病気を抱えている事を。


「そんな…」


呆然としている私に


「健一は、いつ命を落としても仕方ない状態で…でも、自分の命があるうちに、どうしても救いたい人がいる、といつも言っておりました」


柴田先輩のお母様が言う。


ICPUで眠っている柴田先輩。


いろんな医療機器が取り付けられている。


「すみません!!」


私は、もう一度頭を下げる。


「やはり、あなただったのね?」


私は何も言えない。


「あの子が、最後にやりたい事をやらせただけ…あなたが謝る必要なんて、どこにもないのよ」


そう言ってから、柴田先輩のお母様は私の頭を上げさせる。


「あなたのお陰で、健一は本当に満ち足りた日々を送っていたわ。ありがとう」


その言葉で、救われる。


「柴田さんが意識を戻されました!!」


中から看護師さんの声がする。


慌てて入ると、柴田先輩はバツの悪い顔になり


「あーあ、バレちゃった」


と、悪戯っぽい表情を見せる。


「何故、黙っていたんですか?」


「だって、あゆみちゃんに気を遣わせるでしょ?」


「そんな!!」


「俺ね、あゆみちゃんが好きだから。あゆみちゃんを苦しめたくないんだ」


「だったら…!!」


そこで私は押し黙る。


「だったら?」


柴田先輩は、問い返してくる。


「…無理をしないでください」


私は、小さく呟くように言った。


先輩の手が私の手を掴む。


「だったら、俺のお願い聞いてくれる?」


優しく囁く声。


「何ですか?」


私が首を傾げると


「俺の事…名前で呼んでよ」





はい?


今、何と?


「む、無理です!!」


明らかに私は狼狽している。


「呼んで…」


そんな甘い顔で言われたら…


そんなとろける様な声で言われたら…


「け、健一さん」


小さく呟くように言う私に、健一さんは満足してくれたみたいだ。


「すみません…」


目覚めたばかりからだろう。


看護師さんに言われ、私達は病室を出る。


「健一の事…よろしくね」


健一さんのお母様に言われて私は、コクンと頷くしかなかった。


「何であなたがここにいるの!?」


病院には似つかわしくない声。


古川さんの声だ。


「知佳ちゃん…」


「おじさん、おばさん、健兄がこの人のせいで、悪化しているの知っていますよね?だったら…」


「私達は、健一に好きな事をしてもらいたいだけよ」


健一さんのお母様が言う。


古川さんは、グッと拳を握ってから


「もう…健兄には、近づかないで!!」


胸倉をつかむ。


「健兄をこれ以上、悪化させないで…殺さないで」


そう言ってから、


その言葉に私は愕然とする。


『殺さないで』


私が、彼の寿命を縮めているの?


そんな当たり前の事に気付いていなかった。


「健兄を、これ以上…無茶させないでよ…」


哀願するような彼女の声に私は、何も言えずにいた。


「知佳ちゃん…気持は分かるけど」


健一さんのお父様が古川さんの肩に手を置く。


「だって!!健兄、手術したら治るかもしれないんですよ!!もうすぐその順番がまわってくるかもしれないんですよ?それなのに、この子に関わって…」


そこで一旦、黙る。


「この子に関わって、健兄にもしもの事があったら…」


もう声が小さくなっている。


ポロポロ流れている涙。


私は、健一さんの…あの人の邪魔でしかない?


「…分かりました」


それだけ言ってから


「これからは、もう…」


そう言って頭を下げる。


そして、踵を返してから鞄を手に取り、病院を出る。


外には藤井さんがいた。


「あゆみお嬢様…」


私は、涙を拭いてから


「屋敷まで送ってください」


そう言ってから屋敷に向かう。


屋敷に着くと同時に


お母様の平手打ち。


どれだけ、人を殴れば気が済むのだろうか?


「お母様は、言いましたよね?もう、あの方とは関わってはならないって」


吐き捨てるように言う。


「私は…私は…」


私は、歯を食いしばった。


「あの人が好きです!!」


声の限り叫ぶ。


そして、お母様の平手打ちの音がした。


私は、お母様を見据えて


「私は、もう、お母様の思い通りにはなりません!!」


その言葉に呆然としているお母様。


そう言って、屋敷の中にある自室へと向かう。


「あゆみ…」


珍しく、良一兄さんが部屋に入ってきた。


この人も、お母様と同じ人種。


「お母様を困らせるな」


そう告げる。


私は何も答えない。


「お前が、奴を好きであろうがなかろうが関係ない。お前は江藤家の長女だ。それを頭にいれておけ」


それだけ言うと、部屋から出ていった。


誰も私の事を分かってくれない。


誰も…


聖二兄さん


聖二兄さんが生きていてくれたら…


そうしたら…


私の気持ち…応援してくれたよね…?


でも、


でも、健一さんは、心臓に重い病気を抱えている。


私に関われば、悪化する。


だから、この恋が成就するなんて…ありえない。


涙が溢れてきた。


どうしてなのか分からないけど…涙が止まらなかった。


涙が乾いた頃


思い出すのは、聖二兄さんの笑顔


健一さんの笑顔…


はにかんだ、それでいて穏やかで優しい笑顔。


私も…そうなれるかな?



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