第7話 思い出した…

溜息を吐いてから、昇降口を出る。


下駄箱で靴に履き替えてから、外にでる。


ムカつくくらい、青い空だ。


空にムカつくなんて、私らしくないな。


でも、私らしいってどういう事かな?


私は、何もない。


何も感じない。


何も思わない。


そう思っていたのに…


校門に人盛りが出来ている。


「あ、あゆみちゃん」


図々しくも柴田先輩が私に声をかける。


その場にいた全員が押し黙る。


私の動向を見つめている。


「あの…」


私は口を開いた。


「迷惑ですから」


それだけ言った。


「は?」


意味の分からない状態の柴田先輩


「婚約者がいるのなら、そちらの方へ行ったらいかがですか?」


私の言葉に、目を丸くする。


「昨日、先輩の婚約者さんが、来ましたよ」


私の言葉で、理解したのか


「知佳の事?あれ、違うから」


あっさり否定した。


「知佳が勝手に、言っているだけで、親とかも本気にしてないし。俺自身も認めてないし」


そう言って人垣を分けて、私の方へと向かってくる。


目の前に来た柴田先輩に


「婚約者がいようが、いまいが関係ありません。私にとって、こうやって話するのも迷惑ですから」


それだけ言うと、一礼して、その場を去ろうとした…けど


「待って」


そう言って、腕を掴まれる。


「すみません。早く家に帰らないといけないんですけど」


目を合わさずに言う。


目を合わせたらダメ。


合わせたらきっと…また信じてしまう。


この人は、私をからっているだけなんだ。


だから…


傷つく前に逃げよう。


そう思って、掴まれた腕を振りほどいた。


だけど、もう一度掴まれて


「俺の話、聞いて」


目が合ってしまった。


「…分かりました」


私は、そう答えるしかない。


この熱のこもった瞳で見つめられると


どうしても頷いてしまう。


恋…しているから…かもしれない。


だから、この人の言葉を信じてしまう…かもしない。


でも、ダメだよ。


あんな可愛い婚約者がいるんだし


私にも、今度婚約者が出来るし


これで、最後にしよう。


そう思った。


車で連れて行かれたのは、この前の海じゃなくて、別の場所。


景色が奇麗で、感動したのは言うまでもない。


私は、屋敷に閉じ込められてばかりだったら。


世間を知らない。


「知佳の事は、本当に誤解だから」


「は?」


何で、私に言い訳してるわけ?


意味が分からない。


「ねぇ、あゆみちゃん、君は覚えているだろうか?6年前の事」


6年前…?


確か小学5年生くらいか。


「その時に、一度会っているの。憶えてる?」


そう言われても首を傾げる。


「聖二に…君の兄さんを介して」


その言葉にハッとする。


そうだ…この人…




―6年前


「聖二お兄ちゃん!」


無邪気な私は、当時高1だった聖二兄さんの腕に自分の腕を絡める。


「どうした?あゆみ」


穏やかな微笑みで聖二兄さんは答えた。


「ねぇ、宿題教えてよ」


私がねだるように言うと


「今日は、予定があるんだ…」


そう返してきた聖二兄さん。


「ええ!!」


私は、口を尖らせて思いっきり拗ねた。


聖二兄さんは、そんな私を見ながら


「じゃあ、あゆみも一緒に行くか?」


「うん!!!」


どこに行くのかは分らないけど、聖二兄さんと一緒にいれる事は嬉しかった。


「お母様に知られないように出ていこう」


当時小学5年生で、聖二兄さんが折檻を受けていたなんて知らなくて、私を屋敷から連れ出す事によって、お母様の逆鱗に触れる事が分かってなかった。


「どうして?お母様に言わないと…」


「そしたら、あゆみは行けないよ」


聖二兄さんに言われ、私は、黙って頷いた。


聖二兄さんに連れられて来たのは近くの公園。


「先輩!!」


聖二兄さんが手を挙げる。


相手の方は私を見て驚いている。


「妹のあゆみです。ほら、あゆみ、挨拶は?」


聖二兄さんに言われ、慌てて


「初めまして。妹の江藤あゆみです」


と、相手に頭を下げる。


「こんにちは、あゆみちゃん。僕は、柴田健一。聖二の一学年上で、もう一人のお兄さん…江藤良一君の同級生だ」


にこやかに笑う顔。


すべてを包み込むように優しい。


ドキッとしたのか、私は聖二兄さんの後ろに隠れてしまう。


「おやおや、嫌われた?」


柴田先輩が、苦笑していると


「照れているんですよ。あゆみは、恥ずかしがり屋さんだから」


そう言ってから


「この人は、いろんな人から好かれているんだ。俺の尊敬する人なんだよ」


聖二兄さんが笑顔で言うと


「おいおい、尊敬される程、俺は仁徳者じゃないぞ」


「またまた、謙遜を…」


その会話を聞きながら、ふと疑問に思う


「どうして、良一お兄様がいないの?」


何も知らない子供だから聞ける質問だと思う。


二人は苦笑しながら


「江藤君とは、あまり仲よくないんだ」


そう答えたのは柴田先輩。


「どうして?同級生なんでしょう?」


無邪気だった…と思う。


柴田先輩も聖二兄さんも、困っているようだった。


「あゆみちゃんも、もう少し大きくなれば分かるよ」


そう言って、柴田先輩は私の頭を撫でてくれた。

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