第3話  出会いはサイアク

いつのように学校から帰る。


いつもなら、参考書を見ながら歩くのだけど、今日は雨だから傘を持たないとならない。


頭の中で復習するしかないか…


そういうのも慣れた。


『今日、どこ寄っていく?』


『駅前のケーキ屋さん』


なんて、会話が聞こえてくるけど、私は気にしない。


勝手に行ってちょうだいって感じ。


そう…私には関係ない。


そう思って、傘をさして校門へと向かう。


泥ばかりの校庭を抜けて門をくぐる。


慣れた道のりを歩いていると…


【バシャっ!】


と、スカートに雨水がかかる。


一瞬、動きが止まる。


膝上10cm位から下がびしょぬれだ。


私に水しぶきをかけた本人が軽自動車から降りる。


「ごめんねぇ、大丈夫?」


私に声を掛けてきたその人は、それなりにかっこいいと思う。


柔和な感じ…それが第一印象。


「大丈夫です」


短く答えて、その場から去ろうとした。


「いやいや、大丈夫じゃないでしょ?そんなびしょぬれになって」


男の人は、私の腕を掴む。


「とりあえず、名前は?」


「は?」


余りの事に驚く私。


「な・ま・え!自分の名前分からない?」


小馬鹿にした言い方。


ムッとしてから


「江崎あゆみ…です」


私が名前を言うと、彼は少し驚いていたけど、すぐに


「じゃあ江崎さん、スカートのクリーニング代払うから」


そう言って、財布を取り出す。


「いいです。いりません」


そう言って丁重に断る。


「でも…」


「構いません。これくらい」


そう言ってから私は、彼の横を通り過ぎようとしていた。


「俺は、柴田健一」


あなたの名前なんて興味ない。


私は何も…興味はない。


そうやって、私は、ずぶ濡れの下半身のまま家路についた。


「どうしたの?あゆみさん?」


お母様―江藤藤子が、下半身ずぶ濡れの私を見て言う。


「別に何も…」


私が短く答えると


「何もって、そんなハズないでしょう?一体、どうして?」


「通りすがりの車の水しぶきがかかりました」


私は、事実だけを述べた。


「なんですって?その車は?車番は?」


続けざまに質問するお母様。


私は、


「クリーニング代を出す、と言われましたが断りました」


それだけ答えて、去ろうとした。


「なんですって!!なんでそんな事を?弁償させるべきでしょう?」


この人は、金の亡者だ。


5年前も、聖二兄さんの死をお金に換算していた。


保険金、損害賠償、大金が手元に入った。


それを喜んでいた。


『これで、良一さんを一流の大学に安心してやれるわ』


って声を弾ませて。


「名前くらい聞いたんでしょ?」


あぁ、この人は、今度は、あの人に…


「知りません」


私は短く答える。


答える必要なんてない。


「何で聞かないの?どんな車だったの?」


意地でも、弁償させる気なんだろう。


「覚えてません。来週の試験の事で頭がいっぱいだったから」


私は、答えてから


「失礼します」


そう言って、お母様から離れた。


この人に構っている暇はない。


来週の中間考査に向けて勉強しないとならない。


自分の部屋に向かい、急いで着替える。


濡れたスカート…どうしよう。


そこに屋敷のメイドが入ってくる。


「すみません、これをクリーニングに出しておいてください」


そう言うと


「わかりました、お嬢様」


メイドさんは、それを受け取った。


名前もしらないメイドさん。


いちいち全員覚えてない。


覚える気もない。


私が覚える事は勉強なのだから。


メイドさんが去ると鞄から宿題を取り出す。


急いで、それに取りかかったけど


何故か、今日会ったあの人を思い出す。


…柴田健一さんか


ハッ…私、何を考えているんだか。


今は勉強をしないと。


そうよ、宿題をしないと。


気を取り直して宿題に打ち込む。


でも、あの人の事は…


頭から離れなかった。




屋敷の前に一台の車が停まっている。


先程、あゆみに水しぶきをかけた、その車だった。


運転席から中を覗いているのは、柴田健一だった。


「そうか…あの子が…大きくなったな…」


彼は呟いた。

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