第7話 志は一つでも想いは三者三様
「でかっ…」
高く聳え立つ硬質な素材で作られた30mの壁が、街を囲んでいる。間違いなくユウキが見てきた建物のなかで王様の城の次くらいに大きい。
王都を旅立って5日。王様のご厚意により、馬車に乗ってようやくここまで辿り着いた。5日間の詳細は勿論カットだ。
「ベルダンシアには着いたけどここからどうすりゃいいんだ?」
ユウキは振り返り荷台にいるシスターとメリアに聞く。
「うーん、とりあえず偉い人に会ったらいいんじゃないですか?」
「そしたら聞いてくるよ~」
メリアはそう言うと荷台を降り、守衛がいる方へと向かっていった。
しばらくすると、守衛と話していたメリアがこちらに向かって手招きをするのが見えたので、ユウキは馬車を進ませた。
近くまで寄ってから馬車を止めると、メリアが馬車の後ろへ回り、荷台に上る。
「どうだった?」
「王様から既に話が通ってるらしくて、このまま真っ直ぐ進んだら、ここら一帯をまとめてる領主さんがいるらしいからそこに行ってくれだってさ」
「なるほどな、りょーかい」
ユウキは再びを馬車を進ませ、ベルダンシアへと続く門を潜る。馬車が3台は通れる程に道幅が広く、さっきまでユウキ達が通っていた道よりも舗装されており、ガタガタと揺れることもなくスムーズに通ることが出来た。途中、守衛の方々がこちらに向かってお辞儀をしていたので、馬車の上からで申し訳ないが会釈をしておく。
「そういえばさぁ」
門を潜ると同時にユウキはふとあることを思い出した。シスターとメリアがユウキの方を見る。
「シスターの言ってた、旅に同行してくれるめちゃめちゃかわいい女の子って結局なんだったの?」
「えっ!しーちゃんそんなこと言ったの!?どんな子どんな子!?」
後ろの様子は分からないが、メリアがシスターに詰め寄ったのをユウキは安易に想像できた。
「フッ知りたいですか?」
「「知りたい!!」」
ユウキとメリアの声が思わず重なる。
「フッフッフ…ハーッハッハッハー!」
なんだこいつ、遂にイカれたのか?知りたいのは山々だけどこれだけ笑ってるとちょっと心配になるな。
ユウキはそう思いながらもしっかりと馬車を前へと進ませる。
「聞いて驚かないで下さいね!?同行してくれる美少女とは!それはですねぇ!この!私です!」
イカれてやがったか。
「「チェンジで」」
「なんでぇ!?」
この瞬間、少なくともユウキとメリアの思いは一つだった。
馬車をしばらく走らせると、明らかに他とは趣の違う建物へと辿り着いた。周りは3m程の塀で囲まれており、しかし門等は見当たらず誰でも出入りできるような作りになっていた。そこを通り過ぎるとすぐに見えるのが、いかにもな豪邸だ。
どうやら門までの一本道はここへ辿り着くようになっていたようだ。馬車を止め降りると、ユウキ達は入り口らしき扉へと向かった。
「ごめんくださーい」
先程じゃんけんをして1発負けをしたユウキが扉をノックする。すると少しして扉が開かれ、中からは1人の女性が出てきた。メイド服に身を包み赤い髪を後ろに1つにまとめた、こちらもまたいかにもなメイドさん。ただ少し警戒しているのか、表情は固い。
「何か御用でしょうか?」
メイドさんの刺すような視線が変にプレッシャーになる。自分はなにもしてないのに何か悪いことをしたような気分だ。
「おっ、おぅさみゃかあのめでkmした」
なんて?俺今なんて?
「は?」
さらにメイドさんの目元が険しくなる。
「ブフッ!」
後ろに立つシスターが吹き出したのが分かった。
(笑ったら…フフッ…可哀想だよしーちゃん…フッ…)
メリアが小声でシスターに言っているのも聴こえた。
コイツら…絶対に許さねぇ…
「お…王様からの命で…来ました…」
俯きがちにユウキが言うと、メイドさんの表情が変わり、直ぐ様理解したといった表情へと変わる。
「そうでいらっしゃいましたか。ご無礼を働き申し訳ございません」
深々とお辞儀をするメイドさん。
「あぁ、いえ、はい、大丈夫です…。」
それに何故かとてつもなくオーバーキルされているように感じるユウキは、この場から逃げ出したい衝動に駆られていた。
メイドさんは顔を上げると、ユウキの方を向き口を開いた。
「王様から連絡頂いております。遠路遥々、ご苦労様です。しかし申し訳ありません。現在主の方が留守にしておりまして、代わりに私、セラが対応させていただきます。よろしくお願い致します」
するとセラは、言葉を終えると同時に再び深々とお辞儀をした。
「あっ…こちらこそよろしくお願いします…」と返し、ユウキもお辞儀をする。
「どうぞ中へお入り下さい」
そう言われたユウキ達はぞろぞろと屋敷へと足を踏み入れた。
後ろを歩いていたシスターが横に並び、ユウキの肩に手を置くと哀れんだ表情をこちらに向ける。
「よくやりましたねぇユウキ。とても面白かったですよえぇ。ナイスファイトでした。いやもうほんと思い出すだけで…プッ…フフッ…」
「どうした?喧嘩したいんか?受けて立つぞ小娘」
「いやぁそんな、勘弁してくださいよ。フッ…」
「あんまり笑っちゃ可哀想だよしーちゃん。あんなに勝てると豪語したにも関わらず、じゃんけんは1発負け、しかもその上初対面の女性に緊張で噛んで恥を晒してるんだから。流石に良くないよ」
「フォローになってねぇしさらに傷口広げてるし!つかお前も笑ってたよね!?聴こえてたかんな!?」
「チッ…」
「おいなんでお前が舌打ちしてんだ?したいの俺だわ」
「お待たせいたしました」
いつの間にかユウキ達は部屋の目の前へと着いていた。セラが扉を開け、中へと入っていく。後を追うように部屋に入ると、手前にはテーブルが2つとイスが4つ置かれ、奥にはベッドが左側に1つ、右側に2つと計3つ設置されており、それでもスペースが有り余った部屋だった。
「「「なにこれめっちゃひろっ!!」」」
ここに来るまであれこれ工夫はしたが、基本は固い地面の上で寝ていたため衝動を止めることが出来ず、シスターはベッドの上へとダイブした。
「こちらがユウキ様達がベルダンシアにいる間、泊まっていただく部屋になります。その他にもこの屋敷で利用出来るものは利用していただいて構いません。私は色々と準備がありますので、ここらで失礼させて頂きます。夕方にまたお呼びに来ますので、では」
セラは言い終えると軽くお辞儀をし、部屋を出ていった。
部屋に取り残された3人は顔を見合わせる。そして、ここには誰も自分達を止める者が、抑止力がいないこと悟った。
「きっと今私達、思ってること一緒だと思う」
メリアの言葉にユウキとシスターは首を縦に降る。
「当たり前ですよ。まだ数日ですが、ずっと貴方達と一緒にいたんですから」
「まあここにきてやることと言えば1つしかないよな」
自然と笑いが込み上げてくる。なんだかんだ言って、自分達はずっと同じ思いを持ってここまで来たんだと、再確認する。
「よし!そんじゃ…」
3人は息を合わせ、声に出す。
「お風呂に行きましょう!」
「街に行こうぜ!」
「寝よう~!」
俺達はもうダメみたいだ。
*
同時刻、ベルダンシア近くに位置するとある森。さらにその森を抜けた先にある古びた教会に、1匹の魔獣が教壇に居座っていた。魔獣の背に立てられていた神の像は既に無く、代わりに紫に輝く石が立てられている。
魔獣は起き上がり今は無き天井を見上げる。息を吸い、肺に空気を溜め、呼吸を止めた。
そして魔獣は喉を、空気を、大地を震わせ、天へと吠えた。
それが目先の戦いに向けた物であったことを、今はまだ誰も知る由もない。
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