第6話 出発の前日譚的な

「俺が寝てる間に面倒見てくれてありがとな」


 食事を終え、ユウキが放った第一声はそれだった。

 シスターへお礼を言い忘れていたユウキは、タイミングを探し続けた結果、食事が済んだ今に至った。予想だにしない言葉に面を喰らった様子でいたシスターだが、すぐに誇らしげな態度に変わり、自信に満ち溢れた笑顔となった。


「いえいえ!シスターとしての役割を果たしただけなので、そんなに感謝される程の事でもありませんがね!まあ私は凄いので!貴方の怪我を治すのなんて1日で充分なのですよ!それに優しいし!こんな可愛い女の子に面倒見てもらうなんて、本当ならお金を貰ってるところですよ!」


「あーもう!調子乗んな!うぜぇ!」


「なっ!?うざいってなんですか!?治してあげたのに!あーあ!治してあげたのになー!恩を仇で返すとはね!あーあ!」


「うるせぇな!つか食い終わったんなら部屋に戻るぞ!」


 ユウキは席を立ちながら言った。すると何かを思い出したかのように「あっ」とシスターが言った。


「なんだ?どうした?」


「そう言えば先程王様に報告をしてきた時に、ユウキを連れてくるように頼まれていたの忘れていました」


「マジで?結構経ってるし王様怒ってるくね?」


「どうですかね…王様に限ってそれはないとは思いますけど…」


うーんと唸る。あの王様がすぐに怒るとは思えないけどなぁ。


「それって私も行っていいのかな?」


ユウキとシスターの話を笑顔で聞いていたメリアが口を開く。


「うーんどうなんでしょうか」


「いいんじゃね?勇者一行ってことで」


「りょうか~い」


「何はともあれ行くか」


シスターとメリアも席を立ち、3人は王様の元へと向かった。




「お目覚めになられましたか、ユウキ殿」


 玉座に座る王様がそう言った。前回会った時と変わらない構図でユウキ達も立つ。変わったことと言えば、メリアが増えたことと、気持ちの違いだろう。


「お体はもう大丈夫なのですかな?」


「お陰様でよくなりました」


 王様からの問いにユウキは笑顔そう答えた。


「私のお陰でね」


 シスターがこちらを見て何か言っているが、はて?良く分からないので無視しておこう。


「無視しないでください!」


「グッ」


 無視したバチが当たったのかシスターから肘打ちがとんでくる。


「その様子だと大丈夫そうですね。シスター殿もお元気そうで何よりです」


 2人の一部始終を見ていた王様が笑いながらそう口にした。


「さて、そちらの方は?」


 王様が視線をメリアに移す。


「初めまして、メリアと申します。この度はユウキくんとシスター様と共に、魔王討伐の旅に参加させていただきます。よろしくお願い致します」


「そうでいらしたか。こちらこそよろしくお願いします」


 メリアは深々とお辞儀をし、王様に笑顔を向けた。神の使いをしているだけあってか、とても綺麗なお辞儀だった。絵になっているというか、当たり前なのだが、人間にはない美しさを帯びていた。


「様か…」


 横に立つシスターがメリアを見ながら言っていたのを、ユウキは聴き逃さなかった。その顔には、優越感のようなものを含んだ笑みを浮かべていた。


「これが人間か…」


 ユウキはそんなシスターを見ながら、聴こえないようにそっと口にした。




「さて、本題に入らせていただきます」


 世間話を終え、王様が言った。


「これから貴方達には、西の街、ベルダンシアに向かって貰いたいのです。ベルダンシア周辺の村から魔獣が絶えず出没しているそうなのです。本来ならば貴方達に頼むことではないのですが、今は誰も手が空いておらず…なのでお願いします。魔獣を討伐し、出没している原因を調べてきてください」


 王様は声のトーンを落とし真剣な面持ちでそう言った。

 ベルダンシアとは、王都から西に位置する街であり、物造りがとても盛んな場所だ。なんでもベルダンシアには、鉱石が沢山採れる鉱山があり、稀に不思議な力が封じ込まれた鉱石が採れるのだそうだ。その石は、装飾品から剣や防具など使い方は千差万別あり、そのどれもが高値で売れるのだ。

と、父親が言っていたのをユウキは思い出した。実際にベルダンシアに行ったこと一度もない。


「分かりました。それで王様、ベルダンシアまではどれくらいで行けるんですか?」


 ユウキがそう王様に聞くのを、シスターが信じられないといった顔でユウキを見た。


「なにがあったのですかユウキ!?今までの流れからして絶対に適当な理由をつけて断ると思っていたのに…まるで勇者みたいですよ…!?」


 シスターの言葉にユウキはフッと笑った。


「シスター、いつまでも俺を甘く見すぎだぜ?確かに前までの俺ならそうしていたさ。でもな、いつまでもそうしちゃいられないんだ。なにせ俺は、いずれは魔王を倒しに行かなきゃなんだからな」


「って言いながらもグレアくんに引き分けて、その後シャルロッテ様から力も貰って調子に乗っているところまでは分かるよユウキくん」


「だまらっしゃいメリア!そういうのは分かってても口には出さないの!分かった!?」


「はいは~い」


「くぅ…なんだか流されている気がするな…まあとにかく俺は変わったの!王様!ベルダンシアまではどのくらい掛かるのですか!なんなら今日中に解決してきてやりますよ!!」


「あーいや…それはちょっと不可能ですね…」


 シスターが申し訳なさそうに手を横に振りながら言う。こやつ、まだ俺を舐めているな?


「おいおい、まだ疑っているのか?いいか今の俺は…」


「違う違うユウキくん」


 これから自分の凄さと自信について力説しようとしたユウキだが、それをメリアが止めにかかる。


「ベルダンシアまでは歩いたら半月は掛かるんだよ」


「えっ」


 遠っ…。

 ユウキの住んでいた村から王都くらいまでの距離かと思っていたユウキの予想を遥かに越える。それは今日中には不可能だ。


「王様」


 ユウキは王都の方を向き、口を開いた


「あのー…やっぱり自分達には荷が重いかなぁ~って思うんすけど…それにほら、歩きで半月とかちょっとな~と。な?お前らもそう思うだろ?」


 ユウキは横に並んで立つ2人を見る。しかし2人から得ているのは同意の眼差しなどではなく、軽蔑と失望を孕んだ眼差しであった。


「ハハッそんな冗談に決まってるじゃないか。そんな顔してちゃかわいい顔が台無しだゾ☆」


 ユウキは2人にウィンクしながらそう言うも、2人から送られる視線は依然として変わらない。


「全くこの男は…」


 溜め息を吐きながらシスターが言う。


「貴方はもう少し、己の欲望に抗いなさい。そんなではいけませんよ」


「全くだよ」


 2人が結託し始めている。流れが完全に悪い。


「この男は置いていきます。そして私とメリアさん2人で解決してきます」


 嘘じゃん。


「なので解決したら!どうか私のお願いも叶えてくれませんか!!!」


「おいお前さっき自分で言った言葉もっかい言ってみろ?自分ルールガバガバなんだよ!自分の言葉に責任を持て!」


「うるさいな!いいでしょ別に!教会のリフォームしてほしいの!ついでにお金と食べ物が欲しいの!」


「欲望丸出しじゃねぇか!そんなんダメに決まってんだろ!ね!王様!」


「解決してくれたらいいですよ?元からそのつもりでしたし」


「ほら王様も言ってるj……いいの!?!?えっ俺もちょっとお願いあるんすけど!!」


「貴方は連れていかないからありませんよ!残念でしたね!」


「お願いします!連れてってください!」


「絶対嫌ですぅ~残念でした!」


「はぁ!?ならお前も道連れだぁ!」


「させませんよ!ここに残るのは貴方だけです!」


「まあまあ2人とも。私が1人で解決してくるから2人はゆっくりしてな~?王様。私は高めのお菓子とか他国のお菓子とか食べさせてほしいです」


「「ちょっ!抜け駆けすんな!!」」


 こうしてユウキ達勇者一行はそれぞれの欲のもと、王都を旅立った。

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