第4話 秘密(未完成)

 教卓の下に隠れて、みんなには見えないように四月一日とキスをする。お互いの耳をふさぐと、いやらしく、ちゅ……ちゅぱ……と舌が絡む音が響いた。解けた髪が体にかかるのも気にせず、濃厚なディープキス。


「未知子ちゃん……っここに指入れて……。気持ちよく……っしてあげる……。」


 そう言って彼女は、服を捲って胸の谷間を私に晒す。指示通りに5本指を荒く突っ込んでやると、しおらしく左右の胸をふにふに押しつけた。


 柔らかくて暖かい。なにより、あの彼女に奉仕させているということがたまらない。柔らかい?気持ちいい?と必死そうに聞く彼女を見ていると、なんだかとても意地悪をしたくなった。


「気持ちいい……よ……っ!!」


「あぁん……っ!!」


 ご奉仕されてない方の手で、乳房を強く叩いてやった。四月一日は顔を赤くして、無意識だか物欲しそうに目を伏せ、右手の人差し指を噛んでいる。うっとりとした表情。この娘はMの才能があるんじゃないか。


「いいよ……。すきにして……。私のこと……未知子ちゃんのいいように……してよ……。」


 その言葉を合図に、狭い教卓の中で、無抵抗な彼女に覆いかぶさる。……そこからは……気が狂うほど本能のまま、目前の少女を求め尽くしていた。






 脳まで響くような甘ったるいよがり声を上げる四月一日。

 胸をいじめられて、涙を浮かべて喘ぐのを我慢する四月一日。

 あまりに強すぎる快感に、首が上を向く四月一日。

 お預けにされた刺激を待ちわびて、恥ずかしい乞いをする四月一日。

 顔を真っ赤にして、私に抱きつく四月一日。

 足を真っ直ぐに反らせて、無力にガクガク震える四月一日。








「っ!!……はーっ……はーっ……はーっ」


 今日は上手くいった。……四月一日の妄想での……自慰行為。














*****


 ……連絡先の交換は成功した。


 あの後、『櫛持って帰って来ちゃった!』という文章と一緒に、櫛の写真を送れば、何事もなく友達追加してもらえた。


 返答は『明日受け取りに行きます』だけで、やっぱり四月一日は文面でもそっけないのか、と少し落ち込んだ。















 問題はそう、そこからだった。


 深夜1:00頃。夜更かしで、することもなくぼーっとしていたところに、いきなりスマホの通知が入った。部活で描いた絵画のアイコン。信じ難いが四月一日雀からだった。







『私をお兄ちゃんとの関係の処理係に使わないで』

その文面と共に送られてきたのは……



部屋の中で、嫌な顔をしながら無地のシャツを胸半分くらいの高さまでたくしあげて素肌を晒した自撮りをする、なんら訳の分からない四月一日の姿だった…………。









 ……文章と画像はすぐに消えた。ほぼ同時くらいの速さで、『間違えました』と訂正が来た。


 ひとまず、私のひどい”夢”のことではなくて安心した。タイミングがタイミングだったから、結構焦っていた。……しかし安心もつかの間、私は状況を把握してまたすぐに焦った。


 あれが、誤爆ってことは、確実に送る相手がいたんだよね……。


 こんなの、あの反応の鈍い四月一日雀に可能だなんて思えないけど。男……?……いや、冷静に考えてあの女にそんなこと起こりえない。

 冷静に。極めて冷静になろう。あの変人のことだ。これもきっと妙なことで、あの画像が必要になっているに違いない。援交……?まさか。自己顕示欲で……?ちょっと微妙。誰かに頼まれてる……?あるはずないけど。あるはずないけどぉ……。ちょっとあるかも……。


 考えたくないことを考えないようにすると、彼女に対する苛立ちばかりが思い出され、意識せずとも小声で呟いていた。私以外に学校で見せない顔晒さないでよ。




 それは、そうと。さっき目に焼き付けた少女の体は……今までの”夢”の中よりも一層……。


 憎き四月一日雀の間抜けな誤爆のせいで、無駄に悶々とさせられながら、結局その日は一睡もできなかった。


 *****



 次の日。

櫛を返しに行った際、私の口は、意図せず下ような言葉を口走った。


「昨日はありがとう。ところで、文化祭の予算を組みたいんだけど、夏休みに話し合う日作れる?」


「色々やる事があるから、一日中って思っておいて。あ、でも四月一日さんは学校から家が遠いか。」


「そうだ。私があなたのお家にお邪魔してもいい?私のところ、親に言われてて部屋に人呼べないの。多分私、四月一日さんの家の方が学校より近いから。」


「あー、それでもかなり歩くからお泊まりになっちゃうかもね。」


 絶対に早口だったと思う。正直てんやわんやであまり覚えてない。

 これらを口から紡いでいる時、その時ばかりは自分が自分自身からはがし取られたみたいな、自分で自分を客観視しているみたいな、変な気分になっていた。



「………………わかった。」


 長い沈黙の後、いつもの読めない表情で四月一日が頷いたのだった。

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