第3話

第1章

→だからってお友達になれるわけでもあるまいし。②


 当人にその気がなかったとしても大体の人間は社交儀礼を重んじる生き物である。第一印象が今後の学校生活を送る上で死活問題になってくることを我々は嫌というほど知っているからだ。ので、ファーストコンタクトは何とかそれなりの良いものにしようとするのが一般的な思考回路。しかし彼女は黒板に記された字面を少しばかり読み上げた程度で、それに関する補足も追記もする気がないらしい。


「…えーっと。皆は何か朝比奈さんに聞きたいことってある?」


 沈黙が耐えられなかったのか、気を利かせたのかどちらかなのかは知らないが、担任がそんなことを言ってくる。しかしそれに直ぐに便乗してくる生徒は現れなかった。当然だ。もし気になることがあったとしても、あんな『寄らば〇す』的な空気を発している人間にそう易々と声をかけれる人間などいる筈もない。何せクラス中の視線を集めているのは2次元から飛び出てきたみたいな文句なしの美少女。だがその実態はクール系美少女ではなく、絶縁系美少女という新ジャンルのヤベえやつだったのだから致し方ないだろう。


「じゃ、じゃあ俺いいっすか」


 そんな中、1人の勇者が名乗り出た。陽キャグループの一角に居座っているジャニーズ系のイケメン(名前は知らない)だ。おお~、と彼の周囲で感嘆の声が漏れる。


「朝比奈さんの趣味ってなんすか?ジブンはバスケやってるんすけど、実は去年から筋トレもちょっと齧り始めてーーー」

「興味ないです」


 先ほどとは打って変わって早すぎるレスポンスだった。「趣味がないです」とも「あなたの話に興味ないです」とも「あなた自体に興味ないです」とも取れる返しに勇者は絶句。なんなら担任含めクラス中が冷えっ冷えである。とどめを刺すとはこういう場合に使う言葉なのだろう。普段は勢いに乗っている人間が失脚すると内心は少しほくそ笑んでしまうのが人間の醜い性ではある筈なのだが、あそこまでいくとむしろ同情しか湧かないレベルで可哀想だった。南無。


「…もういいですか?」

「そ、そうだな。ひとまず席はあそこのーーー」


 担任にそう尋ねた彼女は、指定された場所へつかつかと歩いていく。育ちの良さが見て取れる流麗な動作でそのまま俺の隣の席に座りって隣かよ!?


「…」


 しかし着席する際彼女はこちらを一瞥したがそれだけで、以降はこちらに視線すら向ける素振りすら見せなかった。慌てたのはどうやら俺だけだったらしい。あ、視界に入っただけってやつですね分かります。


「…高峰。仲良くするんだぞ」


 前から飛んできた担任の言葉に「いや無理っす」と返せるはずもなく。かと言って気の利いた台詞も返せるはずもなく。だから俺は


「…………………はい」


 極小の声で返事をする他なかった。これが、彼女についての最初の記憶である。


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