第2話
第1章
→だからってお友達になれるわけでもあるまいし。
「実は今日、皆さんにお知らせがあります」
5月の頭。学年が一つ上がりクラス替えも無事終了し、それなりに落ち着きを得て来た一限前のホームルームの時間に担任がそんなことを言ってきた。如何にも盛り上がって下さいと言わんばかりの前振りにノリの良いクラスメートが声をあげる。
「せんせー、転校生ですかー?」
「こらそこ。答えを先読みしない」
大して面白くもないやり取りにクラスが沸き立つ。やっぱり言葉っていうのは何を言ったかじゃなくて誰が言ったかだと思うんですよね。
話が逸れたが実は既に『転校生がこのクラスにやってくる』という噂は既に生徒の間で広まっており、その為担任が教室にやって来るよりも早くクラスは浮足立った空気を醸していたのである。普段ならギリギリまで自分の席に座らない男子たちも、こっそり机の下でスマホを弄って会話する女子達もそのおかげかこの日は皆お行儀が良い。
「男ですか?女ですか?」
「女の子です」
「綺麗系ですか?可愛い系ですか?」
「綺麗系です」
「彼氏いますか?いませんか?」
「それは本人に聞きなさい」
またもクラスが揺れる。この芸人染みたやり取りは何なんだと毎回内心でいら立つが、どうやら『お約束』というものが世の中にはあるらしい。誰かは知らんが学校は社会の縮図って最初に言った人にノーベル賞を上げて欲しいものである。
「中途半端な時期ですが、これから一年を共にするクラスメートとです。皆さん温かく迎えるように。…じゃ、どうぞー」
そんな言葉を皮切りにガラりと入口の扉が開く。その瞬間、先ほどまでざわめきを保っていたクラスが静寂に包まれた。その理由は勿論入ってきた転校生だ。
艶のある黒髪に一目で美形と分かる端正な顔立ち。「あれはモテるわ」と思うくらい可愛い女子はこの学校にも勿論幾らかいるが、彼女はその中でも群を抜いていた。加えて平均よりやや高めな背丈に出るとこは出ている締まりのあるプロポーションは周りの視線を容赦なく釘付けにする。もしモデルをやっていると言われても誰も意外だと唱える者はいないだろう。端的に言うと、その転校生は漫画ばりの美少女であった。
「……」
しかし彼女は好奇と驚きを含んだ視線に何一つ顔色を変えることなく教壇の前に立つと黒板に名前を書き始めた。まるでこちらの存在など眼中にないと言わんばかりに。きゅきゅっとチョークの音だけが教室に響き渡る。
そして最後の一文字を丁寧な字で書き終えると再び正面に向き直ってーーー
「……」
沈黙。
うんともすんとも言いやしない。水晶のような瞳をこちらにぼうっと向けるだけで、焦点が顔に定まっているのかどうかさえも微妙な所である。
「えーと、朝比奈さん?自己紹介お願いできますか?」
担任の強張った声はクラスの驚きと戸惑いを代弁しているようだった。しかし彼女はそれにも顔色を変えることなく視線を一度だけ担任の方に寄こすと、ようやくその重々しい口を開く。そして独特の緊張感が最高潮になった所でーーー
「…朝比奈美夜です。卒業まで話しかけないでください。よろしくお願いします」
欠片もよろしくする気のない声と台詞が、教室に木霊した。
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