大学ノートの乱筆

8月05日

これは、今の俺の考えをまとめるために記した。

ワイヤレスイヤホンを拾って好奇心で持ち主を探そうとしただけで、まさかあんな不気味な目にあったり、ケン兄を会社クビにさせたり、挙句逮捕されたりするとは全く思ってもいなかった。


あれからいろいろ考えた。

全く根拠はないが、あのケン兄と見た魔法陣は、どこか別の世界につながるゲートみたいなものだったんじゃないかと思う。多分今行方不明の女子高生が使ったか、あるいはあの瞬間まで使っていたものか。

あの時の鞄の中には、ワイヤレスイヤホンのもう片方は入ってなかった。もう一方は女子高生が持っていて、こちらと別の世界をつないでおく効果があったんじゃないだろうか。それが音楽を止めてしまったせいで途切れてしまい、扉が崩れてしまった。


全部が全部変だが、気になることもいくつかある。

あの魔法陣の血は生臭い匂いがしていた。乾いてなかった。

いくらワイヤレスイヤホンとはいえ、時速80km越えの電車から一瞬でも接続できるのだろうか。何か、現実にないような特別な力が働いていたのではないだろうか。

スマートフォンだってそうだ。そんなに長時間、音楽を流しっぱなしにして充電は切れないのだろうか。


なんとなく、警察に渡しそびれたこのワイヤレスイヤホン。これを持っていれば、もしかしたら真相がわかるかもしれない。


8月06日


ワイヤレスイヤホンから声が聞こえる。

幻聴ではない。間違いなく声が聞こえる。





ケン兄、これを見たら○○駅北口にある79番のロッカーを開けて、中身に入っている俺のワイヤレスイヤホンの片割れを無くさないように保管しておいてほしい。鍵は俺の机の一番下の引き出しに入ってる。俺から巻き込んでおいて、さんざん迷惑を掛けて、こんなこと頼むのはずいぶん身勝手だと自分でも思うが、他に頼める人が思いつかない。ほんの少しだけ俺の気持ちを背負ってほしい。


やっぱり俺の考えは合っていた。いや、当たらずとも遠からず、といったところだ。

俺はこれを拾って、あの場所に行ったことを偶然だとは思わない。俺には彼女を助けに行く義務があるように思う。

戻れるかはわからないが、彼女と戻るつもりでいる。


それまでどうか、俺のワイヤレスイヤホンを持っていてくれ。


追伸

スレに書き込んだ件、どうにかおさめておいてほしい。

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拾ったワイヤレスイヤホンの持ち主特定できるかやってみたww 昨日野 @every_day_yesterday

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