8月14日

 目覚めたら家の周りが完全に水没していた。あちゃー。雨はすっかり止んでいるけれど、玄関から数歩進まないうちに水が足を撫でる。これはしばらく家から出ないのが正解なのだろうけど、生憎そういうわけにもいかない。しばらく考えてから、私は梯子を取りに家に戻った。

 家の漏水を阻止してくれた蟹の甲羅を屋根から外し、内側を裏にして水面に放り投げる。ばしゃりと大きめの音がしてしばらく揺れたあと、それは静かに止まった。親爪の甲羅を中に放って、それからレオに声をかけた。「行くよー」返事と共にオイルランプを持ったレオが顔を出して、外の様子を見て顔を顰めた。

「最悪だ。僕は泳げないのに」「落ちることはないと思うよ」不承不承といった様子で乗り込んだのを確認して、私も乗った。一人と一匹だからさほど重くもないのか、しばらく不安定にぐらついていたもののすぐに立て直した。爪をオール代わりに漕ぎ始めると水面を滑るように進む。周囲は離島のように民家がぽつぽつとあるだけだ。「ノアの方舟みたいだね」私がいうと「僕にとっては三途の川の気分だよ」と不機嫌な声が返ってきて笑った。ランプの灯が激しく揺れる。そうだよねまだ帰るには早いよね。小さな舟は進み続ける。

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