8月15日

 水の上を滑る。空は分厚い雲がかかり、今にも泣き出しそうな暗さを孕んでいた。「雨が降ったらどうするんだい」レオが不安げに空を見上げながら聞くので、柄杓で水を掬い出すとか? と返すと怒ったように喉を鳴らす。この時の柄杓は底を抜いてたらダメだなぁなんて思った。どちらにしろ、今日は降らない予報になっている。頭上の雲の中で鮮やかな赤色が煌めく。イトヨリが泳いでいるんだろう。

 周りの小舟が増えてきて、めいめいがオイルランプや蝋燭、ランタンを持っている。お互いが小さく会釈をして言葉を交わすことなく先へと進んだ。だいたいみんな、向かう先は同じで目印のない中で少し心配そうな表情をしてはオールを漕いでいる。私も自信があるわけでもなく若干の不安があったので、次第に墓標が見えてきたときには安心した。他の舟からも安堵のようなため息が聞こえる。

「つきましたよ」ランプに声をかける。炎は中で激しく揺らいだ。「もう少し待ってくれよ」制止の声も届かないらしい。結局蟹の甲羅を降りるのを待たず、炎はランプから離れてしまった。どの魂も同じらしい、背後から似たような炎が私達を追い越していく。彼らは目的地へたどり着いたのだ。

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