第5話 文化祭
「うーん、可愛く撮るのは難しいな」
SNSをチェックするが明らかにSNSのパンダの方が可愛いし面白い。高価なカメラを使ってもスマホで撮ったものなのに歴然の差だ。これでパンダの魅力を伝えきれているのだろうか。
彩浜と永明が寝てる姿とただ桜浜と結浜はただただ食べているだけだ。大人なパンダは基本、食べるか寝るかしか無いらしく、睡眠に12時間費やして、あとは食べているだけらしい。子供パンダだけは元気に遊び回るらしい。
食べるか寝るかなんて人間からしたら羨ましい限りだけど……。
「これじゃあ面白くないよね……」
あまり期待せず、白井さんの待つ部室に向かった。
「良いねー可愛い」
「え?」
白井さんの反応は上々だった。いや、むしろ興奮している。
「彩浜の寝方変!可愛い」
「でも、寝てるだけだよ」
「パンダなんて寝るのが仕事みたいなもんだし、ありのままの姿が1番だよ」
「だけど、魅力を伝えられてるのかな……」
「心配ないよ、だって、必ずしも面白い姿のパンダに会えるわけじゃない。そりゃあ私も変なことをする姿は見たいけど……。でもたまにしか来ないお客さんじゃあパンダの面白い姿を見れる可能性は低いわけで、パンダの面白いところだけが全てじゃないし、期待外れなんて思われたくない。そりゃあSNSで人気になるには難しいけど」
「そうなんだ……」
「寝てる姿も食べてる姿もすごく魅力的だって伝えるんだよ。うん、この写真なら大丈夫」
「本当?」
「うん、パンダ初心者ならではの視点というか……光るものを感じる」
白井さんからのお墨付きをもらったパンダ写真とパワポと資料の印刷を手伝った。
こうして迎えた文化祭当日。
ポスターはあちこちに貼ったんだ。来てくれたら良いけど……。
「玲奈」
「お母さん……」
「引きこもりだったあんたがまさかこんな……」
「パンダ早くみたーい」
妹が学校の入り口で配られたであろうパンダポスターを握りしめていた。
母にはパンダ同好会に入ったこと、廃部寸前なのは伝えた。母にとって私が部活に入ることやパンダの写真を撮りに外に出る姿が感動的だったらしい。
「引っ越しも良いことあったわ」
「そんなことより早く来て!人が集まらないと上映出来ないから」
部室に戻って見ると、あまり同級生はいなかったが、子供はたくさんいた。飾ってあるパンダの写真に興味津々って感じだ。
想定とは違うけど良いよね。狭い教室だとむしろこれくらいがちょうどいい。
「皆さま、お集まりいただきありがとうございます。この和歌山県の名物であり、意外と知らないパンダについて説明していきたいと思います。アドベンチャーワールドには7頭のパンダがいて……」
うまく進行してる。私の言った通り、パンダは今いる7頭だけになった。そうした方がみんなの混乱も少ないしね。
「で、普通のパンダは150gぐらいなのに彩浜は75gで生まれて……」
「……」
あ、大和先生だ。顧問なのに何もして無かったけど、見に来たのかな。
全ての説明が終わり、観客の反応はなかなか良かった。
「意外と知らなかったわねぇ、パンダのこと」
「ほんと良かったわ。アドベンチャーワールドに行ってみようかしらね」
「ママー、ぼく、パンダ見に行きたい」
「良かったわよ、玲奈」
母が駆け寄ってくる。正直恥ずかしいんだけれど。
「すごいのは白井さんだよ。私はただ写真を撮っただけだし」
「でも良かったわ。私、これから週1でアドベンチャーワールドに行くわ」
「パンダ私も見る!」
なんか完全にパンダマニアになってる……。母と妹がこうなら、他の人もこうなってくれるのだろうか。
文化祭は2日間あり、6回のプレゼンをした。人数は開催ごとに増えている印象で、用意した歴代パンダの冊子が間に合わなくて慌てて印刷することにもなった。
でもかなり盛り上がっていた。
「パンダの魅力、分かってくれて良かった」
「うん」
後は部活の満足度ランキングに5位以内に入らないと存続はない。
私は祈るあまり文化祭を終わるまで楽しめなかった。
文化祭の最後、面白かった部活ランキングが少しずつ発表されていく。
「10位、野球部」
野球部の子達が騒つく。子供たち野球を教えていたのにあの順位なんて……。相当厳しそうだ。
「9位、茶道部」
「8位、書道部」
「7位、漫画部」
「6位、パンダ同好会」
あ……ダメだった。ギリギリ、ダメだった。
頑張った、むしろ健闘した。あんな中から6位だったんだ。良かったんだ。でも、同好会は……存続出来ない。
「……ごめんね、付き合わせちゃって」
「白井さん……。良いんだよ、楽しかったから」
引きこもりでコミュ障な私には、白井さんを慰める方法がわからない。もっと気の利いたことが言えないのだろうか。
「白井」
「大和先生!」
「素晴らしかったよ、お前のプレゼンは。地域の、地元の良さを確認出来たと大好評だったよ」
「え?」
もしかして……。
「部としての存続を認めよう」
「本当ですか?」
「はい」
「やったね、白井さん」
「うん。ありがとう、黒川さん、黒川さんがいなかったったらダメだったよ」
「そんな、私は……」
「黒川さんのアドバイスがあってこそだよ、ありがとう」
なんだろう、私、こんな感謝されるのは初めてで嬉しいを通り越して実感が湧かない。けれど、目の間にいる白井さんは大喜びしている。
「これからもよろしくね、黒川さん」
「うん、よろしく、白井さん」
「見て見て、彩浜の社長姿!」
「シャッターチャンス!」
私のパンダ生活はまだまだ始まったばかりだ。
パンダ同好会! リネット @panndadngo
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