第3話 廃部の危機


「ここが部室だよ」

「空き教室か……」


 不人気部活や同好会には定番の空き教室。カーテンがなく、夏場は暑そうだ。余っている椅子や机は荷物置き場だ。たくさんのパンダの写真が飾られていた。

 これ、まさか1人で撮ったのかな?プロ並みだ。


「カメラ持って来たよ好きなもの使って」

「こ、こんな高価なカメラ良いの?」

「良いよ、良いよ。あ、これは初心者におすすめかな」


 カメラも高価なものを持っていて本格的だ。白井さんは本当にパンダが好きなんだ……。

 

「パンダを撮るって言うけど具体的にはどうすれば……」

「まずはこれが可愛いって奴を撮れば良いんだよ。その中の1番良いのを常に撮れるように目指すんだよ」


 そう言えば白井さんは訛ってないな。もしかして和歌山の人じゃないのかな。


「白井さんは訛ってないね」

「ああ、中1の時に親が転勤してさ。お母さんは神奈川でお父さんは千葉の人だからさ」


 白井さんが言い終えたその瞬間、空き教室のドアはガラッと空いた。


「白井さん、こんなところにいたんですね」

「大和先生……」


 恰幅の良くて堅物そうな先生だ。別のクラスの体育教師だ。少し見たことがある。


「おや?新しい部員ですか?」

「はい、転校生の黒川玲奈さんが入ってくれました」

「1人増えたくらいで部活としては認められない」

「どうしたら部員と認めてくれるんですか?」

「パンダ同好会とやらが社会に貢献できるということを示せるなら存続を認めましょう」


 そんなこと言い出したら野球もテニスもサッカーも社会に貢献してるとは言い難い気が……。単に新しいものを認められない年寄りって感じがする。


「社会貢献……」


 白井さん、すごく落ち込んでる。どうしよう、このままで良いのかな?何か、方法は……。


「まあ、廃部しかないですよね」

「な、何をすれば廃部にならないようにしてくれますか?」

「そうですね……次の文化祭で部活ごとのイベントで満足度ランキングを決めるのは知っていますよね?」

「は、はい……」


 そんなものがあるんだ……。


「そこで5位以内に入れたら存続を認めましょう」

「わかりました!」

「えっ」


 5位以内!?白井さんわかってるの!?5以内だよ!?なんの打算があって自信満々に言ってるの?

 私が混乱したまま、教師は去ってしまった。


「白井さん、大丈夫なの?」

「平気平気、パンダは魅力的。パンダの魅力さえあれば、5位以内なんて楽勝だよ」


 それはパンダオタクの白井さんだけだよ……。というか部活イベントってなんだろう。


「部活イベントって?」

「文化祭ではそれぞれの部活の魅力を校内外に伝えて学校の知名度をあげるんだよ。さっきの大和先生は顧問なんだ、一応」

「で、でも5位以内は難しいような……。たくさん部活あるし」

「パンダの魅力なら大丈夫!パンダを研究してる部活なんて他に無いもの」


 それはそうだけど、この2人って人数でパンダの魅力を伝えきれるんだろうか。具体的な方法は思いついてるのかな?


「具体的な方法はあるの?」

「アドベンチャーワールドのパンダの写真集やアドベンチャーワールドのパンダの歴史をパワポとかで作るんだよ」


 意外とまともで安心した。まさか考えてないとか言いそうな勢いだったし。


「意外と知らないパンダの歴史、それを知るのも楽しいと思う?どう?パンダ初心者の黒川さん?黒川さんなら初心者の気持ちが分かるでしょ?」


 なるほど、白井さんは意外にも真剣に考えていたんだ。なら、私にも出来ることをしないと。 

 私も変わらないと、こんな直向きに頑張っている人がいるんだから。


「……私で良ければ」

「よーし、パンダの歴史講座だぁー!」








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