第23話エピローグ:僕の世界はここに存在する

記録を終えた僕は椅子にもたれながら、ふうっと息を吐いた。


記録を開始してからは、案内人とのやりとりが出来なくなるため、見守る事しか出来なかった訳だが・・・

果たしてこの世界での出来事を「おもしろい」と言えるかどうかは正直よく分からない・・・


今の心境を例えるなら・・・そう・・・


「自分の息子のお笑いライブを一切笑わない観客と一緒に見ているような心境だったな・・・」

「それも拷問ですけど、直接巻き込まれてる私よりはマシだと思いますよ・・・?」


僕の呟いた言葉を案内人が聞いていたらしく、モニター越しに私を見て不満を口にした。

案内人とは直接会うことは出来ないが、こうして画面を通じてやりとりをしている。

記録を終えた今、こうして再び会話をする事が可能になった訳だが、最後に話をした時に比べて口調にトゲがあるように感じる。


それにしてもなんだろう・・・


「ギャグコメってこんな世界だったのか・・・」

「ええ・・・なんていうか・・・荒波に揉まれるというか・・・なんかもう持っていかれるんですよ、全部・・・私がなぜ彼を連れて帰ってしまったか分かっていただけましたか・・・」

「そ、そうだな・・・」


ギャグコメの世界・・・なかなか恐ろしかった・・・

しかしそんな世界が僕の世界になってしまうとは・・・

ダークファンタジー作ろうとしたらギャグコメになってました・・・と言っても誰も信じないだろう・・・


しかしこうして改めて見てみると、ジャンル変更だけが原因とは言いきれない不思議な事もあった・・・


「僕の勇者はいつからあんなに病んでいたんだ・・・?」


勇者はジャンル変更の影響を受けていないはずだ。ということは、あの発言すべてが本来の勇者自身の言葉なのだ。


「それは創造神様が強すぎる魔物や魔王を作るからでしょう・・・創造神様の作る世界、ハードモードなんですよ・・・極端なんです・・・昔も・・今も!!」


・・・僕の案内人も心の闇が深そうだな・・・

そうか・・・それは反省点としてあげておこう・・・


「それなら、あの厨二病の少年のようにメンタル強化するべきだったか・・・」

「そうですね。そこまで強くなったら逆にへし折りたいくらいですね・・・」


案内人は厨二病の少年の事は思い出したくなかったようで、あからさまに嫌な顔をしている。


「あと・・・思ったのですが・・・」

「ん?」

「この世界、下手に私が関わらない方が上手くまわりそうです・・・なので私もしばらく1人になりたいです・・・この世界の人と関わりたくない・・・」


・・・お前まで勇者と同じことを言い出すのか・・・


「とりあえず記録を取る事は出来た。あとは全知神様の反応次第だから、しばらく休んでいていいよ」

「私としては別にこんな世界消滅しても・・・むしろ滅べ!!!」

「うん、君ちょっと休んだ方がいいな」


世界を護る使命を持つはずの案内人がとんでもない事を言い出しているので、彼女に何かを指示するのはしばらくやめよう。


とりあえず案内人に長期休暇を与える事と、この世界の主人公のメンタルケアのために献身的な嫁候補の手配をしてあげよう。


その時、僕の手元が眩く輝き出し、手の平に何かが置かれると光はスーッと消え去った。

僕の手の中には、1冊の書物が置かれている。

その表紙には、『異世界に召喚された魔王と間違えて厨二病を連れて帰ってしまったが、勇者一行がもう来ます』と書かれている。先程僕が設定した記録書のタイトルだ。

長いタイトルだと思われると思うが、こうでもしないと数千万とある記録書の中から選んでもらうのは至難の業なのだ。

僕も自分の世界を消滅させないためになりふり構ってはいられない。


「これが・・・僕の記録書・・・」


僕の作った記録書はそんなに質量の多い物ではないが、初めて手にしたそれは予想以上に重く感じた。

パラパラと捲ると、言葉の羅列が並び、先程見ていた世界の出来事が文字となり書き連ねられている。


「これが・・・僕の世界」


僕はその記録書を見つめながら感動していた。

これまで、僕の世界は自分の中だけの世界であった。誰の目に触れることも無い、僕だけが見ることができる世界・・・それがこうして1冊の書としてここに存在している。


「僕がずっと世界を記録することを躊躇していたのは、この世界の記録を世に出して『面白くない』と、消滅させられてしまうなら・・・少しでも長く自分だけの世界として留めていた方が良いと思っていた・・・しかしそれでは、この世界は存在しないのと同じだったんだ」


僕の生み出したキャラクター達は、確かに僕の中に存在していた。だが、記録書として残さない限り、僕が消えてしまったら・・・世界が自然消滅してしまったら・・・彼らも消えてしまう・・・存在していたという事実さえも・・・


「たとえこの世界が消滅しようとも、この記録書が無くなることはない。彼らが確かにここに存在していたという事をこれが証明してくれるんだ。こんな嬉しい事はない」


創造神にとって自分の世界はもちろん、自らが生み出したキャラクター達は、我が子のように尊いものなのだ。


「数千万と存在する世界の中から、果たしてどれだけの全知神の目にとまり、最後まで読んでもらえるかは分からない・・・だが、1人でも読んでもらえたなら、彼らの存在はその人の記憶に残る。すごい事だと思わないか?」

「記憶から消される事もありますけどね。」

「ちょっと良い事言ってるんだからやめてくれるかな?」

「あと人じゃなくて神様です」

「はいはい」


感極まりそうになっている所を案内人に邪魔された・・・


さて、あとはこの世界がどんな道を辿るのか・・・

消滅か・・・存続か・・・


果たして、この世界は面白かったのだろうか・・・?


それは神のみぞ知る、というやつだ。


僕は記録書を一通り読み終えると、1番最後に一筆書き足した。


『御愛読、ありがとうございました』


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