第22話オチが渋滞してるので、早く止めてください
魔王城の外へ出ると、いつの間にか夜が明けており、すでに日が登っていた。
ヤンは魔王城の周辺を見渡し、その雰囲気に違和感を感じた。
「あれ?魔王城ってこんな・・・天気良かったっけ?なんか雰囲気違うよな?」
今までは、魔王城周辺には常に暗雲が立ち込めていた訳だが、今は雲ひとつない真っ青な青空が広がっている。
ニコとカイも頭上にはてなマークを描いたように、キョロキョロと辺りを見渡している。
勇者はというと、そんな事全く興味が無いように、1人で歩き出した。
「あ・・・待てよ勇者!・・・どこ行こうとしてんだよ!?」
ヤンが駆け寄り、勇者の腕を掴んで引き留めたが、勇者は振り返らずにボソリと呟いた。
「人がいない所・・・」
「な・・・さっき言ってた呪いを解くためか!?」
「勇者、私の知り合いで呪いの解き方がわかる人がいるかもしれません。何も1人で行かなくても・・・」
ニコとヤンが1人で行こうとする勇者を宥めるが、勇者は腕を掴んでいるヤンを引きずりながら進んでいく。
「いや、これは解けない呪いなんだ・・・俺はこの世界の人達が怖い・・・誰とも関わりたくない!俺は今すぐ1人になりたい・・・1人にならせてくれ・・・!!!」
「くっ・・・!呪いのせいでおかしくなっちまったのか!!?」
その時、勇者の行く手を阻むかのように誰かが立ちはだかった。勇者はそれにぶつかり、よろめいて膝をついた。
その人物の正体は、すっかり酔いが覚め、一眠りでもしたかのようにスッキリとした表情のカイであった。
「おいおい、勝手に行くんじゃねえよ。呪いだか何だか知らんが、1回説明してくんねえとこっちも納得いかんぞ?あと魔王はどうすんだ?」
カイは腕を組みながら仁王立ちしたまま勇者に問いかけた。この男も魔王城に来てからの記憶は全くないようだ。
「・・・・・・」
勇者はぶつけた鼻を擦りながら、暫く考え、ため息をついた。
「説明してもいいけど・・・どうせ信じないだろうけどな・・・」
「何言ってんだよ。昔からの仲だろ?信じるに決まってんだろ?」
「・・・ごめん、俺お前の事もう信じられない・・・」
「え、なんで!?」
ヤンの言葉を勇者は目線を合わす事無く突き放し、ヤンはショックを受けている。
その時、パンッと手を叩く音がして、勇者とヤンはその音の鳴った方に顔を向けた。
「まあまあ、とりあえず勇者の話を聞きましょう!」
手を合わせたニコが笑顔でその場を纏めた。
「あ・・・そうだ・・・」
ニコはゴソゴソとアイテムバッグから何かを取り出した。
「お話する前に・・・はい、生姜湯。どうぞ、温まりますよ」
ニッコリと笑顔を浮かべながら差し出してきた湯呑みを、勇者は凍りついた表情のまま受け取った。
口に含んだ生姜湯は、凍りついた勇者の心を僅かにポカポカと温めたのだった。
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勇者は仲間に、女神から聞いたこの世界の事、元の魔王がいなくなったこと、魔王城へ来てから仲間達がどんな行動をしてきたかを話した。ただ1つ、ニコが魔王城で用を足した事は伏せておいた。
勇者が話し終わると、ヤンが1番に口を開いた。
「ま、まさか・・・そんなことが・・・?」
皆、信じられないような顔をしていたが、ニコには話の中で1つ心当たりがあった。
「でもヤン・・・さっきの勇者の話の中に・・・」
「ああ・・・あったな・・・俺達のまだ披露していないネタが・・・」
「たしかに、生姜湯の数が減ってるんです・・・」
2人はコソコソと会話をした後、何かを決意したように見つめ合って頷くと、照れくさそうに勇者とカイの方を向いた。
「俺達、お笑いコンビを結成することにしたんだ!」
意気揚々と宣言するヤンに、ニコは恥ずかしそうに笑いながらも嬉しそうだ。
「おお!!そりゃめでたいな!!」
カイはパチパチと手を叩き、2人のコンビ結成を祝福した。
「あと・・・実は俺達・・・付き合ってんだ」
ヘヘッとヤンが笑い、ニコを抱き寄せると、ニコも満更ではない様子で顔を手で隠すようにしているが耳は真っ赤になっている。
「おお!!そりゃまたダブルでめでてえな!!じゃあまた今晩は祝賀会するか!!」
「だからこのノリがもう嫌なんだよおお!!!!」
突然勇者が渾身の怒りを振りまきながら立ち上がった。
「なんで昨日まで死と隣り合わせで戦ってきた奴が、今日いきなりお笑いコンビ結成の発表なんてするんだよ!!しかも付き合ってますだあ?お前らまさかこの後立て続けに「私達結婚します」からの「お腹に新しい命が・・・」て告白するつもりじゃないだろなぁ!?」
「ゆ・・・勇者・・・なぜそれを・・・?」
「事実かよ!!めでたいなおい!!妊娠してるやつが酒飲んでんじゃねえよ!!!ちくしょう!!!おめでとう!!!くそが!!!!」
仲間に対する怒りと祝福の言葉を混在させながら言い放つと、勇者は真っ白に燃え尽きた様子で両膝を落とした。
「俺は・・・もう疲れたんだ・・・。魔王もいない・・・世界は平和になるだろう・・・。だが俺はもう疲れた・・・誰とも関わりたくないんだ・・・ほんとに・・・」
勇者は悲観的な言葉を並べると、ゆっくりと立ち上がり、数歩歩くとピタリと止まった。
「だから俺は誰もいない・・・人里離れたところで1人で暮らして行くよ・・・頼むから、そっとしておいて欲しい・・・それが俺の最後の望みだ」
そう言うと、勇者は聖剣を引き抜き、近くの岩に突き刺した。その横に鞘も添えておく。
「聖剣はここに置いていく」
「・・・え・・・聖剣こんなとこ刺してて大丈夫なん・・・?」
「大丈夫だ。女神様の許可も得ている」
「マジ・・・?」
ヤンとそんなやり取りをした後と、勇者は再び1人で歩き出した。
「あ・・・」
悲壮感漂うその後ろ姿に、ニコは再び駆け寄ろうとした。
「付いてくんじゃねえ!!」
振り返った勇者の真剣な表情とその声にニコはビクッと体を跳ねると立ち止まった。
「いや・・・本当に1人になりたいから・・・頼むから来ないでくれ・・・」
「・・・分かりました。でも勇者、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」
勇者の強い意志を感じ取ったニコは、とりあえず納得はしたが、真剣な表情で勇者を見つめている。その様子に少し安堵した勇者は、少し表情を和らげるとコクリと頷いた。
「私達、お笑いトリオになる気はありませんか?」
「なるかボケええええええええええ!!!!」
血管がキレそうになる程声を張り上げ、勇者は一刻も早くこの場から離れようと、再び歩み出したが、すぐにピタリと止まり、後ろを振り返った。
「いいか?絶対・・・絶対来るんじゃないぞ?絶対に誰も俺の所へ来ないでくれよ!?」
「・・・!!分かりました!!」
勇者の言葉に何故かニコの表情が明るくなり、大きな声で返事をした。
その様子になんとなく不吉な予感がした勇者は、念の為にもう一度念を押した。
「・・・ぜ、絶対・・・来ちゃダメ・・・だからな・・・?本当に分かってんのか・・・?」
「ええ!!任せてください!!」
キラキラと目を輝かせながら、ニコはドヤ顔をしているたが、勇者は気にしない事にして前を向くと早歩きでその場を去っていった。
その後ろ姿を見ながらカイが寂しそうに呟いた。
「あんなに念をおすなんて・・・俺達のことそんなに嫌なのか・・・」
すると、ヤンがニヤニヤしながらカイの肩に手を置いた。
「ふっ・・・カイ、お前分かってないな・・・」
「?」
ニコも笑いながらカイの方を向いた。
「ふふふ・・・この業界では、「絶対」を使った『フリ』があるのですよ。「絶対押すな」は「絶対押せよ」と同じ意味を持ちます。つまり、「絶対来るな」は「絶対来いよ」と同じ意味になるんです・・・つまり、勇者は絶対に来て欲しいって言ってるんですよ!」
ニコの説明を受け、カイの表情に活気が戻った。
もちろん、勇者はそんな業界事情を知るはずもなく、本気で1人になりたいと思っての言葉であった。
「そうか、じゃあ俺も行っていいんだな!いや、絶対に行くぞ!!」
「ええ・・絶対に行きましょう・・・皆さんで!!」
「そうだな、手土産にいい酒でも持って行くか!!」
「おお!!じゃあこいつも持っていくか!!」
カイは勇者が突き刺した聖剣を簡単に引き抜くと、鞘に収めてアイテムバッグの中に投げ入れた。
3人は和気あいあいと勇者に会いに行く時の事を話しながら魔王城を後にしていく。
(あんた達一体いつからお笑い一行になったのよ・・・)
その様子を木の影に隠れながら案内人が見つめていた。
この時の勇者はまだ知らない。
ギャグコメ界でのトラブルは主人公を中心に次々と勃発していく事を・・・
いくら頭のネジがぶっ飛んだ人達でも、誰もツッコミがいない場所ではボケたがらない。
恐らく今後も「こんなん出来ました」と新ネタを披露する勢いで癖のあるキャラクター達が勇者の元へ押し掛けてくるであろう。
(勇者には同情するわね・・・)
勇者一行が立ち去った後、しばらくして魔王城からアオと魔王が出てきた。
アオに手を引っ張られるようにして歩く魔王は、不満そうに問いかけた。
「お主、我を一体何処へ連れていく気だ?」
「魔王様・・・恐れながらも言わせて頂きますが・・・魔王様の使う魔法ですが・・・何も見えていません・・・!!」
「な・・・なんだと!?貴様!何をほざいているのだ!!」
「申し訳ありません!!!ただ、魔王様の目がおかしいのか、私の目がおかしいのか、確認する必要があります!!どうか、病院へ行きましょう!お互い検査してもらいましょう!!目と頭の検査をしてもらいましょう!!」
「頭も増えてるじゃないか!ええい、病院など行かん!!」
「魔王様!!もしかしたら命に関わる病気かもしれません!!絶対連れていきます!!」
「行かんったら行かん!!」
ギャーギャーと取っ組み合いながらもアオに力では勝てずに魔王は引っ張られて行く。
(あんた達・・・何やっているのよ・・・)
その時、アオが案内人の存在に気付き、じっと見つめた。その目が合うと、何かを思い出した様に方向転換して歩き出した。
アオが向かった先は魔王城からすぐ近くにある岬であった。
「魔王様、ちょっとここへ立って頂けますか?」
「・・・?」
アオは岬の先に魔王を立たせると、真剣な表情をした。
「魔王様、では失礼します」
そう言うと、アオは魔王を思いっきり押した。
魔王は頭から海へとダイブし、その水しぶきがアオの頭上にまで跳ねた。
額の水しぶきを袖で拭いながら、ひと仕事終えたかのようにふうっと一息付き、案内人に向かってニヤッと笑った。
『その話の流れをひっくり返すような、良い落とし所を見つけることです』
かつて案内人が話したことを、アオは忠実に実行してみせたのだ。
「良い落とし所を見つけましたってか。やかましいわ。」
案内人はそう呟くと、カメラ目線になり、こちらに訴えかけてきた。
「創造神様・・・早く記録を止めないと、オチが渋滞してます・・・」
すっかり止め所が分からなくなった僕は、今のオチで大丈夫か、かなり心底不安ではあるが、記録をここで終了させた。
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