第21話勇者(の頭)を心配する仲間と、最後のオチは・・・させねーよ
しばらくして、ニコとヤンはハッと我に返り、慌てて勇者に駆け寄った。
「おい!大丈夫か!?しっかりしろよ!!?」
「勇者!!大丈夫ですか!!?」
「だ・・・」
「おい!!なんか変な魔法かけられてんじゃねえのか!!?」
心配そうに見つめてくる2人に大丈夫だと口を開こうとした勇者だったが、ヤンの声に言葉を遮られた。
「恐らくそうでしょうね・・・先程の勇者の言動はとても普通じゃありませんでした・・・もしかしたら混乱とか・・・錯乱とか、そういう魔法かもしれません・・・とにかく状態異常を治す魔法を使用しますね」
そう言うと、ニコは祈り始め、それを見たヤンが念を押すように話しかけた。
「あ、あと頭を強く打ってるせいかもしれないから、そこんとこの回復も頼んだぞ。俺も念の為、勇者に変な術がかけられてないか確認してみよう」
ニコとヤンがそれぞれの用いる魔法で勇者の状態異常の回復、その他の異常が無いかの確認をし始めた。勇者はただただ無の表情で寝そべっていた。
もちろん2人に悪意はない。純粋に勇者を心配しての発言である。
しばらくして、ヤンが不思議そうに口を開いた。
「・・・あれ?特に何ともないな・・・そっちはどうだ?」
「こっちも・・・状態異常に関しては特に何処も異常は無さそうです。やはり頭を強く打った影響でしょうか・・・?」
ニコも首を傾げながら答えた。
「そうか・・・やはり頭が悪いのかもしれないな・・・治りそうか?」
「分かりませんが・・・やってみます!悪くなった頭をどうにか良くなるようできる限りの事はします!!」
キリッと一段と真剣な表情になり、ニコは勇者の頭を良くするために再び祈り始めた。
そんな2人のやりとりを、死んだ様な表情で聞いていた勇者だが、ゆっくりとその口を開いた。
「・・・いつからだ・・・?」
その言葉に、2人はハッとし、安堵の表情で勇者に話しかけた。
「勇者!!大丈夫か!?さっきお前ちょっと・・・かなりおかしな様子だったから、今ニコが回復魔法をかけてるとこだぞ!」
「勇者・・・今、頭の悪い所を治してますから・・・大丈夫、すぐ良くなりますから・・・」
しかし勇者はそんな2人の言葉を無視するかのように、再度問いかけた。
「いつから見ていたのかと聞いているんだ」
その声の低さと、僅かに殺気を放ち始めた勇者の態度に、2人はギョッとなり、顔を見合わせた。
「えっと・・・なんか、勇者と魔王がくっついてて離れていくとこから・・・」
(精神攻撃を解いた時か・・・最初からじゃねーか・・・)
ヤンの言葉に勇者は絶望的な気持ちになった。
「す・・・すまない勇者。本当に1人で戦わせて悪かったと思ってる・・・俺達も気付いたらこんな所にいたから、現状を把握するのに必死だったんだ・・・」
ヤンの言葉に何かひっかかった勇者は、無表情のままヤンの顔を見た。
「そうです、勇者・・・一体何があったのですか・・・?何故私達はこんな所に・・・?そしてあの人が魔王・・・?ここはもしかして、魔王城なのですか・・・?」
(・・・はあ?)
何も分からないという表情のニコを、勇者はあからさまに繭をひそめて睨んでいた。
「おい・・・お前らまさか・・・ここに来た時の記憶が無いとでも言い出すのか・・・?」
今まで聞いた事がない勇者の冷酷でトゲのある言葉に2人は躊躇するが、ヤンは覚悟を決めたように声を振り絞った。
「あ・・・ああ・・・。たしか酒場で決起会をしていたはずだが・・・その途中から記憶が無い・・・次に気付いた時、すでにここにいて・・・勇者が・・・」
その先の話を語る事は勇者にとってあまり良くないと判断し、ヤンは気まずそうに勇者から目線を逸らした。
「・・・・・・・・・」
勇者の体と思考はそのまま止まっていた。
つまり、勇者にとって1番覚えていてほしくない、魔王との無様な戦いごっこを目撃されてしまったのに対して、2人は自分達が犯した醜態に関しては全く覚えていないのだ。
勇者は何か吹っ切れたように笑いだした。
「・・・ふっ・・・ふざけやがって・・・・・・ふふふふ・・・はははははは!!!」
その様子を見てゾッとしたニコは、慌てて勇者に声を掛けた。
「勇者・・・!!大丈夫ですか!!?今治しますから!!!!」
「治すんじゃねえ!!!」
「え!?」
勇者から放たれた拒絶の言葉にニコはビクッと跳ねた。
「治したらまたあの魔王と戦わなくちゃいけないだろ・・・?治すのはお前らの数時間前の記憶だけにしろ・・・な・・・?」
「え・・・ゆ、勇者・・・?」
どうゆう事なのかさっぱり分からず、ニコはうろたえている。
「いいか?俺はさっき魔王の放った邪神龍という召喚獣に呪いをかけられた・・・この呪いは精神的に少しずつ蝕蝕まれ、やがて死に至るものらしい・・・」
「「な・・・!?」」
ニコとヤンは勇者の言葉に驚愕の表情を浮かべた。
「じゃ、じゃあやっぱりさっきの異常行動はその呪いのせいによるものなのですね!!?頭を打って頭がおかしくなった訳ではなかったのですね!!?」
「まさか精神攻撃で・・・精神年齢がだんだん後退していってるのか!?だから昔みたいに変な叫び声出しながら魔法放とうとしてたのか!?お前一体今いくつになってんだよ!!?」
心配して言ってくれているはずの2人の言葉は確実に勇者の心を抉ったが、勇者は無心で言葉を続けた。
「この呪いを治すには今すぐ魔王城から出て、空気の綺麗な誰もいない静かな場所で暮らすしかない。だから今すぐここを脱出するぞ。今すぐにだ。」
勇者の言葉に、ヤンは覚悟を決めたように頷いた。
「そ・・・そうか・・・なら、俺が時間を稼ぐからお前達が先に」
「いやお前も一緒に行くんだよ」
「え・・・?」
「誰一人、魔王と戦うことは許さん・・・今すぐに・・・一刻も早く全員ここから立ち去るぞ!!」
そう言い放ち、勇者は転移魔法を発動させるため、魔力を操作し始めた時・・・
「うっうううう・・・」
聞き覚えのある泣き声を漏らす人物が、勇者達の後方から聞こえてきた。
「え・・・?カイ・・・?今までどこにいたのですか!?な・・・なんで泣いているのですか!?」
ニコが心配して駆け寄ろうとしたが、勇者が肩を掴んで止めた。
「え・・・ゆう・・・!?」
ニコは振り返り勇者を見たが、殺気を纏い人を殺す目をしながらカイを睨む勇者の姿に震え上がり、パクパクと口を上下させたまま声が出なくなった。
「う・・・うう・・・すまんよお・・・お・・・俺が・・・むぐぅっ!」
その先の言葉を言わせまいと、勇者がカイの口を手で掴んで塞いだ。
そしてカイのすぐ目前まで顔を近付け・・・
「吐いたら殺す・・・」
「・・・・・・」
カイは一気に酔いが覚めたように真っ青になり、大きく頷いた。
(ああ・・・そのオチ欲しかったなぁ・・・)
遠くからその様子を見守っていた案内人は、良いタイミングで現れたオチ要員が不発で終わったことに嘆いていた。
勇者は再び転移魔法を発動させ、足元に魔法陣が浮き上がると同時に、魔王が勇者に声をかけた。
「勇者よ・・・お主を我のライバルと認めよう・・・再び我に挑みに来るが良い!!!何度でも相手をしてやろう!!!!」
その言葉に、無表情だった勇者は一瞬サーッと青ざめた後、瞬時に鬼の形相になり、キッと魔王を睨みつけた。
「俺は認めねえわ!!!二度と来るかあああああああああ!!!!」
そう叫び残し、勇者一行はその場から姿を消した。
そして魔王城に残ったのは魔王とアオと案内人のみ。
「か・・・勝った・・・魔王様が・・・勇者に・・・勇者に勝ったあああ!!!!さすが魔王様です!!魔王様最高です!!!私の魔王様!!!!ばんざーい!!!ばんざーい!!ばんざーい!!!」
「ふんっ・・・口ほどにもない勇者であったわ・・・」
(いや、私がどんだけ苦労したと思ってんのよ・・・)
案内人や勇者の心労など知らない2人は、能天気に勝利した事を喜んでいる。
自画自賛する魔王、それを持ち上げ讃えるアオ。
その様子を見ながら、案内人は落胆していた。
(ダメだ・・・この2人にオチは無いわ・・・)
そして案内人は、何も言わずにその場から姿を消した。
そう、まだこの世界は記録を終える訳にはいかない。
ギャグコメの世界には最後を締めくくる、オチが必要不可欠なのである。
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