第19話 勇者、リアクション芸に挑む
「・・・・・・」
魔王の精神から抜け出し、戻ってきた勇者の瞳は、自分が精神攻撃を受けたのではないかと思うほど濁っていた。
無言のまま魔王を拘束していた手を解き、ゆっくりと後ろに下がった。
程なくして意識を取り戻した魔王は歓喜の声をあげた。
「勇者よ!我と共にこの世界の人間共を恐怖で支配することを選んだか!!」
「・・・ああ・・・そんな事も言ってたな・・・もうそんなんどうでもいいよ・・・」
投げやりに言葉を吐き出す勇者に、案内人はわざとらしく咳払いをした。
勇者は深いため息をつくと、魔王を睨みつけ、右目をピクピクと震わせながら心にもないことを口に出した。
「魔王・・・もう一度・・・俺と・・・戦え・・・」
(どんだけ嫌なのよ・・・分かるけど・・・)
案内人は勇者の様子を見て呆れながらも、同情はしていた。
案内人自身も、これまでは常に冷静沈着を保っていたわけだが、ジャンルがギャグコメになってからは度々キャラ崩壊が起こり、人格が行方不明になっている。
「ふっふっふ・・・いいであろう・・・お主が望むのであれば、我は何度でも戦ってやるぞ!!」
何度でもの言葉に勇者は背筋にゾワッと寒気が走り、真っ青になると、魔王に向けて懇願するように言葉を放った。
「いや・・・何度も戦わない・・・戦いたくない・・・!今日が最後だ!!最後でよろしくお願いします!!!」
勇者の言葉に、魔王は一瞬首を捻ったがすぐに笑みを浮かべて口を開いた。
「良いであろう・・・今日が貴様の命日である・・・我の実力を見せてやろう!!!」
(そうだ・・・俺は今日ここで死ぬ・・・むしろ殺してくれ・・・)
勇者は心の中でそう呟き、魔王の動きを注視する。
これから勇者は魔王の動きに合わせながらやられたふりをしなければいけない・・・
見えもしない攻撃に当たったかのようなリアクション・・・つまり、今勇者に求められているのは忠実なリアクション芸であった。
「いくぞ勇者!!ファイアーボール!!」
魔王が叫びながら突き出した手の先からは、もちろん何も出ない。
それを見て勇者はごくりと唾を飲み込んだ後、慌てふためくようにバタバタと手足をばたつかせた。
「あ、あつい!!あついいいいい!!!!」
大根役者もビックリな勇者の演技に案内人は思わず吹き出した。
(ちょ・・・ど下手くそがああ!!)
案内人は不覚にもツボってしまい、両手で顔覆った。その肩はフルフルと震え、笑いを必死に堪えながら耐えている。
「・・・効いた・・・?魔王様の攻撃が・・・効いている・・・?魔王様!!さすがです!!」
魔王しか眼中に無いアオは、勇者の明らかに不自然な姿に疑いを抱く事も無く歓喜している。
案内人はなんとか平常心を取り戻し、呼吸を整えると勇者の頭の中に話しかけた。
『勇者・・・あなたは馬鹿ですか?たかがファイアーボールごときにやられるつもりですか?ちゃんと本気で戦えと言ったでしょう。世界が滅んでもいいのですか?』
「・・・ちょっと黙っててくれますううう!!?」
勇者はピキっと額に青スジを立てて、案内人を睨みつけながら吠えた。
その目は血走っており、勇者もギリギリの精神状態で耐えているようだ。
そんな勇者の様子もお構い無しに、魔王は次の攻撃を仕掛ける。
「まだまだ!!ライトニングボルトおおおお!!」
「・・・!?うっ・・・まぶしいいいい!!」
勇者は目を覆うように手をかざした。
(いや・・・多分、魔王としては電撃系の魔法を使ったんだろうけど・・・ 勇者は光系の魔法と勘違いしてるわね・・・)
そう思いながら、案内人は今の現状に対して困惑していた。
案内人の当初の予定では、その場のノリでお互い上手い具合にやってくれると思っていたのだが、まさかここまで勇者が不器用な男だとは思っていなかった。
「フレアーアロー!!」
魔王の声に反応し、勇者は咄嗟に恥ずかしそうに小声で言葉を放った。
「フ・・・フレアーアロー・・・」
勇者にとって実に10年振りのフレアーアローだが、魔力を使っていないので当然何も出てこない。
しかし、魔王の目にそれはちゃんと見えていたらしい。
「我の魔法を相殺するとは!やるな!!」
「な・・・相殺したのか!!?」
勇者は初めて感じた手応えに、ちらりと案内人の方に目をやった。隣で魔王を応援するアオと同じ様に案内人も両手に持った団扇を笑顔で振っていた。
その団扇には「真面目にやれ」「恥を捨てろ」と書かれている。
(・・・見るんじゃなかった・・・)
そして勇者は再び孤独な戦いに身を預けることにした。
しかし先程の攻防により、勇者は魔王の放つ魔法に対して同じように魔法を放つふりをすれば、魔王の満足度が高くなる事が分かった。
そこからはしばらく魔法の打ち合いとなる。
┈┈以下、実際の状況に一部妄想を加えてお伝えする。
「ここからは少し本気を出すぞ!!アクアストーム!!」
「水か!!?あ・・・アンブレラバリア!!」
魔王の放った水流の大波を、勇者は巨大な傘を型どったバリアを展開し防いだ。
「ほう!!これも防ぐとは!!ならばこれはどうだ!?サイクロンアタアアアアック!!」
魔王の目前に巨大な竜巻が発生し、勇者めがけて進んでいく。
「風か!?風なんだな!?・・・アースクエイク!!!」
勇者は地面に手を叩きつけると、地面が歪み、勇者の前に竜巻を遮断する様に、大きい1枚の土壁が盛り上がった。
それに竜巻がぶつかり、土壁が粉砕すると同時に、竜巻も消滅した。
「やるな!!ならば・・・デ・ダリル・バ・ルスドン!!!」
「あ!?なんだって!!?もっと分かりやすい魔法を使わんかい!!う、うわああああ!!」
魔王が放った謎の魔法がどんなものか分からなかった勇者は、地を蹴り後ろの壁に自らぶつかった。
(なんなのこれ・・・)
目の前で繰り広げられる無様な茶番劇に案内人も目を背けたくなってきている。
(まさか見る側も・・・こんなに寒いものだなんて・・・舐めていたわ・・・)
案内人も度々来る悪寒に震えながらも、ギュッと体を抱きしめ耐えていた。
「魔王様~!!!あとちょっとです!!もうすぐ勇者を倒せます!!!まーおーうーさーまーああああ!!」
「はっははははは!!!!!こんなゾクゾクする戦いは久しぶりだぞ!!!さすが勇者と名乗るだけのことはあるな!!!!」
そんな中、魔王とその側近だけはテンションが最高潮にまで達していた。
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