第13話 勇者vs魔王①
勇者達は、進んでも進んでも敵と遭遇することはなく、ただひたすら長い廊下を歩いて進んだ。
(なんなんだこの無駄に馬鹿でかい城は!!)
いつ出てくるか分からない敵に警戒しながらも、その敵が全く出現する気配はなく、神経だけがすり減らされていく。
ひたすら歩き、突き進んだ先からようやく誰かの話し声が聞こえてきた。
勇者は緩み始めていた気を引き締め、声のする方へ駆けつけた。
そしてそこに居た3人の姿を認識すると、思わず口から本音が漏れた。
「やっと敵と遭遇したか」
その声に反応し、アオがゆっくりと振り返った。
その明らかに余裕の無い表情に、勇者は若干戸惑ったが、言葉を続けた。
「俺は勇者。魔王の居場所を教えてもらおうか」
勇者はそう言うと、歩きながら腰に帯びていた剣をゆっくり引き抜いた。
すると、魔王も勇者の方へ1歩前へ出た。
(・・・なんだ?この少年は・・・?)
勇者は自分よりも若いであろう少年が目の前に現れたことに、剣を突きつけることを一瞬躊躇した。
そんな勇者に、魔王はニヤリと挑発するような笑みを浮かべた。
「ふっ・・・貴様が勇者か!!」
(・・・!?)
突然の『貴様』呼ばわりに、勇者は若干イラつき、目の前の少年が敵であることを認識した。
「勇者よ、我の優秀な配下達を倒し、ここまで来れた事は褒めてやろう!」
その言葉に、勇者はこの魔王城に入ってからの出来事を思い出した。
長い廊下を歩きながら、何かしらの部屋へ入る扉をいくつも見かけたが、勇者達が寄り道したのは例のトイレだけであった。
本来ならば、魔王城内をしっかり詮索し、貴重なアイテム等がないかを探るのだが・・・
1人はトイレで便器とお友達状態、2人は変なフラグに反応する酔っ払い、そして勇者自身も『消化の魔法』のおかげで若干空腹状態に陥っており、探索する余裕が無かったのだ。
なので、ひたすら廊下をまっすぐ進み、今に至ったのである。
「・・・いや、ここまで誰とも遭遇しなかったが・・・?女神様の加護のおかげか・・・?」
(しかし、そのおかげで2人の酔いはまだ覚めていないんだが・・・)
勇者はちらりと後ろの2人の様子を伺った。
2人とも死んだ金魚の目状態で、ただ一点を見つめている。
その姿はまともに戦いに参加できる状態ではない。
「まあ良い!!勇者の相手など我らだけで十分である!!」
その言葉を聞いて、勇者は再び前を向いた。
その時、目の前の少年の体から発せられている気配が、魔王のものである事に気が付いた。
(・・・!?この気配は!!)
「・・・ちょっと待て。お前・・・もしかして魔王か・・・?」
「くっくっく・・・今頃気付くとは・・・我こそが正真正銘の魔王である!!」
(やはりか・・・魔王は姿形を変えられるのか・・・?)
「たしかに、この気配は魔王だな・・・見た目に騙されるとこだった」
勇者は今度こそ迷うこと無く、握っている聖剣を魔王に突き立てた。
「ならば話が早い・・・魔王・・・貴様は俺が倒す!!!」
「ふははは!!青二才が!!我を倒すだと・・・?片腹痛いわ!!!」
(いや、青二才はお前の方だろ)
『貴様』に続いて『青二才』呼ばわりされ、さすがに我慢出来ずに勇者の表情からは不快さが滲み出ている。
「我と戦いたければ、まずはそこの我の側近達と・・・」
「魔王様」
魔王が話し終わる前に案内人が口を挟んだ。
フードを深く被った案内人の表情を、勇者は見ることが出来ない。
「ここはひとつ、魔王様と勇者と一騎打ちをされてはいかがでしょうか?」
「ほう・・・面白い・・・勇者よ、我の力を目の当たりにして絶望に顔を歪ませるがいい!!!」
「いいだろう・・・俺もお前と1対1で戦いたいと思っていた所だ」
戦力にならない酔っ払い2人のせいで、1人で挑まなければならない勇者には、1対3はさすがに不利だと考えていた。
この提案は、勇者にとっても願ってもない事であった。
魔王は勇者の方へ歩み寄り、勇者は魔王の方へ歩み寄る。
そして一定の距離をとったところで立ち止まり、勇者はその手に持っていた聖剣を両手で握り、構えた。
(まずは・・・魔王との力比べといこうか・・・)
勇者は己の気を全身に満遍なく纏わせると、一気に解放し、周囲の空間を自分の気で支配した。
勇者から放たれる気に当てられた者は、ほとんどが体が金縛りの様な状態になる。中には正気を保てず、気を失ってしまう者もいる。
その効果は、弱者ほど強烈に作用し、強者ほど作用が弱まる。
しかし、戦いとは無縁で気を全く感じることが出来ない子供や女性などには一切効果は無い。
その見えない圧の存在から、この技は『プレッシャー』と呼ばれている。
そんな勇者に対して、魔王様は先程と変わらず挑発する様な笑みを浮かべ、余裕の表情を浮かべている。
(余裕だな・・・やはり魔王にこれは効かないか・・・)
「さすが魔王だな・・・」
勇者のプレッシャーが全く効かないという事は、勇者と互角、もしくはそれ以上の力を持っていると勇者は判断した。
まさか魔王が戦いとは無縁の気を読む事が出来ない人物とは更々思っていない。
「ん?お主なにかやったのか?」
「ふっ・・・白々しいな・・・勝負はこれからだ!!」
(魔王相手に魔法攻撃は不利だ・・・魔法は補助的に使用しながら、聖剣で叩き切るしかない!!!)
勇者はプレッシャーを解くと、意識をこれからの剣撃へと集中させる。
そして魔王を睨んだまま、これから自身が転移魔法で移動する座標を確認する。
足元へ魔力を集中させ、それを発動させた。
その瞬間、勇者は魔王のすぐ隣に転移した。
突然のことに、魔王は勇者が隣にいることにも気付いていない。
(もらった・・・!!!)
勇者は魔王様の首筋めがけて一直線に剣を振り抜いた。
しかし、そこにあるはずの手応えは全くない。
魔王はギリギリのところでその攻撃を交わしていた。
勇者はすぐさま魔王と間合いをつめると、今度は魔王の胸元に突きを放った。
が、それも魔王の服を僅かに切り裂いただけだった。
しかし床に倒れる状態になった魔王に勇者は剣を突き刺す。
ガキイッ・・・!
耳障りな音を響かせ、勇者の剣は地を突き刺した。
が、そこには誰もいない。
魔王は勇者の足元をすり抜けるようにしてその場から脱していた。
(!!なんて動きするんだ・・・!!)
相手は武器を持たない丸腰状態。
勇者の剣撃を受け止めることなく、身一つで躱している。
勇者は間合いをとると、自らに速度上昇、腕力上昇の補助魔法をかけた。
聖職者のニコが使用する補助魔法には到底及ばないが、一騎打ちとあれば、その力を借りる訳にはいかない。
一騎打ちでなくても今は本人が魔法を使える状態ではない訳だが。
勇者は再び魔王に斬りかかったが、やはりギリギリの所で躱されてしまった。
フェイントを入れたり、緩急つけてなんとか意表を突こうとするが、魔王の体にかすり傷ひとつ付けることは出来ない。
「ふはははは!!勇者よ!!お主の実力はそんなもんか?こんな攻撃、目を瞑っても避けれるわ!!」
(目を瞑ってだと・・・!!?まさか・・・自動回避・・・?そういう魔法を使っているというのか!?)
この世界に存在する魔法は、日々の研究により進化し、新しい魔法が次々と編み出されている。
無尽蔵の魔力を持ち、魔法に精通している魔王ならば、まだ人々が知らない魔法を数多く秘めていてもおかしくない。
「くっ・・・!魔王ってのは伊達じゃないってことか!」
(もしそうなら、この攻撃は無意味だ。無駄に体力を消費する前に次の手を考えねば・・・)
勇者は攻撃を止めると、魔王から距離をとった。
余裕の表情の魔王に比べて、勇者の額からは一筋の汗が流れ、息は僅かに上がっている。
「ふふ・・・ならば次はこちらから行くぞ」
魔王はそう言うと、右手の包帯を解き始めた。
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