第12話 魔王城のトイレ
城の中は長い廊下が続いており、いくつもの扉が並んでいた。
その廊下を走るニコを追いかけながら、勇者は思った。
(魔王達もトイレ行くのか・・・?)
勇者は魔王や魔族がトイレに座る様子を想像して、不覚にもニヤっとしてしまい、そんな自分の頬を両手で挟むように叩き、気を引き締めた。
すると、ニコは並んだ部屋の扉のひとつに迷いなく飛び込むと、鍵をかけた。
どうやら、トイレを見つけたらしい。
勇者は外でしばらく待ったが、なかなか出る気配がない。
(やはり罠だったか・・・?)
そう思った時、ジャーと水を流す音が聞こえてきた。
そして扉が開いた先には、宝石のようにキラキラと目を輝かかせながら、ニコが立っていた。
「すごいよ!なんかシャワーみたいなのが付いてるの!!」
ニコは興奮した様子で勇者に話しかけた。
「え、シャワー?」
「うん、なんか、ピューって出てきてね」
「え、なんでシャワーなんか付いてるんだ?」
勇者の問いに、ニコは少し恥ずかしそうにモジモジしだした。
「そ、それは・・・お、大きい方をした後に・・・お、お、お尻を洗うのよ!!」
「え、お前魔王城でウ〇コしたの?」
いつの間にか来ていたヤンが、ニコにデリカシーのない言葉を投げつけた。
「・・・してない」
「だってそれ、使ったんだろ?」
「使った」
「したろ?」
「してません」
「したんだろ?」
「してないってば」
ヤンはニヤニヤしながら笑いだした。
「ふっふふ・・・魔王との決戦前に・・・魔王城で・・・ウ〇コするって・・・ふっふふふふふ」
「してないってばぁぁ!!!」
「だっははははは!お前どんだけ強いメンタルしてんだよ!!!」
ヤンはツボに入ったらしく、涙を流しながら転がるように笑っている。
「だからしてないってば!!聖職者はウ〇コしないんですぅー!!」
(・・・え・・・なにこれ・・・・・・)
2人の幼稚すぎるレベルのやりとりを遠目で見ながら、勇者は1歩後ずさった。
(これも・・・女神様がおっしゃっていた世界の法則が変わった影響なのか・・・?)
ヤンとニコは未だにくだらないやりとりを楽しそうに続けている。
成人した大人がするような代物ではない。
(それもこれも魔王のせい・・・!!)
勇者の中で、魔王に対する怒りが更に膨れ上がるのを感じた・・・それと同時に、目の前の2人に対するイラつきと哀れさと恥ずかしさの感情が混じりあって今にも・・・
「いい加減にしやがれお前らああああぁぁぁぁ!!!!」
勇者は再びキレた。
今日まで1度もキレたことが無かった男が本日2度目のブチ切れだ。
「さっきから聞いてればウ〇コウ〇コ連呼しやがって!!!!ガキじゃねえんだからクソくだらねえ事でヒートアップしてんじゃねえええええ!!!!クソどもがああああ!!!お前らがウ〇コみたいなもんじゃねえか!!!!」
そしてヤンの胸ぐらをガシッと掴みあげ、
「ウ〇コくらい誰でもする生理現象だろが!!それをしたからって問題ねえだろがああああ?お前はウ〇コしねえのか!?ああ!!?」
ヤンは勇者に揺さぶられながら答えた。
「し、します・・・」
「んじゃ人のウ〇コにいちいちつっかかってんじゃねーよ!!」
そして勇者はヤンを掴んだままの状態で、今度はニコをギロっと睨んだ。
「お前はウ〇コをしないのか?」
勇者は真剣な顔でニコに問いかけた。
「え、えっと・・・」
「お前はウ〇コをしないのかと聞いてるんだ」
「あ・・・えっと・・・すると思います・・・はい」
「じゃあいちいちお前も恥ずかしがってんじゃねえよ・・・堂々とウ〇コしたって言えばいいだろ?」
「は・・・はい・・・・・・し、しました」
そんな3人のやりとりを、影から見ている人物がいた。
千鳥足でよろよろとついてきていたカイである。
そんなカイの目からは涙が再び溢れだしている。
「うっ・・・うううう・・・」
そしてユラユラと勇者の方へ歩き出していく。
勇者はその声にギョッとして振り返る。
「うっうう・・・すまん・・・すまんよぉ・・・俺のせいだぁ」
カイはもう勇者のすぐ近くまで迫っていた。
嫌な予感がして勇者は後ずさる。
「カイ・・・ちょっと待て・・・」
しかし、カイは歩くスピードを弱めない。
確実に勇者との距離を詰めていく。
「お、俺が・・・俺が誰よりも先にここでウ〇コをしていたら・・・こんな事にならなかったんだよなぁ・・・」
「いや、そういう問題でも・・・ってか、こっちくんな」
「俺ぁもう酒場でウ〇コしてしまってるんだよぉ」
「その報告はいらない」
カイはその歩みをやめようとしない。むしろだんだん早くなり、跳びつくようにして勇者に抱きついた。
「お、おい!!!・・・・・・こ、こんの馬鹿力がああああ!!」
勇者はカイを引き離そうと、必死に抵抗するが全く微動だにせず勇者をホールドしている。
「勇者よおおおおおおおおん!ほんとにほんっっとにごめんよおおおおおおおおん!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおろろろろろろろろろろ」
再び勇者のマントに重い衝撃が走った。
カイは全てを解き放つと、勇者からずり落ちるようにして床に転がり、大の字になるといびきをかいて寝始めた。
「天丼キタァァァァ━(゜∀゜)━!」
2人のやりとりを見て、ヤンとニコは歓声をあげ、ゲラゲラと笑っている。
(・・・こいつら全員いっそのことここで消し炭みにしてやろうか・・・)
勇者の顔から表情は消え、握りしめた手は爪が手のひらにくい込み、血が滴り落ちていた。
闇堕ちしそうな精神状態の中、女神の言葉が唯一彼を支えていた。
(いや・・・耐えろ・・・こいつらはただ・・・魔王のせいで正気を失っているだけだ・・・)
勇者はマントを脱ぎ捨て、再び自らの手で炎を放った。それが燃え尽きようとしているのを眺めながら、勇者は鼻で笑った。
「ふっ・・・魔王との決戦を目前にお腹は空腹、防御力は半減ってか・・・この深刻さ・・・お前ら分かっているのか・・・?」
「「ご、ごめんなさい・・・」」
ニコとヤンは勇者から放たれている殺気を感じ、笑うのをやめて顔を上げられないまま謝罪した。
勇者は寝ていたカイを先程のトイレの便座に突っ込むと、後ろに控えていた2人に告げた。
「お前ら・・・今後一切の発言とキチガイな行動は許さん・・・」
2人は酔いによるハイテンションのピークからは脱し、今度はテンションがダダ落ちモードに陥っていた。
「これからこの城で出会う敵は俺が全て片付ける・・・お前らは魔王との戦いに備えて、一刻も早く酔いを覚ますことだけ考えろ」
「「はい・・・」」
勇者はそう言うと、アイテムバッグの中から今度は年季の入った古びたマントを取り出した。
それは勇者が意を決して故郷から旅立った時に、母親がプレゼントしてくれたマントであり、母親の形見でもあった。
新しい装備が手に入った後も、大事にとっていたそれを勇者は10年振りに身にまとった。所々、布は擦り切れ、魔物との戦いの最中に切り裂かれた箇所もあり、ボロボロになったそれには、すでに防御力というものは無く、むしろ邪魔なのではと疑問に思うほどである。
この時の勇者はまだ知らなかった・・・
この城で一番最初にエンカウントするのが魔王本人である事に・・・
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