第11話 いざ魔王城へ

「女神様!!!」


勇者は女神の姿を見つけると、その前まで駆け寄った。


「勇者、お久しぶりです」


女神は勇者に優しく微笑み返した。


「女神様・・・数日前、突然魔王の気配が消えました・・・しかし先程、突然魔王の気配が復活しました!!これは一体何が起きてるんでしょうか!?あと私の仲間が何やらおかしい気がするんですが・・・いや、ただの酔っぱらいだからなのかもしれませんが・・・」


勇者は女神に聞きたい事がありすぎて、畳み掛けるように疑問を投げかけた。


「今、この世界には大きな変化が起きています」

「お、大きな変化・・・?どういうことですか!?」

「あなたの仲間達も、この世界の変化に影響を受けているのです」


(世界の変化に巻き込まれている・・・?じゃあ、あれは本人達の意思で行動してた訳ではないのか?)


女神の言葉を聞き、勇者は先程仲間達にブチ切れてしまった事を後悔した。


「それは・・・魔王の復活と何か関わりがあるのでしょうか?」

「・・・たしかに、魔王が関わっている・・・魔王のせい・・・うん、確かにそれはあるかもしれないわね・・・」


厨二病が魔王になったために、ジャンル変更した訳なので、魔王のせいというのはあながち間違ってはない。


「ならば・・・!魔王を倒せば、この世界は・・・仲間は元に戻るのですか!?」

「・・・残念ながら、魔王を倒してもこの世界は元には戻りません」

「な・・・そんな!?」

「仲間は・・・まあ、酔いが覚めれば多少はマシになると思います・・・多少は・・・」

「は・・・はぁ・・・」


女神は納得いかない表情の勇者に続けて言った。


「勇者、この世界は先程法則を変えたのです。それは、ここに住む人々の思考や言動にも次第に影響を及ぼしていきます。貴方の仲間は、お酒の影響もあって、世界の法則にすぐ適応してしまい、その結果があのザマです。・・・しかし勇者・・・貴方の持つ耐性スキルは、世界の法則すら無力化するほどの強力な耐性なのです。貴方はこの世界でこれから起きるちょっとおかしな出来事や、おかしな連中達と、正常な精神で関わっていかなければいけない・・・・・・それはほんとに苦行のような時間だけれど・・・」


勇者は目をぱちくりしながら女神の言葉を聞いている。

おそらく、その内容はあまりよく分かってはいないだろう。


「勇者・・・あなたならこの試練をなんとか乗り切れると信じています。自分の力を信じなさい」

「わ、分かりました・・・!!」


女神はその勇者の力強い返事を聞くと、少しホッとしたように笑う。


「それより女神様!お体は大丈夫なのですか!?魔王城近くは確か体に毒で来れないはずでは・・・?」

「あ・・・」


女神は一瞬しまった・・・という表情を浮かべるが、すぐにキリッと表情を変えた。


「城の結界が破れた事で、少しはここの空気もマシになったのです」

「!!でしたら、女神様、このような事を頼むのは大変心苦しいのですが・・・どうか・・・どうか仲間の酔いを女神様のお力で覚まさせてもらえないでしょうか?」


勇者は不本意ながらも、仲間の酔っぱらいを女神に直させるという、失礼極まりないお願いをした。


「それは・・・出来ません・・・」

「そ、そんな!!?」


もちろん、女神ならば酔っぱらいを正気に戻すくらい朝飯前である。

しかし、ただの厨二病と役に立たない魔王の側近相手に、勇者の仲間が戦えないというのは好都合であった。

むしろ、この世界において、勇者が酔っぱらいの仲間達を引き連れて魔王城へ乗り込むというおいしい展開をここで終わらせる訳にはいかない。というのが女神の本音である。


「うっ・・・そろそろ限界のようです・・・」

「女神様!!大丈夫ですか!?」

「私は帰りますが、貴方はどうか、自分の使命を全うしてください・・・天界より見守っていますよ・・・」


すると、女神は勇者の肩をガシッと掴んでその目を真っ直ぐに見つめて話し始めた。


「あなたはこの魔王城で、衝撃的な事実に直面します。そして貴方は選択を迫られます。それは貴方にとって辛く苦しい選択になるでしょう。しかし勇者よ。いつなんどきも、自らを犠牲にしてまでも弱き者を助けてきた貴方なら・・・正しい道を選ぶことが出来るでしょう。では・・・」


そして女神はスっと消えるようにしていなくなった。


(限界・・・て言った割に、最後すごい話してたな・・・)


勇者は女神の言葉を思い出しながら、この先に一体どんな過酷な運命が待ち受けているのだろうと、身震いした。


(女神様・・・たとえこの命尽きようとも、俺は後悔は致しません・・・)


そう心に違うと、勇者は多くの持ち物を収納出来るアイテムバッグから、新しいマントを取り出した。

防御力は劣るが、こちらは先程失ったマントを手に入れるまで使用していた物だ。それなりに良いものである。


(仲間達の様子がおかしいのは世界の法則がどうとか言ってたが・・・とりあえず、まずは合流して様子を見るか・・・)


勇者は再び仲間たちの元へと駆け出した。



「おー!勇者!!どこ行ってたんだよ?」


勇者が戻るなり、ヤンが不機嫌そうに絡んできた。


「すまない!今ちょっと女神様と会ってて・・・」

「いや、うそつくなし」

「・・・は?」

「女神様がここにいるはずないだろ?」

ヤンがムッと険しい表情になり、勇者につっかかっている。

「いや、いたよ」

思わず勇者がヤンに身を乗り出す。

「いないよ」

ヤンも1歩前へ出て勇者に近づく。

「いたって言ってるだろ」

勇者も1歩前へ。

「いねえっつってんだろ」

ヤンもだんだんと勇者へ近づく。

「いたよ」

「いないよ」

近づく2人の距離。

「いた」

「いない」

「い・・・」


そしてヤンがヤンがおもむろに目を閉じ、んーと口をすぼめ、それが勇者の口に当たろうとした瞬間に、勇者の右ストレートがヤンの頬を貫いた。

それは勇者の直感が働いた、身を守る行為の攻撃であった。


「おい・・・今のなんだ・・・」


再び勇者に怒りの炎が滲み出てくる。


「ゆうしゃああああ!!」


突然ニコから呼ばれ、とっさに振り向く勇者。


そこには、今にも零れ落ちそうなほど涙を目に浮かべながら、フルフルと子犬の様に震えるニコの姿がいた。


「ど、どうしたニコ?」


その様子を見て冷静さを取り戻した勇者は心配そうにニコの肩に手をそえる。


「と・・・と・・・」

「と・・・?」

「トイレ行きたい!」

「と、トイレ!?」


野宿の多い旅の中で、草木に隠れて用を足す事は少なくない。しかし、ニコは今までに1度も「トイレに行きたい」とか「トイレに行ってくる」など言った事は無い。恐らく、他のメンバーが気付かない隙を狙って可及的速やかに事を済ませているのだろうが、あまりにもその気配が無いことから、「ニコは排泄行為をしないのでは」という仮説まで仲間内で広がったほどである。

そんなニコが今、声を大にしてトイレを叫んでいる。

その光景を勇者は受け入れられずにいた。


「も、もう我慢できないいぃ!!」

ニコは勇者の手を払い除けると、魔王城の前まで駆けつけた。


「ごめんなさい!ちょっとトイレ借りさせてくださーい!!」


ニコは魔王城へ向かって叫ぶと、ダッシュでその城の中に入っていった。

その様子を見て、勇者はハッと我に返った。


「お、おい!他人ん家にトイレ借りる感じで魔王城に入るんじゃなーい!!!」


勇者はそんなニコの後を追いかける。


そしてその後ろを魔法の杖で体を支えるようにして歩くヤンと、千鳥足でそれに着いていくカイの姿があった。


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