第6話 魔王vs勇者②
包帯を解いたその右手には、黒い痣の様な模様が広範囲にわたり描かれていた。
その模様は所々薄くなったり消えたりしている。
「描いたやつが汗で所々消えてますね」
「あ、描いたやつなんだ」
もはやそんな事には驚かない。
・・・で?
これから一体何が始まるというのだろうか・・・
「くっくっく・・・久々にお前を解放してやるぞ。さあ・・・思う存分暴れるが良い!!」
魔王様は左手で右手を支えるようにして、開いた右の手のひらを勇者に向けている。
「おおおおおおおおおお!!!!」
魔王様の叫び声に反応するかのように、右手はフルフルと震えてはいるが、特に何か出る気配も何も無い。
勇者はそんな魔王を見ながら、何が起こるのか分からず魔力を使って防御壁を作り、これから来るであろう攻撃に備えている。
「封印を解放する!いでよ・・・
魔王様の叫んだ言葉が私達の空間の中で反響した。
・・・・・・・・・
右手を突き出し、真剣な表情のまま動かない魔王様。
防御壁を出したまま固まってる勇者。
それを見守る私と女。
・・・・・・・・・
その沈黙に耐えきれず、私は口を開いた。
「な・・・なにが起こっているんだ・・・」
「何も起こっていません」
分かってる・・・それは分かってるんだ・・・!
「魔王様の中では一体なにが起こっているんだ!!?」
「知りませんし知りたくもありません」
先程、魔王様は邪神龍の封印を解放すると言っていた。
つまり、魔王様の右手にはその邪神龍とやらが封印されており、それを今解放したわけで、その邪神龍が暴れている・・・ということ・・・?
魔王様は右手を勇者に突き出したまま、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
ちょっと本気で病院へ連れて行くべきかもしれない・・・
しかし、その表情は次第に歪んでゆく。
「くっ!!これ以上は我の身が持たないな!!」
魔王様!それ以上にこの間が持ちません!!
魔王様は突き出していた右手をグッと握ると、床に落ちていた包帯を拾い上げ、慣れた手つきで右手を巻き付けた。
その様子をポカンと口を開けて見ていた勇者だが、ハッとなり表情筋を取り戻す。
「・・・一体、なにをしたんだ?」
勇者よ・・・よくぞ聞いてくれた。
魔王様の方を見ると、ハァハァと息を切らし、包帯を巻き終わった右腕を支えている。
勇者の言葉に苦痛な表情を浮かべつつも、ニヤリと笑った。
「くっくっくっく・・・勇者よ・・・お前には見えなかったか・・・?我の右手に封じられた邪神龍の姿が・・・」
「み、見えなかった・・・」
安心しろ勇者。
魔王様以外誰も見えていない。てか、何も出てきていないし、何も起こっていない。
「今の邪神龍の攻撃はただの攻撃ではない。貴様の精神に直接攻撃を仕掛けていたのだ。貴様は間もなく精神から病んでいき、絶望に顔を歪ませ、苦しみながら死に絶えるであろう・・・」
「・・・な、なんだと!?」
な・・・そんな攻撃を!?
「してません」
していない!!
間髪入れずに飛んできた女のツッコミに、危うく魔王様の言葉を信じそうになった自分に気付く。
しかしそんな事情を知らない勇者の表情は焦りへと変わった。
「今は何も感じはしないだろう。だが、確実にお前は死ぬだろう・・・いや、もうすでに死んでいると言っていても過言ではない!!!」
魔王様のその自信は一体どこから来るのだろうか・・・
確実に死ぬのは魔王様なのに!!
魔王様こそもう死んでいると言っても過言ではない!!
でも安心してください、私も後をついて逝きますから・・・
なんだろう・・・さっきまで憎くて仕方なかった相手なのに・・・なんだかだんだん尊い存在に思えてきた。
「あなたの中でも、彼が魔王である事実が順応してきたようですね」
な・・・!!?
かつての魔王様のように、私が新たな魔王様を心の底から愛する事になると言うのか!!?
そんな事・・・前の魔王様に対する冒涜ではないか!!
そんな事・・・そんな事させんぞおおおお!!
私は新たな魔王様に芽生え始めていた気持ちを必死に封じようとしたが、勇者の発した言葉で我に返った。
「くそっ・・・俺に残された時間は少ない、ということか・・・ならば一気にカタを付けるしかないな!!」
まずい、勇者が本気になってしまった!
勇者はボソボソと何やら詠唱を始めると、足元に魔法陣が浮き上がり、目映い光に照らされている。
これは魔法!!魔法攻撃は避けられないはず!!
大丈夫なのか!?
私は隣の女に目をやるが、特に慌てている様子は見られない。
勇者は両手を前に掲げ、両手のひらを魔王様に向ける。
その先に光が集まり、魔王様へと放たれ、魔王様の体に直撃する。
やはり魔法は避けられないのか!!
しかし、直撃したハズの光は魔王様の体の中に入るように消えていった。
当の本人も、自分の中に消えた光に首をかしげ、ペタペタと自分の体を触り、変化がないか確かめている。
しばらくして、フっと鼻で笑い、
「なんだ今の攻撃は?我には全く通用していないぞ!」
魔王様は仰け反るようにふんぞり返ると、声高らかに勇者に告げた。
勇者は驚愕の表情を浮かべたまま、再び固まっている。
「どうゆうことだ・・・?」
私は目の前で起きた出来事を理解出来ず、隣の解説者に話を聞くことにした。
「誰が解説者ですか」
女は不満そうにそう言いながらも、解説を始めてくれた。
「今勇者が放った攻撃は、相手の体内の魔力を無理やり暴走させ、相手の魔力の制御を奪い、体の内部からダメージを与える、という攻撃でした。膨大な魔力を所持していた以前の魔王なら、致命的なダメージとなるでしょうが、彼は魔力を全く持っていないので、無傷です」
・・・まじか。
勇者は信じられないといった表情で魔王様を見つめている。
そして何やらブツブツと呟いている・・・
勇者ならば、相手の魔力の強さを感知する事が出来るはず・・・
今の攻撃で、魔王様に魔力が無いことに気づきはじめたのではないか?
やがて、勇者は口を開いた。
「お前、本当に魔王か?」
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