第5話 魔王vs勇者①

・・・え、この女何を言い出すの?大丈夫か・・・?

この人戦えないんじゃないの?

っていうか、さっきこの人殺しちゃダメって言ってたよね?

大丈夫?死んじゃわない?


ま、まあ、私が戦わずに済むのは物凄く有難いのだが・・・


「ほう・・・面白い・・・勇者よ、我の力を目の当たりにして絶望に顔を歪ませるがいい!!!」

「いいだろう・・・俺もお前と1対1で戦いたいと思っていた所だ」


魔王は勇者の方へ歩み寄り、勇者は魔王の方へ歩み寄る。

そして一定の距離をとったところで立ち止まり、勇者はその手に持っていた聖剣を両手で握り、構えた。


そしてその瞬間、場の空気がピリッと緊張感に包まれていく。

直接対面している訳でない私だが、この空間の空気が無くなってしまったかと思うほどの息苦しさを感じていた。


これは・・・・・・勇者のプレッシャー!!


そして勇者から溢れ出る膨大な量の魔力・・・

こいつ・・・やはり正真正銘の勇者だ!


もしかしたら勇者もまがい物が来るかもしれないと僅かに期待してみたけど、その可能性は無惨にも掻き消されてしまった・・・


そんな勇者に対して、魔王様は先程と変わらず挑発する様な笑みを浮かべ、余裕の表情だ。

この男・・・このプレッシャーの中で平気なのか!?

勇者から発せられるプレッシャーは、相手との力量差次第で、効果が変わる。

勇者との力の差が、あればあるほど、体は自由に動かなくなる。息をするのがやっとな私の様に・・・

しかし、私もこれでも魔王の側近魔族である。

これがもっと弱い者ならば、意識を保つ事も出来ないだろう。

そんな中、余裕な笑みを浮かべているコイツは只者ではないはずだ・・・!


「彼の場合、勇者のプレッシャーを感じるほどの能力はありませんよ」

「え・・・?」

「空気読めない人間なんで」

「え、そういうもんなの?」


たしかに、このプレッシャーは、全く力を持っていない無害な子供や女性には効果はない。

この男、無害なの・・・?

魔王なのに・・・?


「さすが魔王だな・・・」


そんな事情を知らない勇者は、目の前の魔王を実力のある者と認めてしまったようだ。


「ん?お主なにかやったのか?」

「ふっ・・・白々しいな・・・勝負はこれからだ!!」


勇者よ・・・魔王様はほんとに何も分かっていないぞ・・・


しばらくの硬直状態・・・その沈黙を破ったのは勇者の方だった。


少し屈んだかと思った瞬間、その姿は消え、次の瞬間魔王様の横に現れる。

勇者の足元の空間が僅かに揺らいでいるのは、魔力の作用によるものであろうか。

魔王様の首筋めがけて勇者の剣が振り抜かれる。


やられたーーーー!?


魔王様の体と強制的に引き離された頭部が宙を舞う・・・・・・という私の予想に反して、魔王様の頭部はご健在であった。

魔王様はよろめくようにして勇者の攻撃をギリギリのところで交わしていた。


しかし交わされることを想定していたかのように、勇者も変わらぬ速さで間合いをつめ、2撃目、魔王様の胸元めがけて突きを放つ。

しかしそれも魔王様は勢い良く後ろに倒れ、再び直撃を免れ、魔王様の服が僅かに切り裂かれただけだった。

勇者はすぐに剣を逆手持ちに変え、地に仰向けになった状態の魔王様に突き刺す。


ガキイッ・・・!


耳障りな音を響かせ、勇者の剣は地を突き刺した。

が、そこには誰もいない。


一体何が起きたんだ・・・?


「攻撃が来る直前に勇者の足元からすり抜けて回避しました」


・・・・・・はい?


2度の勇者の攻撃を交わしたのは、ミラクルな偶然が起きたのだと思っていたのだが・・・さすがにあの3撃目の回避は偶然では無理だ。

しかも、魔王様の動きが早すぎて全く目で追えていなかった。


その後も幾度となく繰り広げられる勇者の攻撃を、驚異的な身のこなしでやり過ごしている。


何だこの男・・・強いじゃないか!!!

あの勇者とこれだけ互角に渡り合えるなんて・・・!

この女が魔王様には何の力も無い、とか言うからつい動揺してしまったが、このまま魔王様に任せていれば何とかなるんじゃないか?


「彼は『物理的ダメージ自動回避』というスキルを持っているため、物理的な攻撃を彼の意志とは関係無く、自動で避ける事が出来ます」


な・・・!!すごい能力じゃないか・・・!!

自動で勇者の攻撃避ける事出来るなんて!!

これはもしかすると・・・魔王様が勝て・・・


「しかし、魔法攻撃は無理です。直撃です」


・・・勝てないぃぃ!!!!


「な、なにか他のスキルは無いのか!!?」

「ありません」


なんてこった・・・・・・

私は再びガクリと膝を付き、手を地に付けた・・・

勇者と魔王は今も尚、剣の攻防が続いている。

魔法を使われていないのが奇跡である。

しかしそれも時間の問題だろう・・・。


「てか、なんで『物理的ダメージ自動回避』なんてスキルを持ってるんだ?あの魔王様にはなんの力もないはずだろ?」


なんの力もない男が、なぜそんな高度なスキルを持っているのか不思議でたまらない。


「彼の世界は、他の世界に比べて非常に過酷な環境なのです。ある少女が地面をパンチしただけで、地が真っ二つに分断されてしまったり、ツッコミで入れた一撃をくらった相手が世界一周するほど飛ばされたり、突然謎の生命体がやってきて、街を消し飛ばしたり・・・なんでもない日常の中に、ありとあらゆる危険が付き纏っているのです」


・・・え、なにそれ怖い。

全然なんでもない日常じゃないぞ・・・


「何の前触れもなく地面が割れたり、突然人が飛ばされて来たり、街が吹き飛ばされたりする・・・どれも世界を面白くするために起きた出来事ですが、そのために世界の住人達が犠牲になっては笑えません。なので、そういう事態から身を守る術を生まれつき持っているのです」


・・・色々ツッコミたい事はあるが・・・

とりあえずさっき言ってた死ぬのは御法度・・・てやつが魔王様の世界でもそうだったわけか。

さっき言ってた、面白くなければ消滅とかそういう世界なのか・・・?


「彼のように危険から回避する能力に特化している者もいれば、体がやたら丈夫な防御型、どんな重症を負ってもすぐ治る回復型など、そうやって皆さん自力でその世界を生き抜いているのです。ちなみに、スキルはオート発動なので、彼自身は何もしていません」


まじか・・・

その世界の住人最強じゃないか・・・?


「ふはははは!!勇者よ!!お主の実力はそんなもんか?こんな攻撃、目を瞑っても避けれるわ!!」


そりゃ魔王様何もしてないから・・・


「くっ・・・!魔王ってのは伊達じゃないってことか!」


いや、伊達で合ってるぞ!

伊達以外の何物でもない!!

・・・・・・伊達ってなんだ!?


ようやく勇者は攻撃を止めると、距離をとった。

結局、勇者の攻撃は魔王様に傷1つ付けていない。

余裕の表情の魔王に比べて、勇者の額からは一筋の汗が流れ、僅かに息が上がっていた。


「ふふ・・・ならば次はこちらから行くぞ」


魔王様はそう言うと、右手の包帯を解き始めた。

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