第4話 勇者到着

ゆっくり後ろを振り返ると、1人の男が立っていた。


若葉色の短髪の爽やかな風貌の青年。

所々擦り切れている年季の入ったマントを纏い、腰に帯びた剣からは、忌々しい聖なる力を感じられる・・・

それは、その剣が聖剣である事実を伝えている。


・・・やはり勇者!!

もうここへたどり着いてしまったのか!!


その後ろにはさらに2人の男女・・・服装からして聖職者の女と魔導師の男といったところだろうか。


あれ?勇者はたしか4人パーティだったはずだが・・・もう1人はどこにいるのだ・・・?

まさか作戦で何処かに隠れているのかもしれない。

警戒するに越したことは無いが・・・

どっちにしろピンチなのには変わりはない。


「俺は勇者。魔王の居場所を教えてもらおうか」


そう言うと、勇者は私達の方に歩み寄りながら、腰に帯びていた剣をゆっくり引き抜いた。


・・・!!

勇者はまだこの男が魔王様だと気付いていない!?


私は勇者を刺激しないように、魔王様に素早くさりげなく近づき、耳打ちをする。


「魔王様・・・とりあえず今のままで勇者と戦うのは危険です。どうか名乗らずに、勇者を下手に刺激せずに、適当な場所を教えてここは一旦引きましょう・・・」

「ふむ・・・」


すると、魔王様は勇者の方へ1歩前へ出るとニヤリと挑発するような笑みを浮かべた。


・・・魔王様?


「ふっ・・・貴様が勇者か!!」


私の話聞いてました・・・?


「残念ながら、彼は人の話をほとんど聞きません」


呆気に取られている私の隣で、女は動じることなく語っている。


「ついでに、空気も読めません」


・・・くそ!!

ここまで来たら、魔王様が名乗るのも時間の問題だろう。


「勇者よ、我の優秀な配下達を倒し、ここまで来れた事は褒めてやろう!」

「・・・いや、ここまで誰とも遭遇しなかったが・・・?女神様の加護のおかげか・・・?」


勇者は不思議そうな顔をしているが、それもそのはずである。


私は魔王様の所へ駆け寄り、小声で話しかけた。


「魔王様・・・この城にはもともと私達以外誰もいないのですよ・・・」

「ふっ・・・勇者を恐れて逃げ出したってとこか・・・我の配下もまだまだよのう・・・」

「いや、そうでなくて・・・最初から誰も・・・」

「まあ良い!!勇者の相手など我らだけで十分である!!」


こいつホントに人の話聞かねーな!!!


ってか、いやいやいやいや、無理無理・・・!!

私と魔王様100人ずつ居たとしても1ミリも勝てませんてええええぇぇ!!


そんな私と魔王様のやりとりを見ていた勇者は、何やら不思議そうな顔をしている。


「・・・ちょっと待て。お前・・・もしかして魔王か・・・?」


ギクリ・・・


「ち・・・ちが・・・」


私は必死に「違います」と言おうとしているが、その言葉はどうしても口から出てこない。

恐らく『魔王様の存在を否定してはいけない』という契約の縛りのせいだろう。


「くっくっく・・・今頃気付くとは・・・」


いや、誰もこの男を見て魔王とは思いもよらないだろう・・・


「我こそが正真正銘の魔王である!!」


魔王様は両手を広げ、声高々に叫んだ。


ああ・・・ついに宣言してしまった・・・

私は顔を手で覆い、ガクりとうなだれた。


それにしても、全く力を持っていないはずのこの男の清々しい程の自信は一体どこから来るのだ・・・?


「たしかに、この気配は魔王だな・・・見た目に騙されるとこだった」


あ・・・勇者も魔王様の気配察知出来るんだったか・・・

どっちにしろ、遅かれ早かれ気付かれていたということか・・・

変な期待を抱かせないで欲しい・・・


「ならば話が早い・・・魔王・・・貴様は俺が倒す!!!」

「ふははは!!青二才が!!我を倒すだと・・・?片腹痛いわ!!!」


どう見ても青二才はお前の方だわ!!

頼むからこれ以上勇者を挑発しないでくれ!!


私はちらりと勇者の様子を伺うと、何やら怪訝そうな面持ちである。

やはりなんか怒ってる・・・絶対怒ってる・・・!


「我と戦いたければ、まずはそこの我の側近達と・・・」


は・・・・・・!!?


いやいやいや待って待って待って・・・

お願いだから私を戦力に加えないでくれ!

すでに私の足はガクガクと震えだし、立っているのがやっとである。


「魔王様」


魔王様が最後まで言い終える前に、女が口を挟んだ。


「ここはひとつ、魔王様と勇者と一騎打ちをされてはいかがでしょうか?」


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