第2話 帰ってきた魔王様?
・・・!!この気配は!!!
不意に察知したその気配に、私はすぐに何が起きたかを悟った。
長い間、留守にしていた魔王様がついに帰って来られた!
私は探索に出掛けていた洞窟から転送魔法を使い、魔王城へと帰還した。魔王城周辺は常に暗雲が立ち込めており、雲に隠れた月明かりがその姿を僅かに照らしている。
城へ到着すると、その気配がより強く感じられる魔王様の部屋へと足早に向かう。
城の中では走らない、私と魔王様で決めたルールである。
魔王様の側近魔族は私1人しかいない。
よって、事実上、魔王城を住処にしているのは私と魔王様のみである。
魔王城の外には魔王様が生み出した魔物達が放たれ、地上に徘徊する薄汚い人間どもを抑制している。
あいつらは野放しにしておくと、すぐに我が物顔で領土に侵入し、勝手に所有物と化してしまう。
魔王様の領地に侵入しようものなら容赦はせん。
魔王様の生み出した魔物達は、魔王城に近づく程、より力が増す。さらに、城の周囲には魔王様の作り出した結界が張られており、魔王城までたどり着いた人間は今まで一人もいない。
しかし、最近勇者一行の力が急速に強まっているらしい。
聖剣を手に入れ、各地の精霊や、この世界の女神の加護までもらい、そろそろ魔物達だけでは手に負えない程にまで力を手にしている。
この魔王城へ勇者達が来るのも時間の問題かもしれない。
なので数日前、急に魔王様の気配が消えた時は正直どうしようかと思った。
私が魔王様不在のタイミングで城を空けていたのも、勇者をビビって・・・というわけでは決してない。
あくまでも仕事の一環である。
しかし、我らの魔王様が戻って来たとあれば、もう心配などいらない!
なぜならば、魔王様の力は無敵であり、いくら力を付けた勇者とて、足元にも及ばないのだから!!
側近が私1人しかいないのも、魔王様の力があれば側近など本当は不要だからである。
魔王様がその魔王の名を受け継いだ時、側近として選んだ魔族は私一人であった。
同族の魔族達とも馴れ合う事を嫌った魔王様は、私を唯一傍に置く魔族として選んでくださったのだ。
しかし、私は実はあまり強くはない。
戦闘能力はそんなに高くないが、魔力を繊細に操り、物を操作したり、無い物を作り出す能力に関しては他の魔族に比べて飛び抜けていた。
魔王城や、魔王城を覆い隠すように生えている木々などの植物も、私の魔力により作り出した物である。
地上の事は魔物達に任せ、私は各所の様子を監視し、気になる動きがあれば、魔王様に報告し、魔王様の要望があれば必要な物を作り出す、それが主な仕事である。
そのため、私はここ数年、戦いという戦いをしていないので、勇者の仲間にすら太刀打ちできるか、ちょっと自信がない。
パキイイイインン・・・・・・!
・・・!!
頭の中に何かが割れるような音が響き、一瞬通り風が横切った。
これは・・・ついに結界が破られた!!!
勇者達が魔王城に来たのか!?
確かに、魔王様不在の間に、魔王城の結界の力は少しずつ弱まっていたが・・・
ついに勇者達がここに来る!
魔王様に知らせなければ!!!
私は魔王様と決めた『廊下は走らない』ルールを破り、全速力で魔王様の部屋へ向かった。
くそっ!2人しか住んでない城なのに、なんでこんなに大きく作ってしまったんだ・・・!!!
つい魔王様に褒められたくてどデカい魔王城を建ててしまった事を、私はこの日初めて後悔した。
「八ァ、ハァ・・・ま、魔王様!!ハァッ侵入者でございます!ハァッハァッけ、結界が破られました!」
すっかり息が上がってしまった私は、魔王様のお部屋の前で必死に呼びかけた。
ガチャ・・・・・・
その扉がゆっくりと開き、その隙間からスっと足が伸びる。
ああ・・・魔王様・・・お会いしたかったです・・・
数日ぶりのはずが、もう何年もお会いしていなかった様に思えます・・・
こ、これは・・・!!
久しぶりの魔王様のお部屋の香り・・・!!
ハアッ・・・ハァッ・・・ハァッ!!
整い始めていた呼吸が再び速度を上げ始めた。
息切れなのか、単なる興奮からくるそれなのかは分からないが、高揚感に包まれた私は、そのお姿を1秒でも早く見ようと、顔を上げた。
漆黒のローブの裾が揺れ、私より少し低い背丈の男が現れる。
顔は俯いたままで、その表情を伺うことは出来ない。
ああ・・・私の魔王様・・・
この数日で背が縮んでしまったのですか・・・
ちゃんと食事は摂られていたのですか?
今日は私が腕をふるって魔王様のお好きな食事を全てお作りしましょう!!
なんなら今からひと狩りいき・・・
魔王様はゆっくりとそのお顔をあげ、私の存在に気付き目をこちらに向ける。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・え?
・・・・・・・・・・・・・・・誰?
私の魔王様はこんなに髪が短くないし、黒くない。
目の色も耳の形も顔も違う、瞬きの速度も違うし匂いもなんか違う。
というか、顔付きが全然違う。なんだか若返っているし・・・
・・・はっ!!いや、もしかしたらイメチェンを行ったのかも・・・
突然の失踪も何か魔王様なりに思う所があったのかもしれない。
しかし・・・
いつも魔王様から溢れ出ている莫大な量の魔力・・・
それが、この男からは少しも感じられない。
いや、微塵も、1ミリも感じられない。
この男・・・魔力を全く持っていないのでは・・・?
やはり私の魔王様では無い!!
誰だこいつは!?
私は目の前の見知らぬ男を睨みつけようとするが、目に力が入らない。
魔王様では無い・・・魔王様では無いはずなのに・・・
この気配は間違いなく魔王様だ。
魔王様の側近となる魔族は、魔王様への絶対服従を誓い、主従契約を結ぶことになっている。
魔王様への無礼な態度、裏切り行為、魔王様の存在を否定する言動等は全てこの契約により行えなくなる。
まあ、そんなの無くても、私が魔王様を裏切ったり無礼な行いなど、ましてや存在を否定するなんて女神に誓っても無いのだが、そういうルールなので契約は結んでいる。
契約を結ぶと、魔王様の気配がいつでも分かるようになり、その存在を常に感じる事が出来る。
どこに居ようが、居場所を特定する事が可能なため、暇な時は魔王様の居場所を逐一チェックしては、行動パターンを把握していた。
もちろん、これは不測の事態に備えての重要な確認事項である。
なので、この世界から魔王様の気配が完全に消えてしまった時は、異世界にでも行ってしまわれたのかと思った。
私に何処か至らない点があったのか・・・
私の魔王様への愛はまだ足りなかったのかと・・・!!
それならそうと言ってくだされば、魔王様への愛を一晩でも二晩でも語り尽くしましたのに!!
証明せよと言われれば、今まで取り貯めていた魔王様の抜け毛や、洗濯すると言って預かった使用済みローブや爪切りで切った爪などの魔王様コレクションを提示して見せましたのに・・・!
そんなことをここ数日思いながら枕を涙で濡らしていた訳だが・・・
しかし、魔王様は帰ってきた!!!私の元へ!!!
魔王様の気配だけ!!
魔王様だけど魔王様じゃないけど!!
一体どういうことだ!!?
「もう・・・無理・・・キモすぎるんだけど・・・」
突然背後から声がして、私は後ろへ振り返った。
私と魔王様と同じように漆黒のローブを身にまとい、腰まで伸びたブロンズ色の髪の女性が、口元に手を当てて、まるで汚物でも見るかのように真っ青な顔で私の方を見下していた。
その女は1度ため息をつくと、すぐに真顔になり魔王様の前まで歩み寄り、話しかけた。
「魔王、長旅お疲れ様でした」
「うむ。なかなか良い旅であったぞ」
明らかに少年な姿をしているが、それにそぐわない言葉遣いに違和感を感じる。
魔王と呼ばれた少年は突然顔を右の手で覆い、笑いだした。
「くっくっく・・・ここが我が魔王城か!皆の者祝え!!私はただ今帰還しt」
「そんなことより魔王様、申し訳ございませんが、ここに今勇者一行が向かっており、間もなく到着するでしょう。しばらくお部屋で休んでてください。あとちょっとこの人お借りします」
女は魔王様の言葉を遮るように早口で話し始めたが、魔王様は部屋に戻る気配がない。
「なに!?さっそく我の力を勇者d」
「さっさと入ってください」
魔王様が言い終わるのを待つことなく、女は魔王様を部屋へと押し入れ、最後の抵抗を続ける魔王様のお尻を足で一蹴りして無理やり押し込むとドアを閉めた。
そしてくるりと私の方を向くと、私の腕をガシッと掴み、魔王様の部屋から離れるように強引に歩き出した。
「気付いてると思いますが・・・」
女は私を引き摺るように歩きながら話し出した。
「あの人はこの世界の本当の魔王ではありません」
知ってる・・・
「いや・・・もう魔王になってしまったんだけど今までの魔王とは違うというか・・・ああもう、ややこしいな!」
女はイラついたように言葉を吐き出し立ち止まると、再び真面目な顔になった。
「とにかく今は時間が無いので、簡潔に要点だけ説明します。まず、本来の魔王ですが、数日前に異世界に召喚されてしまいました。」
「・・・・・・はい?」
魔王様が召喚された・・・?
確かに、魔物や魔獣を呼び出す召喚魔法を魔王様が使う事はあるが・・・魔王様が召喚された・・・だと・・・?
召喚魔法を使うためには、召喚主が召喚する者よりも力関係が強い者である事が絶対条件のはずである。
恐らくこの人間界・・・魔界も入れても魔王様は世界最強な存在であるだろう。
そんな魔王様が一体誰に召喚されたと言うのだ・・・?
「魔王を召喚したのは、異世界の創造神です。つまり、召喚先の世界の神です。」
な、なんと・・・神に召喚されるとは・・・
魔王様・・・ついに貴方は神の領域にまでなられてしまったのですか・・・?
「それに気付いたこの世界の創造神が、魔王を連れて帰るべく、魔王のいる世界へ使者を送りましたが・・・魔王と間違えて彼を連れて帰ってしまいました」
「え・・・なんで・・・?」
どう見てもこの少年と魔王様は似ても似つかない・・・
なにがどうなったらそんなミラクルが起きるんだ?
「彼はちょっと特殊で・・・厨二病って分かりますか?」
「ちゅうにびょう・・・?」
女の口から出た言葉は、今までに聞いたことのない言葉だった。
そしてこの言葉の恐ろしさを、後に俺は身をもって経験することになるのだった。
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