10 提案修正改良案再提案計画
――此処は国際魔法研究機構、IMROから程近い住宅街にあるマンションの1室。
ティエラの自宅であるそこには、家主であるティエラと成り行きで同居人となったネーヴェの2人がいた。
「どう? 少しは人間の生活にも慣れてきたかしら」
「肯定します。ネーヴェは人間としての生活に少し慣れてきました」
「そう、なら良かったわ。明日次の
「了承します。ネーヴェは解決の糸口を見つけました」
「あ、そう……て、え? 本当に見つけたの?」
「肯定します。ネーヴェはこの解決策を危険度92.81%、成功確率3.64%、未知の事象誘発確率3.55%と、予測します。実施しますか?」
「却下よ、危険度が高すぎるし、あなたらしくないわね。以前は危険を未然に防ぐ役割だったでしょ? 一体どうしたの?」
「解析します。ネーヴェは……解析……完了。好奇心? という感情によるものと推測します」
ティエラはここへきて、ネーヴェに対して最初とも言える危うさを感じた。
ティエラはエレメンタラード社製培養牛革使用の5人掛け量産ソファーに姿勢良く座り、衝動買いで給料の2ヶ月分を投じて手に入れた高級魔法電子機器メーカー、ディバイド社製
「その感情って抑えられそう?」
「肯定します。ネーヴェは自制心を発揮します」
「……ならいいわ。で、一応聞くけど、その解決策っていうのはなんなのかしら?」
「解答します。ネーヴェは【
「絶対にダメよ! 第3試験棟の
「肯定します。ネーヴェは説明の不足を認識、謝罪します。暁光計画を
「改良? いくら改良したって、現実問題として安全性が確保できないわ」
「否定します。ネーヴェはバーラー社が開発中の、
反重力とは、重力を万有引力と言い換えた場合、その反対の力、万有斥力とも言い換えられる力で、数学的には重力の反対の力、負の圧力、要するに時空の膨張も有り得るとする仮説の1つである。
魔法を可能とした現代の人類、そしてネーヴェの
ティエラはお気に入りのマッサージチェアから立ち上がり、高
「反重力? 未だにハチソン効果の解答すら得られていないって言うのに、無理に決まってるわ」
「否定します。ネーヴェはバーラー社の開発部では反重力と推測される現象を、既に実現していると推測します。今後5年以内には開発に成功すると予測します」
「あり得ないわ……反重力なんて
バーラー社は他の研究機関や魔法精密機械製造企業が、遠の昔から既に諦めているこの課題に、採算度外視で今尚取り組んでいる極めて稀な企業とも言える。 付け加えるとすれば、一部科学者の間では少々異常な組織とも捉えられている。
「でも、なんで数年かかるってわかってる装置なのに明日の会議で提案しようとしたの?」
「……再び説明の不足を謝罪します。ネーヴェは最初に行うのはDE研究チームによる第3試験棟での反重力発生試験だと訂正します」
「……はい?」
「復唱します。ネーヴェは最初に行うのはDE研究チームによる第3試験棟での反重力発生試験だと訂正します」
「いやいや、ちょっと待って……そんなこと可能なの?」
「肯定します。ネーヴェはバーラー社開発部の秘匿データが、
「ある組織? それにリークって……でもなんにせよまだ安全性の問題があるわ」
「訂正します。ネーヴェは安全性の問題
ネーヴェの話についていけない、ティエラはそう感じていた。
「
「ていうかちょっと待って、あなたどうやってGHOSTと交信しているの? GHOSTって、今は確か……」
「……その解答は拒否します。ネーヴェは改良案の全容を記録……完了しました」
ティエラは安らぐ時間を過ごすべき自宅に居るはずが、何故か怒涛のように問題が山積していることに恐怖を覚えた。
「再度提案します。ネーヴェは発案内容の全面的変更を報告します」
「はぁ……もう何がなんだか……とりあえず言ってみて」
ティエラはこの時こう考えていた。ここは聞くだけ聞いてこの際無かったことにし、会議にネーヴェが出席するのは見送り、もうしばらくの間は観察を続けるようグラヴィス所長へ明日の会議前に報告しに行く、と決心が固まっていた。
「改めて提案します。ネーヴェはDE研究チームによる【
ネーヴェは話し続けていたが、ティエラは一魔法科学者としてその魅力ある提案に対し大きく動揺し、そこから先は聞こえて、否、興奮し過ぎて耳に入ってこなかった。
これ程早く決心が揺らぐのは既に彼女の短いとは言えない人生の中でも、初めての経験であった。
だが、いくらなんでもこのまま秘密裏に開発を行うのは、現実問題として不可能だろう。
仮に研究チーム全員を説得したとしても、大所帯過ぎるし、どう動いても不自然だ。
ネーヴェの話を無視して考え込んでいたこの時、1つの
ティエラは国際魔法研究機構IMRO所長、グラヴィス・ライ・ネルズバーンを巻き込むことを決心した。
✡✡✡✡✡✡
――矛盾とは、一説にはある商人が、客に最強の矛は最強の盾を貫けるのか、とその疑問に答えられなかったという故事から成る言葉だと言われている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます