9 空腹解決計画
――現在IMROのある場所はかつて中立国であった。数百年を経た結果、
現在時刻午前11時37分、ティエラは非常に困惑していた。
「具申します。ネーヴェは次にあのSushiと書かれた店に行きたいです」
「ネーヴェ、あなたまだ食べる気なの?」
「肯定します。ネーヴェの計算上では満腹度42%、よってまだ食べられます」
「はぁ……経費の上乗せ申請しないと持たないわこれ」
身体を手に入れてからというもの、ネーヴェは食事に対して強い興味を示していた。このまま行くと次の店で早4件目になる。
「表明します。ネーヴェは
「ティエラでいいわよ」
「要請を受諾します。ネーヴェは……ティエラ、この身体は空腹を訴えています。早急な解決を希望します」
「はいはい、じゃあいくわよ」
「思考します。ネーヴェはこの感情を解析……完了……歓喜と認定します。嬉しい?」
ティエラは首を傾げるネーヴェを尻目に、『Sushi』と彫られた木製の看板が掲げられた店に入った。
「いらっしゃいませ~!」
「ああ、えっと……2人です」
プライベートでは単独行動が多いティエラは、未だにネーヴェが同伴していることに慣れずにいた。
ネーヴェが店内に入って来たので、共に店員の案内に付いて行くと、少し奥の客席から聞き慣れた声がした。
「あれ? ティエラさんじゃないですか! 偶然ですね!」
「あら、クロムじゃない、何してんのよ」
「あ、え~っとですね。それが……」
ティエラはクロムがいたと思われる席を見ると、IMRO第2試験棟で容姿の美しさに定評のある女性研究員がそこにいた。
「クロム、別に遊ぶなとは言わないけど、ほどほどにしなさいよ?」
「あ、はい。そうします」
「
「あ、ネーヴェちゃんこんにちは! 今日はティエラさんと食事かい?」
「肯定します。ネーヴェはSushi? という物を食べにきました」
「へぇ~! ここのネタは最高だよ! この店は魚介の養殖場を近くに持ってて鮮度が抜群なんだ!」
――西暦2667年現在、海洋汚染は悪化の一途で、養殖場は陸地を掘って造られている。養殖場を所有していれば中堅以上の店というのが常識である。
また海洋で獲られた魚介類は非常に高価で庶民はまずお目にかかれない、尚水質が保全された海洋は世界中でも5%未満とも言われている。
「解析します。ネーヴェは……鮮度……検索……完了。食肉等の高品質を指す言葉と理解します」
「うんうん、そうそう。まあ食べてみてよ!」
「彼女、待っているわよ」
「あ、すいません。店員さんも邪魔してすいませんね。ではまた! ネーヴェちゃんバイバーイ!」
「解析します。ネーヴェは……バイバーイ……検索……完了。人間同士が別れ際に使う言葉と確認しました。バイバーイ」
ネーヴェはとっくに戻ってしまったクロムの方に向けてヒラヒラと手を振った。
ティエラはこの流れでクロムの隣の席に案内されては笑えないと思ったが、どうやら大丈夫なようだ。
「さ、ネーヴェ、座りましょ」
「賛成します。ネーヴェは脚部に疲労を体感しました。急ぎましょう」
「もうそんな言って、早く食べたいだけなんでしょ?フフ」
この日ティエラは結局夕方近くまで飲食店巡りに付き合わされ、疲労回復に使われるはずの休暇は無為に終わった。
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『――人間とは何か、それは生体を手に入れた意識か、意識を手に入れた生体か、この謎を解き明かす事は恐らく未来永劫無いだろう』
科学誌ヴァーハイト、ヒルダ・プルミエールへのインタビュー記事より抜粋
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