5 減給断固拒否計画

 ――魔法とは何か、それは人間の体内に埋め込まれた魔粒子封印核エーテルリアクターコアから生み出される精霊エレメントが、神経接続された魔粒子伝達制御装置エーテルリンクデバイスを通し、主に6つの属性に分けられた事象を使用者の任意に引き起こすことを指す。

 西暦2666年現在、魔法を扱えない者はほとんどいないが、特に扱いに長けた者達のことをこう呼んだ。


 ――【魔導師ザーヴェラー】と……。


 ――此処はIMRO第3試験棟2F会議室。

 そこにはティエラを始めとする各部門の班長12名が集められていた。

 途中何度も休憩を挟み、特に誰が案を出すでもなく完全に停滞している室内は、既に会議開始から凡そ8時間が経過していた。

 この会議は前回行った試験テスト番号146から3日後のことだ。


「あ~無駄無駄~だーれもまともに意見なんか出さないじゃな~い」

「そんなこと言うならティエラが出せばいいネ。私はいい加減お尻が痛くなってきたヨ」

「そうよね~あ~あ、誰かいないかな~閃きの天才」


 少なくともここに集っている者達は、俗に言う天才の中でも特に能力の高い者達である。


「カイン、あんた今絶対ゲームしてるでしょ」

「してないよ。僕に構わないで」

「構わないでってどういうことよ」

「無駄なんだよ、会議なんて」

「んなことはわかってんのよ、せめて目開けて喋りなさいよ、腹立つわね」


 この会議室は中央にU型のテーブルが置かれ、全員が大モニターを眺め易い様に設計されている。

 現在の会議室内の様相としては、誰が一番暇潰しに長けているのかしのぎ・・・を削っている状況である。


「……しゅに~ん、私帰りたいで~す」

「ケイ、私だって帰りたいのよ。でも何か1つぐらい案を出さないと、最悪全員減給よ」

「……それっていくらぐらいなんですか?」

「……200オルド」

「……マジですか」

「マジよ。信じられないわよね」

「……頑張りま~す」


 魔器製作技士デバイスクリエイター班長グスタフ・ハイスタインはIMRO内でも五指に入る程の天才だ。そしてIMRO内で五指に入る変わり者だ。


「ティエラ、僕に名案がある」

「はいグスタフ、どうぞ」

「GCに案がないか聞いてみよう」


 【GC】とは【GHOSTCopy(ゴーストコピー)】の略称で、人類の発明史上最高のAIの基幹構造メインシステムのコピーを魔粒子封印核エーテルリアクターコアに定着し、【魔制御基盤エテコン】の基幹構造メインシステムに移植したものである。


 主に各試験棟のセキュリティシステムの管理を担当し、研究員の監視、または事故を防止する為に使われている。始祖オリジナルのGHOSTとは違い動ける実体を与えられておらず、研究員達の認識としては音声だけの存在である。


「まあ、悪くないかもね。カイン、あんたちょっとGC呼んで」

「だから僕に構わないで! あと少しなんだから!」

「クロム、軽めに雷撃ライトニング一発やっちゃって」

「ええ~カインさんに怒られちゃいますよ~! この人陰険だから嫌なんですよ」

「聞こえてんだよクロム、構うなって言ってんのにもう……わかったよ、おいGC応答しろ」


 カインは面倒臭そうに目をゆっくり開くと魔導情報通信エルフォンの主任、班長しか使えない、専用回線を開いた。


 第3試験棟においてGCに直接指示を出せるのは、班長以上の権限がないと出来ない決まりとなっている。


「……おい、GC応えろ! 聞こえないのか!」

「あんたのその横柄な感じがGCも超絶に無理なんじゃないの?」

「……AIがそんなこと思うわけないだろ」

[秘匿回線接続、会議室内の研究員へ魔導情報通信エルフォンを介しての音声通信確立、IMRO研究員No.5386、カイン・シュヴァルツ本人の声紋及び魔粒子波長エーテルパターンを確認、命令を]

「おい、僕のNo.は5324だぞ、故障か?」

「キャハハハハ最高ネ! ゴミヤローって意味ネ! AIジョークヨ!」

「……ノアさん、うるさいです」

「怒ったカ?GCは賢いネ、人を見る目があるヨ」


 コピーとはいえGCには擬似人格プログラムが搭載してあり、日常会話程度なら楽々とこなせる。


[会議室での会話は音声記録として保存してあります。グスタフ・ハイスタインの発言『GCに聞いてみよう』]

「え、怖いんですけど、GCが俺の声マネしてるよ」

[声マネ……検索……声帯模写と認識、これは声マネではありません。録音再生です]

「バカドモは黙るネ、GC会議内容はわかってるネ?」

[本日の会議内容、議題に該当、または関連するデータ無し、議題を教えて下さい]

「……ちょっと遊びが過ぎたネ」


 ――エドワードはもう堪え切れないと我慢出来ずに立ち上がった。


「……ケムが家で待っている、会議を早く終わらせよう」


 今日の会議中一番の静寂が訪れた瞬間であった。

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