第4話「告白」

 あることを決心したディゼルがまず最初にすることにしたのは、告白ではなく根回しだった。


「と言うことで陛下に告白しようと思います。……よろしいでしょうか?」


「「「それで良い」」」


 本来仲の悪いはずの三公爵はディオンの説明を聞いた次の瞬間、息ぴったりの解答をすると全員同時に頷いた。


「頼む。エルザード子爵。早々に陛下を押し倒してくれ」


「ちょっと。言い方━━」


 公爵にあるまじき発言に思わず文句を言おうとしたディオンだが、発言の途中で別の公爵から肩を掴まれた。


「本当に頼むぞ。エルザード子爵。文句を言いそうな大臣たちは全て我々が押さえる。……まあこの状況で文句を言う者はいないだろうがな」


 全て任せておけと言おうとした公爵だが、言いながら次第に文句を言いそうな人物がいなさそうなことに気付いた。


「ええ、でもそれでも言いがかりに近い事を言う人はいるでしょうから。なにせ私は独身ではないので。なのでその人達を押さえてもらえるとありがたいです」


 一番文句言いそうだった公爵たちがこんな感じなので大丈夫だろうと思いながらもディオンはそう頼んだ。


「侍女たちにも戒厳令を敷いておくか」


 公爵の一人がそう呟いた。


「あっ。そこは大丈夫です」


 女王の側近として侍女達と仲のいいディオンだ。そこは問題とは思っていなかった。


 このように、三公爵は誰ひとり文句を言わなかったどころか後押しの姿勢だった。


 実は三公爵の誰かが猛反対してくれたらなという期待がほんの少しだけあった。ディオンのやろうとしているのはわかっていてもそれだけ問題のあることだからだ。


「本当にやるしかないか」


 ディオンは覚悟を決めるのだった。




 ディオンはエレンシアの自室を訪れた。


 騎士ディオンとして女王エレンシアを訪れたのではない。


 一人のディーとして幼馴染のエレンに会いに行った。


「どうしたの。ディー」


 元々プライベートな空間なのでエレンシアも威厳ある姿ではなくのんびりとしていた。


「エレン。話がある」


「なに?」


 色々とここに至るまでのことを思い出して、最初から説明しようとしていたが、あまりに長くなりそうなので端的に言うことにした。


「俺の子供を産んでくれ」


「いいよ」


 端的にしすぎて我ながらとんでもない事を言ったと思ったディオンだが、想定外の回答だった。


「いいの?」


「いいよ」


 既婚者から国の最高権力者への告白はあっさり成功した。


「あのさ。エレン。俺の言った事の意味はわかっているのでしょうか?」


 口調が変になりながらディオンはエレンシアに尋ねる。


「わかっているわよ。ディオンの子供を産めばいいのでしょう?」


 ちゃんと伝わっていた。


 エレンシアはディオンに近づく。


「それじゃあ早速。今夜の夜伽からお願いしようかしら」


 艶っぽい笑みでエレンシアはディオンに囁いた。


「えっ」


 ディオンは急に汗が頬を流れるのを感じた。


 自分で頼んでおきながら、いざそれが実現されようとなると戸惑いを隠せない。


「しっかりしてよ。ディー。私と違って経験豊富でしょう」


「女の子がそんな生々しい事言わないでくれ」


「女の子って、私ももう二十四よ。ディーがこの前言ったじゃない」


「歳は関係ないよ。何年経っても、エレンは俺の大好きな女の子だよ」


 さらりと言ったディオンの言葉にエレンシアは顔を赤らめた。


「エレン?」


 会話が止まってディオンはエレンの顔を覗き込む。


 見るとエレンシアは顔を真っ赤にしていた。


「だ、だいたいね」


 エレンシアはもごもごしながら声をあげた。


「なんでディーは挑んで来ないのよ」


「挑む?」


「私の婿を探す時。国中から挑まれた時もディーは挑んで来なかった。まだ結婚前だったくせに」


 エレンシアの婿探しの時の話に変わった。


「いや、だって、俺じゃエレンに勝てないから」


 実はルーネイス王国でも五本の指に入る剣の使い手であるディオンだ。婿選定時でも王国上位の実力者だった。


 それでもずっとエレンシアの傍にいて、エレンシアにはとても勝てないとわかっていて挑めなかった。


「ディーが挑んできたらわざと負けたのに。そして婿にしようとしたのに。なんで挑んで来ないのよ」


「ご、ごめん」


 思わず後ずさるディオンだった。


 エレンシアがそんな風に考えているとは思えなかった。


 二十年以上傍にいてもわからないことがあるのだと思った。


「ねえ。ディー。キスして」


「えっ。ここで?」


「今じゃなきゃダメ。いいわ。私からするから」


 ディオンとエレンシアの顔が近づく。


 エレンシアの長い金色の髪が、二人の顔を包んだ。




 王国歴五六一年。


 王国史上二人目の女王であるエレンシア女王。


 生涯独身を貫いた彼女であるが、五人の子宝に恵まれた。


 エレンシア女王は未婚のまま次期国王となる第一王子を出産。


 その王子を始め他の四人の子供の父親について記録は残っていない。


 その他の功績の多さから名君として名を残した人物の唯一のスキャンダルだが、そこに関して意図的に消されたのかどうかも不明である。


 その後、歴史には残らぬ話ではあるが、エレンシア女王の側近中の側近であるエルザード子爵の令嬢と、エレンシア女王の長男である王子との恋愛騒動などが起こるが、それはまた後の世の別の話である。

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女王陛下の婿探し @kunimitu0801

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