「ふふ、その顔を見ると僕のことを知っているようだね、西園寺レオ君。」


「な、なぜ僕の名前を。」


「そりゃあ、知っているとも。このVチューバーという活動に違和感を感じている君のことぐらい。」


なんだか、心の中が見透かされて様な感じがした。


「なぜ、僕がそんなことが分かるのか、君も疑問に思っているところだろう。まぁ、簡単なことさ。僕らもそうだからだ。そう考えているからこの場所を作った。」


「・・・一体どういうことですか?」


「君はこのVチューバーという活動をしてふと思ったことはないかね?これは本当の「自分」ではないと。」


「・・・」


それは・・・、よく考えることだ。

元々、自分の風体に自身がないから始めたこのVチューバーという活動。


最初はは楽しかった。

こんな見せかけの皮を被った僕でもたくさんの人に喜んでもらえる。

それはとても大きな自信になった。

現実で求められてなくても、ネットの中ではこんなに求められている。


だが、次第に疑問に思うようになった。

これは「僕」であって僕じゃない、と。


この「西園寺レオ」というのは「僕」であって僕じゃない。

求められているのは「西園寺レオ」という存在であって僕じゃないのだ。

それは当たり前のことだろう。

視聴者が見るのは外面だけであって中身、要するに中の人などは関係ないのだから。

ただ、そんな当たり前のことに気づいただけなのに僕は打ちひしがれた。


それからだ。

このVチューバーという活動に違和感を持つようになったのは。


だが、そんなことが今回の件に何の関係があると言うのだろうか。

いまいち、彼の考えていることが分からない。


「この活動に違和感を感じているとしても一体今回の件に何の関係があるって言うんですか?」


そう言うと彼はその爽やかな顔でフフフと微笑む。


「関係おおありさ。さっきも言ったが僕も君と同じ違和感を抱えている。ここいる皆もそうさ。だが、その違和感というのはなぜ生まれるか分かるかい?」


「・・・現実とこのヴァーチャルでの姿に対する評価の違いでしょうか。」


「うんそうだ、他にもあるが主にはそれだろう。それではその評価の違いというものを解消するにはどうすれば良いか分かるか?」


・・・何となく勘づいてきた。


「まさか、現実の自分を消し去って、このヴァーチャルの姿を自分として過ごすということですか?」


「ハッハッハッハッ、大正解だ。そうだ、僕はよく言われる中の人、いわゆる現実の自分というものを無くし、みんながキャーキャー言ってくれるこのヴァーチャルの姿を自分として過ごせば今まで味わってきた違和感なんかを解消できる。そう僕は考えたのさ。」


なんてぶっ飛んだ考えだ。

ヴァーチャルの姿に対してジェラシーのようなものを考えてしまうのなら、そもそもの違和感の元になっている現実の姿というものを無くしてしまおうということか。


「ぶっ飛んでいると感じるだろう。だが、そうでもしないとこの「違和感」というものはなくならない。だから僕は失踪という形でこの場所に来た。この場所ならヴァーチャルの姿で過ごすことが出来るからな。」


「ですが、配信などはここではできないのではないですか?現にあなたのツイッターなども半年以上止まったまんまです。」


「確かにここじゃ、配信も投稿も何もできない。」


「なら、なぜ、ここでまだ過ごしているのですか。あなたは配信をするうえでその違和感を無くすためにここに来たのではないのですか?それなのに配信が出来ないのでは本末転倒じゃないですか。」


「僕がまだここに居座っている理由は簡単さ。ここでの生活が気に入ったのだよ。何だったらこの世界から現実世界には簡単に戻ることが出来るのさ。そう言ったところは安心設計でね。だが、戻った先には僕の現実の姿がまだ残っている。ここの生活に慣れてしまったからにはもう戻りたくないのだよ。ここにいる皆がそうさ。」


「・・・」


「だってそうだろう。戻った先にあるのはあまりかっこよくない自分の体で過ごす対して楽しくのない人生だ。そんなの送るぐらいならここでヴァーチャルという名の理想の姿で夢のような生活を送る方が良い。ここに呼ばれたということは君にもそういう欲求のようなものが少しでもあるということだ。」


「確かにそう言う欲求は僕にも少しですがあります。僕は現実世界に戻ります。」


「ほう、何故だ?」


「これはこの姿は『僕』であって僕じゃないからです。僕はそう割り切っているから。」


僕はそう言い切るとキッと彼の目を見る。

彼も僕の目をじっと見ていたがフッと微笑むとこう言う。


「なるほど、君はそう言うことか。そう考えるのなら好きにすればいい。僕らは止めないさ。だけど知っておいてほしい。みんながみんな君のように割り切ることが出来ないということを。」


「・・・分かりました。」


「じゃあ、モカさん、彼を帰れるポイントまで案内してくれるかい?」


「分かりました。ではレオさん、案内いたしますのでついてきてください。」


「はい。」


そうして、僕は現実世界に戻る場所に案内してもらうことになった。



歩いて数分後


「ここです。」


「ここ、ですか。」


目の前に広がるのは一面光。


「ええ、この先に進めば現実世界に戻ることが出来ます。」


「なるほど、分かりました。案内してくれてありがとうございます。」


「本当によろしいのですか、レオさん?」


「ええ、いいんです。それに僕は西園寺レオではありません。××××です。」


「なるほど、そんなお名前なんですね。では、ここでお別れです、××さん。」


「ここまでありがとうございました。東雲さんにもよろしくお伝えください。」


僕はそう言い残すと前にある光に向かって歩く。

すると、すぅと気を失っていくのを感じる。

















********





気が付くと僕は見慣れた椅子に座っていた。

時計を見ると8時59分を指している。


パソコンの配信画面を見るとたくさんの人が待機してくれている。


俺は早速深呼吸をして配信用のスイッチに切り替える。


9時になるとオープニングを流して、オープニングが切れたタイミングでいつも通りのあいさつで配信を始める。



「はーい、皆さんこんばんわー!西園寺レオでございまーす。」




 

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それでも、画面の中のぼくは叫ぶ 御厨カイト @mikuriya777

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