第227話 計画とユーフェミアの錯誤
「こちらが提案書になります」
ユーフェミアさんは書類をテーブルに置いた。
「バーディーさんとサットンさんの二人は、『青き階段』に正式に入会して頂きます。
宿も『青き階段』の二階で良いでしょう。
メリアンさんと違って男性ですから、二段ベッドの大部屋でいけます。
『青き階段』に入会すれば、ソズンさんのトレーニングも受けられます。
周囲のベテラン冒険者から良い影響も受けられます。
費用は、まず三月分と考えました。
会費1万ゴールド✕2人分で、2万ゴールド。
宿代、1万5000ゴールド✕2人で3万ゴールド。
朝食と夕食のタダ券1月分、1万5000ゴールド✕2人分で3万ゴールド。
合計8万ゴールドの3月分で24万ゴールド」
ホゥ。僕は軽くため息をついた。
テーブルにいる他のメンバーも同じような顔をしている。
計画が具体的だ。
そして、高いが払えない額ではない、一応。
「もちろんこれだけでは済まないと思います。
装備を
場合によっては、新調する必要があるかもしれません。
バーディーさんとサットンさんのお二人が、冒険者として成功するためにコンサルが必要になるかもしれません。
その時は、改めてトビアスさんに依頼する必要があるでしょう」
「これすべてクリフ持ちになるわけか?」
トビアスさんが言った。
「いいえ。
バーディーさんとサットンさん、お二人には『レベル4魔石の借用書』にサインしてもらいます。
クリフさんがお二人にお金を貸す形になります」
ユーフェミアさんは答えた。
「『レベル4魔石の借用書』とは、どんなに契約なんですか?」
僕は質問した。
噂で時々聞くが、具体的には知らない。
「レベル4の魔石を取ったら、借金を倍にして返すという契約です。
冒険者ギルドに書類を提出します。
レベル4以上の魔石は冒険者ギルドに管理されますので、確実に差し押さえられます。
言っておきますが、借りる側に有利な契約です。
借りた期間を問わず、金額は2倍。
レベル4の魔石が取れなければ、返す必要もありません」
「『レベル4の魔石の借用書』か。
昔、たくさん書いたなぁ」
のほほんと言ったのは、ザクリー・クランマスターだ。
いつの間に!
「便利な契約なのか?」
コジロウさんが聞く。
「ツケが溜まると、この契約書に無理矢理サインさせられるのだよ。
2倍なら良い方で、3倍や4倍なんていう悪辣なのもあってな」
これは、そもそもツケを溜めなければ良いのではないだろうか?
ゴホン。ユーフェミアさんが咳払いした。
「バーディーさんとサットンさんは、今レベル4の魔石を取れる冒険者ではないようですし、貸し倒れの可能性が高いです。
でも、承知の上でお金を渡すとしたら、この契約が良いと思います」
ユーフェミアさんはまとめた。
さすがユーフェミアさんというべきか、納得のいく計画である。
えーと、実を言うと、僕は100万ゴールド出すとは言ったが、できたら安く済ませたいとも思っていた。
……でも、助けると決めた以上、中途半端はダメだよなぁ。
「ユーフェミアさん、俺はちょっと反対だな。
二人の心を解きほぐしながら、少しずつ説得する方が良い。
繊細な若者の気持ちを理解してほしい」
トビアスさんが言った。
「クリフさんがバーディーさんとサットンさんのために100万ゴールド用立てました。
つまり、彼らには100万ゴールド分のチャンスがあるということです。
二人がチャンスを生かせるようにサポートするのが、クランの役割だと思っています」
ユーフェミアさんは反論する。
「……。」
「理屈だけで考えるなら、ダンジョンも閉鎖されてますし、故郷に帰るべきです。
にも関わらすバーディーさんとサットンさんは、ロイメにいます。
二人は、冒険者として成功する夢も、ロイメの町にも、執着を持っているのではないでしょうか?」
「……彼らは、クリフの善意を素直に受け取れるだろうか?」
「チャンスがあれば、飛びつくのが冒険者です。
でなければ、成功できません」
「いやな」
「そうですね、借用書ですから、バーディーさんとサットンさん側にも代理人か公証人を立てましょう。
費用が
トビアスさんは軽くため息をついた。
「誰かの意思を曲げることは容易なことじゃないんだよ。
俺から見るに、二人はロイメで傷ついている。
俺も田舎から何も知らない状況でロイメに来たから、気持ちは少しわかる。
俺は、ゆっくり少しずつ田舎に帰るように説得した方が良いと思う。
次からは、俺が説得する」
トビアスさんは言った。
「確かに、人の意思を曲げるのは容易ではありません。
でも、それは承知の上で、クリフさんは助けたいと思ったのではないのですか?」
ユーフェミアさんが言った。
うーん、困った。どちらも理がある。
トビアスさんの計画は、当初僕がイメージしていたモノに近い。
ユーフェミアさんの計画は、バーディーとサットンの冒険者としての未来に関わっている。
100万ゴールドは出す。
としたら。
どちらが二人の将来のためになるだろう?
「ユーフェミアさんのプランでいきたいです。
僕がバーディーとサットンを説得します」
僕は答えた。
人助けってそういうモノで……、責任が伴うんだろ?
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