第226話 緑の瞳

「親父は僕に魔術師クランの二軍パーティーに入れと言ったんです。

次の探索クエストは、自分がリーダーを務めるからと。

でも僕は、絶対イヤだと言ってやりました。

僕はもう子供じゃないからと。


僕はその足で冒険者クランに行き、パーティー募集掲示板に張り出しました。

『1級魔術師、防御魔術が得意、攻撃魔術は苦手、ダンジョンに行くパーティーを探しています』


バーディーとサットンは、その場にいました。

僕に話しかけて来たんです。

『パーティー組んでいっしょにダンジョンに行こう』

そう言われました」


「で、田舎から出てきたばかりの二人組とパーティーを組んだわけか」

トビアスさんが言う。


「……そうです。

誘われてとても嬉しかったんです」



「二人のどういうところが気に入ったの?」

メリアンが尋ねた。


「二人は仲が良くて、希望に満ちていた。

そういう所に惹かれた。

バーディーの明るい緑の目は、日なたぼっこする綺麗なトカゲみたいな色だった」


「……へェー」

メリアンが引いた目になった。

なんだよ!


「あっと、メリアンの髪は黄色ニシキヘビのように綺麗だよ」

僕はリップサービスをした。


「それ、や・め・て!」



バタン。クランの扉が開く。


「おーい、ロイメ市の公共事業が始まるぞ!」





皆で調査したら、バーディーとサットン、二人の居場所はあっさり分かった。

下町の外れ、あまり治安の良くない地域エリアの木賃宿にいた。


公共事業が始まったので、二人は人足として現場に出ているようだ。


ここまで1日半。



2日目までの調査にかかった費用。

トビアスさんとダレンさんの日当……2万5000ゴールド。(1万5000ゴールド✕1.5日分)




3日目の夜、僕は『深淵探索隊』から報告を聞いた。


「バーディーとサットン、二人はかなり痩せていたなぁ。

あれは確かに、一旦、故郷くにに帰した方がいい。

だいたい人足は、ひと稼ぎしたら故郷くにに帰るもんだ。

どう見ても、無理な仕事をしている」

深淵探索隊の一人(多分リーダー)が言った。


「そんなことは分かってる。

二人はどうだったんだ?」

トビアスさんがイライラしながら言う。



今日、『深淵探索隊』は、バーディーとサットンと同じ人足仕事の現場に潜り込んだ。

トビアスさんの指示だ。


僕と直接関係のない『深淵探索隊』の面々が、さり気なく誘導して、二人が故郷に帰ってくれるなら1番良い。

トビアスさんの意見だ。


僕も同意した。

影から助ける、感謝はいらない。

それで良いじゃないか。



「一旦、故郷に帰った方が良いぞと俺は何度も言ったんだがなぁ……」


「だから、どうだったんだ!?」


「ちゃんと話しているだろ?

こっちの親切にも二人は聞く耳持たずだった。

昼飯も奢ってやったし、かなり親身になってやったんだぞ?」


「……。」


「僕も遠くから聞いていたけど、概ね間違ってないよ」

ダレンさん。


ダレンさんも今日は、同じ現場で働いていた。



「より、かたくななのはどっちだ?」


「どっちもどっちだな。

緑の目バーディーを懐柔すると、黒髪サットンかたくなになる。

黒髪サットンを説得すると、緑の目バーディーかたくなになる」


「そうか」


「あ、経費で昼飯代2万4000ゴールドな」


「僕も同じ店にいたけど、あそこは1番高い定食でも1000ゴールドだよ。

ビール一杯つけて、チップも払っても1500ゴールドぐらいかな?

1500✕8なら1万2000ゴールドだね」


「俺、計算苦手なんだよなぁ。

そのくらいだったかもしれない」



まったくもって、人助けは金がかかる。



3日目の費用

トビアスとダレンの日当……1万5000ゴールド。

『深淵探索隊』への依頼料……1万8000ゴールド。

経費(昼食代・ダレンの分を含めて9人分)……1万3500ゴールド。




4日目。

ユーフェミアさんが現れた。


「より合理的な仕事を提案したいです」


「あー、ユーフェミアさん、イキった若者を説得するのはそう簡単じゃないんたよ。

最初にバーディーとサットンのどちらを落とすか、決めにゃならん」

トビアスさんが、残り少ない頭の毛を掻きながら言う。


「100万ゴールドは、バーディーさんとサットンさんのためにクリフさんが用意したお金です。

トビアスさんやその他の皆さんがタカるためのお金ではありません」


「俺は、ちゃんと調査の仕事をしてるぞ。

あの二人は、装備の一部を質に入れている、とかな。

二人が無理してでも稼ごうとするのは、それが原因だろう。

プランBのことを考えたら、今、俺が二人に接触するわけにはいかないんだよ」


装備の質入れ。

二人は、そういう状況なのか。



ユーフェミアさんはトビアスさんを無視すると、僕の方を向いた。


「クリフさん、こちらに提案書をご用意しました」

青灰色の瞳を静かに輝かせて言う。


ユーフェミアさんの瞳は、日陰で休むトカゲの色に似ているんだな、僕はそう思った。

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