第225話 高難易度クエスト

「で、俺達が呼ばれたわけね」

裏からやって来たトビアスさんは言った。

隣には、ダレンさんもいる。


「つまり、クリフは、自分を追放した『暁の狼』のリーダーとサブリーダーを助けたいと。

そういうわけね」

トビアスさんは僕の正面に立つ。


「そうです」


「あー、クリフ。

ここはロイメ芝居のお約束があるだろ?

『お前ら、僕を追放するからだぞ。ザマァ、もう遅いんだよ!』

これで良いじゃないか。

人助けなんて面倒なことはやめておけ」


「僕は彼らを助けたいと思っています」


「クリフ、基本的な問題だ。

それは、ザマァするより難易度が高い」

トビアスさんはまとめた。



難易度が高い。そうだよな。

並大抵の気合では人助けはできない。



「彼らはまだ18歳です。

見捨てたくはありません」


「しかし、なんでそこまでお人好しになれるんだか」

トビアスさんはぼやく。



「トビアス、僕は別の意見だな」

ダレンさんが口を挟んできた。

「もし、二人を助けることができれば、追放劇は完全試合パーフェクトゲームで、クリフの勝ちだ。

野心のある若者クリフなら挑戦したくなる探索クエストじゃないかな?」


「野心か。

……若いやつはそういうモノだよなぁ」


トビアスさんはまじまじと僕を見た。


「この探索クエスト、僕は受けたいな。

うまく行けば、二人の若者が救われるだろう。

失敗すれば、才能ある野心家の若者は、世間の厳しさを知るだろう。

どちらにしても損はないさ」

ダレンさんは言った。



もしかして、才能ある野心家の若者って、僕のことですか?




「僕が使えるお金は、限界100万ゴールドまでです」


探索クエスト会議で、僕は最初に宣言した。


ダレンさんが口笛を吹く。

メリアンは、ギョッとしたように僕を見た。

100万ゴールドは、ニウゴと戦った『紅の悲劇』で稼いだ金と今までの貯金である。


100万ゴールドを払うのはキツイ。

魔石コンロも、時計も、一人暮らしも、当分諦めなければならない。


でも、やると決めた以上ケチっても仕方ない。

人助けは金がかかる。 今回得た第一の教訓だ。



「張り込んだなぁ」

トビアスさん。


「戦力の逐次投入は愚策だと本に書いてありました。

ただ、これ以上は厳しいです」


「100万ゴールドを口に出す時は、もっと慎重にな。

それから、今回の探索クエスト報酬だが、割り引いて1日7500ゴールドでいいぞ。

人助けに関わるサポートだからな」

トビアスさんが言った。


これが高いか安いかは分からない。

ベテラン冒険者を雇う値段としては安いけど、今、冒険者の報酬は下がっている。



受付のミシェルさんが目に入る。

ミシェルさんは小さく頷いた。


「1日7500ゴールドでお願いします」


「経費は全部別な」


ミシェルさんは軽く肩をすくめた。


「はい……」



しょうがない。助けると決めたのだ。

あ、そうだ。


「ナガヤ三兄弟とキンバリーの分も、報酬を支払います」

僕は4人の方を見た。


「我々は構わん。

手伝うと言った以上、手伝うだけだ」

コイチロウさんが言った。


「もし、途中で物が壊れたり、壊したりしてら、弁償分は請求させてくれ」

コサブロウさんが言う。


「私もそれで良い」 

キンバリー。


「……。」

メリアンはジト目で僕の方を見た。


なんだよ!しぶしぶだけど、助けるって言ったのはメリアンだろ?


「この探索クエストが終わったら、旨い肉でも奢ってくれ」

コジロウさんが言った。



「しかし、人助けがなぜ高難易度探索クエストになるのか?」

コジロウさんが言った。


「イキった若いヤツを説得するのは……、大変だぞ?

中年なら、金で解決するが」

トビアスさんが答えた。


そういうものだろうか?



「トビアス殿は顔が広いが、『暁の狼』についても詳しいようだな」

コイチロウさんがトビアスさんに聞く。


「まあな。『青き階段』で新しいパーティーを立ち上げる時に、調査したからな」

トビアスさんは答えた。


「あの時、トビアスは、『暁の狼』の崩壊は時間の問題だって言っていたよね?」

ダレンさん。


やっぱりそう見えたのか。



「その、つまりだ。

当時俺達は『青き階段』から探索クエストを請け負っていた。

探索クエストの内容は、これから『青き階段』の中心になるパーティーの立ち上げ、そしてメンバーのスカウトだ。

でな、第五層を目指すようなパーティーの中心になるのは、魔術師なんだ。

だから、俺はロイメにいる魔術師のリストアップをした。

当然その中にクリフが入ってくる」


「そうなるだろうな」


僕は魔術師クラン所属の1級魔術師である。


「俺はクリフの所属する『暁の狼』について調べた。

その時点で第一候補になった。

簡単にスカウト出来そうだったからだ」



「『暁の狼』は、凡庸なパーティーであったと?」


「『暁の狼』のリーダーはバーディー、サブリーダーはサットン。

クリフとメリアン、二人の魔術師が所属している。

そして幸か不幸か、魔術師二人の才能が全く生きていない」


「何が悪かった?」


「リーダーシップとパーティーの戦略、共に欠けている」


僕は何も言えない。

当時の僕は、『暁の狼』のどこに問題があるのか分かっていなかったのだ。



「クリフ殿は、なぜ『暁の狼』に入ったのだ?」

コイチロウさんが今度は僕に質問した。


う、えーと。


「えーとですね、魔術師クランで、親父と一緒のパーティーに入りたくなかったんです!」

僕は正直に答えた。



「納得した」

「親父と一緒は御免だな」

「気持ちはわかるぞ」

ナガヤ三兄弟は口々に言った。

言ってくれた!



ありがとう。


ナガヤ三兄弟の皆さんとパーティーを組めて、本当に良かった。



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