第228話 女子トーク

「バーディーとサットンの二人組を『青き階段』に連れてくる気か?

多分大変だぞ?」

トビアスさんは言った。


「そんなに大変ですか?」

ユーフェミアさんが尋ねる。


「『鋼の仲間』で問題を起こして辞めている。

だいたい、ウチのどこのパーティーに入れるんだ?

よほど優秀で、辛抱強くて、やる気があるリーダーで、パーティーの状態も良くないと……」


「二人が『青き階段』に入った場合、今の値段ではコンサルを引き受けられないということですか?」

ユーフェミアさんが確認する。


「まあ、そうだ」



僕は大きく息をついた。

なんとも言えない感情が胸に渦巻いていた。


「二人ともまだ若い。なんとかなるんじゃないかな?

だが、『青き階段』に来た二人に問題があるようなら……」

ダレンさんはここで一呼吸おいた。

「ユーフェミアさん、あなたを通さずに、副クランマスターホルヘさんか、ザクリー・クランマスターに報告を入れる」


「分かりました」




問題は山積みだ。

それでも、方針は決まった。

僕は書類を握りしめて、すぐにでもバーディーとサットンに会いに行くつもりだった。


トビアスさんに止められた。


「クリフが出て行っても、逃げられるのがオチだぞ。

俺とダレンがここまで連れて来てやる」


「僕は二人を取って食うつもりはないんですよ……」


「あの二人は、周りがみんなてきに見えるような状況なんだよ。

悪いことは言わん。

ここで待っていろ」


「……。」


まったく人助けは大変だ!




僕はロビーに座っていた。

トビアスさん達が、バーディーとサットン連れてくるのは明日以降だ。

トビアスさんは、俺とダレンなら連れてこれる、と言っていた。

多分その通りなんだろう。


ちょっと疲れた。



「バーディーさんとサットンさんは、どんな方たちなんですか?」

ミシェルさんの声がする。


受付前で、ミシェルさん、ノラさん、メリアン、キンバリーの四人組で話をしている。


「私が『暁の狼』に入った頃は、ちょっとおバカだったけど、それなりに良いヤツだったんだけどさ」


「それで?」


「クリフを追放した後、うまくいかなくて、だんだん焦りだして……」

メリアンは言葉を濁した。



「お二人はどういう関係だったんですか?」

ミシェルさんがズバリと聞いた。

ミシェルさんがこういうことをズケズケと聞くのは珍しい。


「た・だ・の、パーティーメイト!

そりゃね私、美人だし、結構モテるし、気のある素振りはされたけど。

別に特別な約束はしてないし、そういう関係になったこともない。

せいぜい手を繋いだぐらいよ!」

メリアンは大きな声で主張した。


メリアンの口ぶりからして、本当に何もなかったんだろう。

バーディーには気の毒だが、メリアンと手を繋いだことなら僕だってある。



「バーディーさんが、メリアンさんに気が合ったことは間違いないのですね?」

ミシェルさんが確認した。


「多分、まあ……」


「ちょっと心配です。

『青き階段』に来たバーディーさんが、メリアンさんに変なことをしなければ良いのですが……」


それは、考えていなかった。


「ええと、今までそういう意味でヘンなことはなかったし。

私、攻撃魔術も使えるし……」


「バーディーさんはだいぶ追い詰められているようです。

気をつけた方が良いです。

ユーフェミアさんの計画では、バーディーさんも『青き階段』に泊まることになります。

一つ屋根の下です」


メリアンは、相変わらず『青き階段』の二階に鍵付きの部屋を借りている。


「……。」



「私、いいこと思いつきました!」

ノラさんが明るく言った。

「キンバリーさんが、メリアンさんの部屋に泊まり込めばいいんです。

二人なら変なことは起きませんよ。ね?」


「それ、良い考えグッドアイディア!」

メリアン。


「私なら、いける。

床に毛布を敷けば、余裕で眠れる」

キンバリー。


「キンバリーにそんなことさせる分けないでしょ。

二人でベッドで寝ましょ!」


「キンバリーさんの分の簡易ベッドを入れるように、頼んでおきます」

ミシェルさんは言った。



……。

ミシェルさんは、僕に聞こえるように、わざと大きな声でこの話をした。


僕がバーディーとサットンを連れてくれば、僕が意図していない事象を導くかもしれない。

僕は『三槍の誓い』のリーダーで、メリアンはパーティーのメンバーだ。

どちらに責任を持つべきか。



「クリフ」

すぐ側でメリアンの声がした。

いつの間に!


「しぶしぶだとは言ったけど、私も今は、バーディーとサットンを助けたいと思ってるんだからね」


「……ああ」


「ここまで来たんだもの。

助けましょうよ。

なんとかなるわよ」


「そうだな」



受付で、ミシェルさんが軽く肩をすくめたのが見えた。



人助けは大変だ。

でも、なんとかしたいと僕は思ったのだ。


バーディーとサットンと会えたら、……とことん話し合わなければならない。


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