第222話 祝祭の後で
巨デブは、良く知ってる顔である。
東方ハイエルフのケレグントさん。
「ケレグントさん、本国に召喚されたんじゃなかったんですか?」
僕は聞いた。
「フッフッフッ、私の判断は間違ってなかったと、陛下は判断されました。
なんとかロイメに戻って来れましたよ。
ムシャムシャ。
うん、さすが『青き階段』のコック長、どれも美味いですねぇ。
大急ぎで戻ってきた甲斐がありましたよ!」
ソウデスカ。
僕の甘味は美味しいですか。そうですか。
「東方ハイエルフの国からロイメまで、良くこんなに短期間で戻って来れましたね……」
東方ハイエルフの国は、大陸の東、アキツシマ諸島のさらに東にある。
「魔石を使った転移の魔法陣で移動したに、決まっているじゃないですか。
我らが陛下はまことに偉大で、話が分かる。
まぁ、元老院の石頭どもに監視をつけられましたけどね」
僕はケレグントさんの隣に座っている人物に、目をやった。
フードを被っている。
さっきから気にはなっていた。
その人物は、一瞬のためらいの後、フードを取った。
「はじめまして。
監査役のグウェンディアです。
ハイエルフになったのは最近で、まだ400歳に満たない若輩者です」
グウェンディアさんは、東方エルフ特有の黒髪に青い目で色白、硬い雰囲気の美人だった。
しかし、400歳で若輩者か。
もはや突っ込む気にもならない。
「ケレグント!まさか一人で全部ご馳走を食べる気じゃないでしょうね?
皆の楽しみを邪魔してはいけませんよ!」
ユーフェミアさんがやって来た。
「いやー、本当に美味しくて。
あっ、こちらプリンセス・ユーフェミアです。
グウェンディア、挨拶しなさい」
グウェンディアさんは、ケレグントさんの指示の前に立ち上がっている。
そして、その場で
「プリン……」
「セスとか言ったら怒りますよ。
ついでに『青き階段』を出禁にします。
プリンセスの責任なんかクソ喰らえです」
ユーフェミアさんは、グウェンディアさんが
「あら、ケレグじゃない。
本国に帰ったんじゃなかったの?」
さらに後ろから、声がかかった。
レイラさんである。
「我が陛下のご叡慮で、なんとか戻って来れました」
ケレグントさんは答えた。
レイラさんは、ケレグントさんの隣にいる、グウェンディアさんに目をやる。
「あなた、ロイメでは新顔ね」
レイラさんは冷ややかに言った。
「はじめまして。
ドラゴン・スレイヤーのレイラ殿とマデリン殿ですね。
お噂は聞いています」
グウェンディアさんが
……けっこう背が高い。
僕と同じくらいか?
「ケレケレちゃんの後輩かぁ。
どんな魔術が得意なのかなぁ?」
マデリンさんが聞いた。
「えーとそれは……」
「グウェンディア、不用意に手の内を晒してはいけません」
ケレグントさんが止める。
レイラさんは、明らかに値踏みするようにグウェンディアさんを見ている。
「あなた、今度一緒にダンジョンに潜らない?
せっかくロイメに来たんだもの。
書類ばかり見ていてもつまらないでしょ」
レイラさんは軽く目を細めながら、言う。
「ダンジョンは楽しいよぉ。
レッツゴぉーだよぉ」
マデリンさんは、ちょっと人の悪い笑顔だ。
これは、一種の
ただ、僕には何もできない。しない。
君子危うきに近寄らず。
グウェンディアさんは、スッと背筋を伸ばした。
「機会があれば、是非とも同行させて頂きたいと思っています」
グウェンディアさんは、気合の入った声で言った。
「そうこなくっちゃね」
レイラさんは腰に手を当てて言った。
レイラさんは、
僕は話題を逸らすことにする。
「マデリンさんは歌わないんですか?」
「んーとねー。結婚式はぁ、
「それは、残念です」
本当に残念だ。
マデリンさんの歌は素晴らしいのに。
大賢者であるマデリンさんにもしがらみはある。
まあこれは、ヒト族である以上、当然か?
ハイエルフのケレグントさんなんか、しがらみだらけに見えるしな。
歌ったり、踊ったり、宴は夕方まで続いた。
宴も引けて、僕は帰り道を歩いていた。
まだ飲む
良い結婚式だった。
ホリーさんは、冒険者は一旦止めるらしい。
ちょっと勿体無い気もする。
まだ乗り合いの魔術船は動いているが、僕は運河の側の道を少し歩くことにした。
何度も歩いている道だ。
酔い醒ましにちょうどいい。
ちゃんと目立つ杖も持った。
いざとなったら、耐電・帯電コンボか、上級治癒術をかけてやろう。
ついでに言うと、僕は名と顔が売れてきたせいか、以前と比べて変な絡まれ方をしなくなった。
「おい、これは慰謝料に貰っていくぞ」
裏通りから、声が聞こえる。
「ああぁぁ?何だその不満そうな顔は?」
悪そうな声。
失業した冒険者同士のイザコザだろうか?
近くに僕以外に、道を歩いている者はいない。
仕方ない。
できる範囲で助けて、……いざというときは、脚力強化で逃げて、衛兵所に駆け込むか。
「お前達、何をしている!『照明』」
僕は裏道の人垣に向かって、明かりの魔術を使った。
これで逃げてくれれば、良いんだが。
ハッタリである。
男達は、突然の明かりに面食らったようだった。
冒険者風の服装だ。
大柄だな。前衛職だろうか?
「なんだ、貴様は!」
「杖を持っている!魔術師だ!」
「チッ、長居は無用だ。引くぞ」
大柄な男達は逃げていく。
ヨカッタヨカッタ。
3人相手に立ち回る自信はない。
マッタクない。
「大丈夫か?」
僕は絡まれていた相手に声をかけ、腕を取る。
冒険者風の服装だが、さっきの男達に比べると一回り小柄だ。
思ったより細い。骨が手のひらに当たる。
彼は、僕から顔を背ける。
ちょっと酒臭いけど、何もしないんだけどなー。
その時、雲が切れて月明かりが裏通りに差し込んだ。
人相が見える。
整った顔立ちの、まだ若い……。
「バーディー!?」
彼は、バーディーだ。
僕が追放された『暁の狼』の……。
バーディーは、僕の手を払い除けた。
「バーディー何をしているんだ!」
裏通りの奥から声が響く。
この声は『暁の狼』のサットン!
「サットン!」
サットンは僕を見た。
間違いなく見た。
「バーディー来い、逃げるぞ」
サットンは言った。
バーディーは素早く立ち上がり、かけ去っていく。
二人の姿は通りの向こうに消えた。
僕はそこに立ちすくんだ。
また、置いていかれてしまった。
祝祭の日は、これにて完結です。
次章は、「僕と『暁の狼』」になる予定です。
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