第221話 輪舞曲

「デイジーは、本当にかわいいなぁ。

この毛並み、銀をかしたようじゃないか」

ヘインズ男爵はすっかりデイジーに夢中だった。

デイジーをモフりながら、息子ハロルドさんと似たようなことを言っている。


ともかく、結婚式の会場は平和になった。

ヨカッタ、ヨカッタ。



ところで、さっき来た楽団の座長とユーフェミアさんが打ち合わせをしている。

これは、ダンスでも始まるんですか?



「ダンスよね?ダンスが始まるのよね?

曲は何かしら」

メリアンがウキウキと言った。


楽しんできてくれ、メリアン。

僕はここで甘味と一緒にいるから。



楽団がロイメのオーソドックスな輪舞曲を奏でだした。


「いいじゃない!

私、この曲好きよ!

みんなで一緒に踊りましょ。

ステップ簡単だし、楽しい曲よ」

メリアンが言った。


「ロイメのダンスか。面白そうだな」

コサブロウさんが立ち上がる。


コイチロウさんとコジロウさんも続いて立ち上がる。


「これなら踊れる」

キンバリーも。


「ほら、クリフも甘い物ばかり食べてないで。

ロイメ人なら、踊れるはずよ!」


えェェー。



会場の中央では人の輪ができて、ダンスが始まっていた。



そんなわけで、僕達『三槍の誓い』はメリアンに引っ張り出された。


僕達は踊りの輪に加わった。


曲は何度もリピートし、その度に列がずれて、パートナーが変わる。

男女のペアで踊れれば理想なんだが、男男のペアも女女のペアもできる。


言っておくが、ペアといえど、手をハイタッチさせて、回るぐらいだからな!



最初にメリアンとペアになった。

「クリフ、ちゃんと踊れてるじゃない」


メリアンは薄紅色のドレスを着ていて、良く似合った。


「これなら踊れるよ。

最近のリア充向けダンスは怖くて踊れないけど」


最近ロイメでは、男女が抱き合って踊るダンスが流行っている。

王都から入ってきたダンスだ。

そら恐ろしい。


パンとハイタッチして、くるりと回る。


「クリフらしいわ。

あれも、そんなに難しくないのよ!」

メリアンはカラカラと笑いながら言った。



パートナーが変わる。


キンバリーだ。

キンバリーは、無言で小さく頷いた。


キンバリー服は、白いブラウスの上に刺繍をした上着を着る、ロイメに古くからある晴れ着だ。

キンバリーの浅黒い肌に白いブラウスが良く映える。

なお、改造済みだ。

スカートに大きくスリットを入れて、下に黒いズボンを履いている。


「キンバリーはダンスは好き?」


「割と好き。楽しい」


ハイタッチして、回る。


キンバリーは運動神経が良いせいか、踊りやすい。

上手に僕に合わせてくれる。



え、僕は何を着ているのかって?

1級魔術師の儀礼用の服だよ。



パートナーが変わる。


おっ、コジロウさん。


「いやー、クリフ殿、気がついたこっちの輪に入っていたのだ」 


「男男のペアの方が多いくらいですからね。

今回は女性が足りません」


「メリアン殿と組める列に入りだがる男ばかりでな。

俺は数合わせでこっちにきた」


あー、ありそうだな。


ハイタッチして、回る。


コジロウさんと一緒に踊ると、圧倒的な筋肉が良く分かる。

コジロウさんは、はじめて踊る割に上手かった。



パートナーが変わる。


次は名前を知らない男だった。

うーん、『深淵探索隊』にいたっけ?


「ちっ、お前かよ、クリフ・カストナー」


「僕で申し訳ありませんねぇ」


男のダンスは僕とどっこいで下手だ。

踊りにくい。


「なあ、回る時に列を変われよ。こっちだと女の子と踊れないんだよ」


「下手なことをすると、転びそうなのでダメです」


なんとかハイタッチして、回る。



パートナーが変わる。


「げっ」

僕は思わず声を出す。


次は赤毛のネリーだった。


「何がげっよ、失礼ね」


「ちょっとびっくりしたんだよ。

来ると思わなかったから」


「忙しくて、さっき着いたのよ。

まあ、シオドアとヘンニのオマケみたいなものだけど。

トレーシーもいるわよ」


ネリーは、薄水色のドレスを着ていた。

ネリーも運動神経は僕とどっこいで、お互い合わせるのに苦労した。

ハイタッチは、掠った程度だ。



パートナーが変わる。


おっ、エルフの魔術師のセリアさん。

淡い緑色のエルフの晴れ着だ。


「お久しぶりデス。

人間族は、あっという間に結婚しマスね!」


「まあ、エルフ族に比べればね……」


「エルフ族にも突然結婚する輩はいるんデスケドね。

ああいう連中の気持ちは良く分かりまセン」


「まあ、難しいですよね」

僕も他人の気持ちを察するのは苦手だ。


ハイタッチして回る。

僕とセリアさんは、お互い他人の気持ちを察するのは苦手な者同士だと思うが、まぁまぁうまく回れたかな?



その後数人パートナーが変わり、次は。


ユーフェミアさんだった。


ユーフェミアさんは、濃い青のシンプルなドレスを着ていた。

ダンスはとても上手だ。

ええと。


「ダンスが上手ですね」


「この曲は得意です。

最近の曲は苦手です」


そういやユーフェミアさん、ハーフエルフなんだよなぁ。

歳いくつなんだろ。

以前、トビアスさんに聞いたけど、絶対教えてくれなかった。

ええと。


「皆が好きな曲で良い選曲だと思います。

僕も最近の曲は苦手ですし」


ハイタッチしてぐるりと回る。


「それは良かったです!」

ユーフェミアさんは笑顔で言った。


パートナーが変わった。



その後何人かと踊り(ほとんど男である)、曲の切れ目で僕は離脱した。



甘味を求めて、テーブルに戻る。

テーブルには巨デブが座っていた。


あー、取り分けてた甘味、ほとんどなくなってる!


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