第220話 デイジーはやっぱりかわいい
ネイサンさんが、前に出た。
「お初にお目にかかります。
私ははネイサン・タカムラ。
今日、あなたの娘のホリーと結婚の誓いを立てました。
ご挨拶が遅れて申し訳ありません。
改めて、祝福を頂けませんか?」
ネイサンさんは礼儀正しく言った。
「認めん!
娘が冒険者との結婚するなんて認めん!」
ここで完全な答え合わせか。
やっぱり
それにしても、駄目だな、この
聞く耳なし。
「「「Booo、Booo、Booo!!!」」」
冒険者達から、ブーイングが起こる。
こっそり僕も参加した。
「花嫁のお身内の方とお見受けします。
結婚式に間に合ったのは、幸いでした。
ここは、是非祝福を」
「偽物の
父親である私は許可を出していない。
結婚は無効だ!」
女性神官の額に青筋が立った。
ハロルドさんとホリーさんが話しているのが聞こえた。
「ホリー、なぜ、父さんがここにいるんだ?
連絡は結婚式を終えてからで十分だと言っただろ」
「結婚式の前に手紙を出すのが筋だと思ったのよ。
絶対間に合わないタイミングで出したのに。
まさか今日来るなんて……」
まあ、ロイメの郵便制度を舐めてはいけない。
王国よりは確実に早い。
今回は其れが
「王国の貴族だからって、冒険者を舐めるな!
ネイサンは『青き階段』のAランク冒険者だぞ!」
「自分は浮気してる癖して、娘の結婚は許さないなんて、とんだ横暴親父だ!」
「あきらめろ!もう遅いんだよ!」
冒険者達のブーイングはいよいよ激しい。
僕も一緒にブーイングする。
ロイメ舐めんな!
あ、ザクリー・クランマスターが出てきた。
ユーフェミアさんが側についている。
「えーと、私は、媒酌人のZ・パウア。
Sランク冒険者で、『青き階段』のクランマスターです」
Sランクを前面に出してきた。
これは、肩書きでゴリ押しする作戦か?
「父親の許可もなく、媒酌人を名乗られても困るな」
ヘインズ男爵は、尊大に言った。
「「「「Booo!Booo!Booo!BBBoooOOO!!!」」」」
そこでユーフェミアさんが耳打ちする。
「えーと、ロイメでは家父長制は取っておりません、とのことだそうで。
成人した男女は父親の許可なく結婚できます」
ユーフェミアさんは、さらに耳打ちする。
「そして、二人はロイメ市民です。
二人の意志で結果する権利があります」
「ロイメ市民だと?嘘をつくな。
ホリーもハロルドも、ロイメに来て大して
「二人いえ、『雷の尾』パーティー全員がロイメ市民ですな。
先日の救援活動の功績を認められました」
「フンッ。
うちの息子と娘は仕事をしたようだな」
ヘインズ男爵は、ニヤリと笑った。
ちょっと誇らしげだ。
言っておくけど、働いたのはあんたの息子と娘だぞ。
あんたじゃないからな。
「ここはロイメです。
ロイメの歴史は、王国より古いのです。
王国貴族と言えど、ロイメではロイメの法を優先して下さい」
ユーフェミアさんが言葉を添えた。
歴史や法という言葉は、ヘインズ男爵に効果があった。
悔しそうに黙る。
いい気味である。ザマァ。
「いえお義父さん。
ここは
あー、
とことん攻める気ですね!
「このアキツシマ人めがっ。
娘はやらんぞ!」
「父さん、もうやめてくれ」
ハロルドさんが割って入った。
「ホリーが結婚して辛いのは分かるよ。
今日は俺が一緒に飲んでやるから」
この一言で、冒険者達の空気が少しだけ柔らかくなった。
「あー、そっかぁー」
「娘が結婚するから拗ねてるわけね」
「気持ちは分るけどさー、ここは祝福してやれよ、な?」
「何を馬鹿なことを言っている!
私はホリーと冒険者との結婚なんて認めんといったのだー!」
「父さん、私はこの人の妻です」
ホリーさんがさらに割って入る。
めっちゃくちゃ、怒ってるぞ!
「この事実は揺るぎません」
そう言うと、ホリーさんはネイサンさんの首をぐいと掴みキスをした。
「「おおー」」
「「ヒューヒュー」」
まったく、どうしょうもない親父だな。
ここは潔く祝福してやれよ!
足を踏み鳴らす冒険者、怒り狂う女神官、怒鳴り合うヘインズ男爵とハロルドさん。
結婚式の会場はすっかりカオスだった。
そんな中、奥からデイジーが現れる。
結婚式に参加するためにブラッシングした後で、銀色の毛並みはいつにもまして、ツヤツヤのフサフサだ。
うん。やっぱりデイジーはかわいい。
「デイジー、こちらは、ホリーのお父さんだよ。
今、話し合っていいる所だ。
大丈夫、すぐにわかってくれるさ」
ネイサンさんは、デイジーをよしよしと撫でながら言った。
「ごめんなさいデイジー。
変なオジサンが来ちゃって。
すぐに皆に頼んでつまみ出してもらうから」
ホリーさんが言った。
この夫婦、言っていることが真逆だぞ。
「……ハロルド。
あの、信じられないほど美しくてかわいい生き物は何だ?」
ヘインズ男爵が、呆然と言った。
視線はデイジーに釘付けだ。
「ハーフ・シルバーウルフで、ロイメのアイドルのデイジーだ」
ハロルドさんは胸を張った。
「言っておくけど、デイジーにミルクを飲ませて育てたのは、ネイサンだから」
ホリーさんも胸を張って言う。
「……。」
ヘインズ男爵は硬直し、沈黙した。
長い長い沈黙だった。
ドワーフのソズンさんがビールを一杯飲み干した。
その間もずーっとデイジーを見ていた。
デイジーは大きく口を開けてあくびをした。
ソズンさんが、二杯目のビールを飲み干した。
どうする?どうでる?
「えーあーうー……。
……。
……ホリー、結婚は許可しよう」
「あー、ついてはネイサン君、君は私の義理の息子になる。
つまりデイジーは、ウチの子も同然!
だから、デイジーをもふらせてくれ!!」
ロイメでは、親子や血縁が似ることを、ラブリュストルの宿命と言う。
ハロルドさんとホリーさんとヘインズ男爵、3人のデイジーへの態度は、そっくりだ。
3人は、紛れもなく親子で、ラブリュストルの宿命を背負っていた。
「いいですよ、お義父さん」
ネイサンさんは笑顔で言った。
「ワン」
デイジーが一声吠えた。
予告
第15章もあと少しです。
そして、第16章は、『暁の狼』編になります。
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