第219話 スミマセン、もう遅いと思います

ロイメの吉日に、ネイサンさんとホリーさんの結婚式は行われた。


「ホリー、きれいだよ……」

ハロルドさんは、ホリーさんのドレス姿を見て、ちょっと切なそうな顔で言った。



大急ぎで仕立てたられたものだが、ホリーさんの白い花嫁衣装は素晴らしい出来だった。


どうして分かるかって?

メリアンがそう言っていたからな。

これに関しては信用していいだろ?


ともかく、ホリーさんは素晴らしく美しかった。



ネイサンさんは?


えーと、普通に格好良いんじゃないかな。

メリアンは、『服のデザインは良いけど、やに下がり過ぎ』と言っていた。

僕も似たような感想だ。



二人の結婚式は屋外で行われた。

『青き階段』の裏には広い敷地がある。

そこが会場となった。


会場の設営は、暇している冒険者達がバイトで手伝った。



媒酌人はザクリー・クランマスターだ。

ザクリー・クランマスターは独り身だが、2人は気にしないとのことだ。

僕から見ても、適任だと思う。



初老の小柄な結婚の女神ヴァーラーの女性神官が聖句を述べた。

二人は誓いを立て、指輪を交換する。

誓いのキスで結婚成立だ。


「「ヒューヒュー」」

冒険者達からは、いささか下品な声が飛んだ。


結婚の女神ヴァーラーは、二人を夫婦とお認めになりました」

女性神官が宣言する。


「「「おおぉぉおお!!」」」

今度は歓声が上がる。


これでロイメの法のもと、ホリーさんとネイサンさん、二人は夫婦となった。



誓いが終われば、さあ、宴会だ!


宴会パーティーは立食&バイキング形式だ。

冒険者は、大人しく座っている連中じゃないし、給仕も足りない。


会場の真ん中では、バーベキュー。

その周りにも野菜や甘味など様々な料理が盛られている。

『青き階段』のコック長が腕によりをかけて作ると宣言しただけあって、どれも美味しそうで、さっきつまみ食いしたけど、実際美味しかった。


宴会パーティーには、『青き階段』の冒険者以外にも、いろいろな人が来ている。

ネイサンさんは、ロイメの有名人なのだ。


お馴染みからは、レイラさんやマデリンさん。ヴァシムさんもいる。


『緑の仲間』のメンバーも見かけた。

セリアさん、スザナさん、シーラさん。


ホリーさんが手伝っている治癒院の関係者。


『デイジーちゃんと仲間達』が住んでいる村からも、人が来ている。

それでも、ネイサンさんは、村でもう一度結婚式を上げるつもりらしい。



会場の隅には、お祝いの品も置かれている。

僕達もお祝いを贈った。

ネイサンさんは、お祝いは無しで良いぞと言っていた。

でもまあ僕達、稼いでいるし。


品は、アキツシマ産の飾り紐だ。

ナガヤ三兄弟のチョイスである。

コイチロウさんによると、美しく丈夫で、様々な用途に使えるらしい。



僕達は、会場の隅のテーブルで、取り分けてきた料理を食べていた。


あー、この肉うまいな。タレもいい。

『禿山の一党』のバーベキューとは、レベルが違う。



「ホリーさんは、結婚はロイメの市民権を取ってからと思っていたらしいぞ。

すぐに市民権が取れて良かったのぉ。

ケレグント殿の土産は良い土産だった」

コサブロウさんが、ビールを飲みながら言った。


うん、僕もそう思うよ。

あ、このスープのゼリー寄せいけるな。

コック長に命令されて、冷やすための氷を作ったのは、何を隠そう僕である。

 


「ねぇ、今ちょっと思い出したんたけど」

メリアンが口を開いた。

「三つ子石を貰ったあなた達はいいとして、私とキンバリーとクリフの救援活動の報酬は?

貰ってないんだけど」


あー、そう言えばそんな問題もあった。


「私も貰いたい。私はプロ」


キンバリーまで!



どうしよう?

パーティー積立金から出すか?


「すまぬ。浮かれて失念していた」

コイチロウさんが言った。

「我々三兄弟が金を出して、3人の装備を購入するのはどうだろう?

三つ子石ほどの価値があるものは買えないが」

コイチロウさんが言った。


グッドアイディアだ。



「それなら、私高性能リュックが欲しい。

あと、新しい服と……」

メリアン。 


「レンタルで済ませて来た装備を購入したい」

キンバリー。


銀色大繭蛾シルバービッグモスで作られた下着アンダーウェアがいいな」

僕は言った。



銀色大繭蛾シルバービッグモスは、第五層に生息する。

銀色大繭蛾シルバービッグモスから取れる糸で作った服は、暖かく、涼しく、速乾性があり、丈夫だ。


本で読んだが、第五層は、気温の変化が激しく、突然雨が降ったりもするらしい。


その本には、第五層の攻略には、気候の変化に対応できる装備が必須だと書いてあった。

理想は、銀色大繭蛾シルバービッグモス下着アンダーウェアだとも。


「兄者、銀色大繭蛾シルバービッグモス下着アンダーウェアは、俺も欲しいぞ」

コジロウさん言った。


「そうだな。

パーティー全員で銀色大繭蛾シルバービッグモス下着アンダーウェアを作ろう。

2着ずつだ。

金は我らが出す。

これで、今回の報酬として納得してもらえぬか?」

コイチロウさん。


「いいんですか?

かなりの値段になりますよ?」


「構わぬ。

第五層攻略のための投資だ」


「やったあ!欲しかったの!」

メリアン。


「良い」

キンバリー。


オシッ。オシッ。オシッ。

良い流れが来ている。

それにしても、ナガヤ三兄弟は太っ腹だなぁ。



宴会パーティーは、いよいよ盛り上がっている。 

楽団もやって来た。


その時、楽団のメンバーをかき分けてやってくる一人の男が目に入る。

身なりは良い。

冒険者には見えない。


誰だ、あれ?



「その結婚、……ちょっと待ったあ!!」

男が息を切らしながら、それでも大声で言った。


「なんだなんだ?」

「どこの野暮天だぁ?」

「俺の料理は渡さないぞ」


冒険者達の視線は果てしなく冷たい。

当然だ。

いい気分で飲み食いしてるのに。



現れた男は、年は中年か、初老ぐらい。

灰色の髪で、灰色の口髭で……。


「ハロルドさん、そっくりだな」

誰かが言った。


うん。

ハロルドさんに良く似てる。

背はハロルドさんより少し低く、かなり痩せている。

でも似てる。ハロルドさんが老けたら、あんな風だろう。



「その結婚、待った。認めんぞ!」

ハロルドさんとホリーさんのお父さん(もうこれ間違いないだろ)は、再度言った。



冒険者達の視線は、さらに冷たくなった。

僕も冷たい視線を送っておく。


あー、スミマセンねぇ。

もう遅いと思うんですよ。


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