第217話 リーダーシップについて語る
僕と、ドワーフ族のヴァシムさんの数学教室は、1回では終わらなかった。
ヴァシムさんはまた来ると言い、次の約束をして帰った。
次の回、約束の時間に『青き階段』に行くと、超美形エルフのイリークさんがいた。
「私も混ぜろ」
イリークさんは、でかい態度で言った。
まあ、……いいけど。
かくして、僕とヴァシムさんとイリークさんの3人で、数学教室を開くことになった。
魔術師クランの教科書も持ち込んだ本格的なモノだ。
途中から、ユーフェミアさんも話を聞きに来て4人になった。
一緒に勉強すると、ドワーフ族のヴァシムさんとエルフ族のイリークさん、2人の違いが良く分かる。
ドワーフ族のヴァシムさんは、少しずつ確実に進むタイプだ。
ミスが少なく、一度覚えたことは忘れない。
多分、キッチリ復習もしている。
エルフ族のイリークさんは、理解力は素晴らしいが、一通り理解すると満足してしまうことがある。
多分、復習はやってないと思う。
そう言えば、例の歌では、怠惰なエルフ族と言われていたな。
当たっている。
「そこ、もう一度説明しろ」
イリークさんは言った。
「前回聞いた話だ。無駄な時間だ。
ちゃんと復習してこい。
途中でぼんやりしていたのは、貴様だ」
ヴァシムさんは言う。
「ドワーフ族の貴様の理解が遅いから、無駄に時間がかかって眠たくなったのだ」
「俺は確実にやる主義だ。
中途半端で満足するお前らエルフ族とは違う」
言い争いをする2人を前に、ハーフエルフのユーフェミアさんがニッコリと笑った。
「私はちゃんと復習も予習もしてきました。
どんどん進めていきましょう」
ユーフェミアさんの理解力は、僕から見ても凄かった。
これは、ハーフエルフだからか?
ユーフェミアさんが凄いのか?
多分、後者だな。
話は変わる。
その日、僕はロイメの商業地区の通りを早足で歩いていた。
人に会うためである。
こちらから頼んで時間を作って貰ったのだ。
僕が遅れるわけにはいかない。
小さな広場の角にあるカフェが待ちあわせ場所だ。
「クリフ・カストナーさん、こんにちは」
カフェの前で声をかけられた。
あー、先に来てる!
「すみません、わざわざ時間を作って頂いたのに、僕の方が後になってしまって」
僕は軽く謝罪する。
「いえいえ、私の方が早く来すぎたんです。
約束の時間までまだあります」
マークさんは言った。
マークさんは、薬草取りのイベントで出会った。
薬草採集を仕事にする女性を中心とするパーティー、『黄緑の仲間』の黒一点だ。
外見はしょぼくれた中年のオッサンだが、人は見かけによらない。
以前は、南ロイメ商会の番頭だったらしい。
リーダーシップについて話しを聞かせて欲しいと、手紙を書いたのだ。
『三槍の誓い』は、うまくいってると思うけど、ヒヤヒヤすることも多い。
主にメリアンとか、メリアンとか、メリアンとか!
女性メンバーをたくさん抱える、マークさんの話は参考になるだろう。
マークさんと僕はコーヒーを頼み、テーブルに座った。
うーん、カフェに座っている客が、以前よりも少ないような気がする。
やはりダンジョン閉鎖の影響だろうか?
まず僕は、現状を説明する。
第二層の救援活動の途中で、メリアンが引き抜きにあった話とか、むくれて爆発した話とか。
「私の見たところ『三槍の誓い』は、様々な個性が集まっているパーティーです。
多様な個性が集まるパーティーは、そうじゃないパーティーよりも強いと思いますよ」
僕の話を聞いたマークさんは答えた。
「そうでしょうか?」
「私は、問題児も1人や2人はパーティーにいても良いと思っていますね。
彼らは状況の悪化に敏感です。
問題児が騒ぎ出した時点で、何が起きているか調べることです。
だいたい女性は、警戒心が強いものです。
それは利用できる面もあるのでは?」
そういう考え方もできるか。
つまりメリアンが、騒ぎ出した時点で何かが起きている。
注意しろと。
「……問題児の不安が、他のパーティーメンバーにどう伝播するかは気をつけた方が良いです。
でも私の見たところ、『三槍の誓い』の皆さんは、落ち着いてます」
確かにナガヤ三兄弟は、僕より落ち着いている。
キンバリーもかなり冷静だ。
というか、『三槍の誓い』でメリアンの次にパニックを起こすのは、僕じゃないだろうか?
「リーダーだからと言って、全部自分でやろうとしないことが重要です。
パーティーはお互いの協力が大切です」
マークさんは真面目な顔になる。
「協力してくれないメンバーがいたらどうしますか?
追放しますか?」
僕は聞いてみる。
「まずは話し合い、問題を洗い出します。
全て解決できるかどうかは分かりませんが、一部でも、解決できる問題はあるでしょう。
それから、リーダーシップの大切な機能は教育です。
最初から理想的なメンバーなんていません。
協力的でないメンバーを協力的なメンバーへと、教育していかなくてはなりません」
「教育、ですか」
「教育の過程で、私の方が教育されることもありますよ。
教育は相互作用ですから」
濃い。さすがマークさんだ。
「それからメンバーを追放する時は……」
マークさんは声を低くした。
その時だ。
「マークさーん。南ロイメ商会の土地を買いたいという方が!」
僕より少し年上と思われる男がやってきた。
商会の事務員という感じだ。
「不景気な今、売っても買い叩かれるのがオチですよ。
で、どこの誰ですか?」
マークさんは若い男と何やら話している。
「ホウホウ、一応、話は聞いておいた方が良さそうですね、後で行きます」
若い男は去って行った。
「『南ロイメ商会』の土地を売るんですか?」
僕は聞いてみた。
「若奥様から、財産の始末を頼まれてまして」
マークさんは答えた。
えーと、マークさんて、『南ロイメ商会』を追放されたんじゃなかったっけ?
「『南ロイメ商会』はどんな状況なんですか?」
トビアスさんが、あそこはもう駄目だと言ってたんだよな。
「商会は潰します。
不動産が残りますし、若旦那のご家族はなんとかなるでしょう。
後は、従業員ですね」
マークさんは言った。
「えーと、追放されたマークさんが、後始末をやってるんですか?」
「亡き大旦那様にはお世話になりましたし、最期に息子を頼むと言われてますので」
マークさんは淡々と答えた。
当然という口調だった。
できる男は大変だ。
あ、これはハロルドさんの時も感じたなぁ。
僕はマークさんに御礼を言い、御礼も渡し、握手して別れた。
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